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2024年04月02日21:00

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映画『遠いところ』

『遠いところ』(日本)
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「映画、ではなく現実 次世代に残してはいけない問題がここにある一一」
エメラルドグリーンの海と、華やかに賑わう国際通りしかイメージがない沖縄には、戦後から現代まで未だに続く負の連鎖の知られざる問題がある。知らなかったのではなく、知ろうとしなかった慢性的経済欠陥をこれでもかと容赦なく見せつける辛辣なこの映画は鑑賞側に覚悟が求められる。
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輸送費問題で製造業が発展しない沖縄は失業率が高い。若年層の働き口が足りないことによる貧困、その歪みから始まる格差社会と差別、そして暴力。この物語は沖縄の日常を見せているのだと工藤将亮監督は訴える。沖縄県コザの繁華街。17歳にしてキャバクラで働くアオイ(花瀬琴音)は、2歳になる息子の健吾(長谷川月起)と夫のマサヤ(佐久間祥朗)の3人暮らし。定職に付けず健吾の面倒すらみられないマサヤは、それを咎められると逆ギレしてアオイに暴力を振るう。キャバクラに未成年労働者摘発のガサ入れが強行され、一緒に働く同級の海音(石田夢実)達と裏口から逃げるアオイ。繁華街を裸足で走る彼女たちの姿は、10代の眩しい青春を感じる希望を期待したくなる。だが、この街の現実はそれを真っ向から否定する。
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10代の出産率が全国平均の2倍。1人あたりの県民所得は最下位。世帯辺りの非正規労働者率全国1位。最低賃金水準最下位。失業率も全国最多。貧困率は全国平均の2倍。人口当たりのDV件数率全国3位。そして離婚率1位。次々と出てくるこれらの数字を知ることで、アオイの物語は更にリアルに肉付けされる。
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元々はジャーナリストを主人公にして、沖縄の若年層世代の過酷な現実を描く群像劇として始まった本作の企画は、ある16歳の少女を取材したことをきっかけに変化したという。13歳からキャバクラで働き、シェルターや児童相談所に保護されながらも、彼女が生きる術を求めた先・・・それがそのままアオイの物語として焼き直しされることになった。父親には2度と顔を見せるなと見捨てられ、母親は拘置所から出てこられない。育ててくれた祖母は高齢で、頼るものがない境遇から始まっていく過酷な転落人生。生活臭が目に染みるアパートで、アオイはトイレに身を隠す。やっと稼いできた僅かな生活費を勝手に持ち出して、行方を眩ましてしまうマサヤ。働かないダメ男に同情の余地はないが、学歴や資格のない男には、仕事が極端に限られているのも沖縄の現実。観光業だけが街の大きな収入源となれば、子供を育てないといけないシングルマザーの働き場所は、必然の如く水商売に流れ着く。
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マサヤに殴られたアザのせいでキャバクラでも働けなくなったアオイは、家賃も滞納状態のため、仕方なくマサヤの実家で暮らし始める。昼間の仕事を探しても時給792円に呆然となり、手を差し伸べる社会的機関は児童相談所になるが、職員は育児に問題があると判断してアオイから健吾を取り上げてしまう。
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メッセージ性が強過ぎるから敢えてなのか、この映画では登場人物たちに心理描写を語らせようとしない。何故そうするのか、しないのか、問題をどう解決すればよいのか判らないジレンマは、自業自得と言って済ませればそれで終わりなのかも知れない。本作の主人公は上手く折り合いを付けた生き方ができるスキルはない。あったとしてもこの街では簡単には見いだせないだろう。アオイがなぜ十代で結婚して子供を産んだのか、クズのような夫とどうして別れないのか、周りの大人達は何故に誰も救おうとしてくれないのか……沸々と湧いてくる疑問符に、本作は答えを用意することなくその先を綴る。
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この作品でも描かれるシーミー(先祖を敬う沖縄行事)を行うような、伝統のある一族の身内の集まりに参加した経験がかつてある。一族若年層の男衆だけを集めて、族長が説教をする場面を目の当たりにしたが、その時代錯誤な男尊女卑的発言に嫌悪した思い出がある。そんな人々が沖縄にはたくさんいるということなのか。
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アオイには依存関係に溺れる甘さ、目先にしか思考が向かない短絡性がある。それが自らを追い詰めて、彼女の辛い思いはジリジリと募るばかり。行政の支援すら彼女には悪であり、一番の親友であった海音とも最悪の別れ方をしてしまう。事実だけが突き付けられ、その心理を悟りきれないまま、更に追い詰められていくアオイの物語。そこには救いのかけらすら見当たらず、観光地としてしか知らなかった沖縄が、これまでよりも更に遠い存在に感じられてくる。
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主演の花瀬琴音が素晴らしい。短絡的で感情に溺れ、未熟過ぎるが故に何も問題を解決できない悲劇の少女、悲劇の母親を演じる。健吾を施設から奪い返して海に入っていくラスト、夜明けを告げる朝日がアオイと健吾を照らすカットは屈指の場面。悲劇的な結末にも見えるが、アオイはこれからも必ず生きていくと信じたい気持ちに力が入る。

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