mixiユーザー(id:1609438)

2024年02月20日15:19

20 view

円安長期化に悩む「仮面の黒字・債権国」日本、戻らぬ円とデジタル小作人の末路

円安長期化に悩む「仮面の黒字・債権国」日本、戻らぬ円とデジタル小作人の末路
唐鎌大輔:みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
政策・マーケット
政策・マーケットラボ
2024.2.20 5:05 有料会員限定
円安長期化に悩む「仮面の黒字・債権国」日本、戻らぬ円とデジタル小作人の末路
Photo:PIXTA
2024年に入っても円安に歯止めがかからない。23年の経常収支の黒字は22年に比べ大幅に増加したが、日本に円転され還流するかを基準にしたキャッシュフローベースの収支では依然赤字が続いている。日本は“仮面の黒字国、仮面の債権国”にすぎない。米国のプラットフォーマーへの依存をやめられない以上、デジタル収支の赤字は拡大し、円安圧力となり続ける。(みずほ銀行調査部チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)

経常収支は統計上は大幅に
改善したが円安止まらず
 円安が止まる気配がない。この点、2月8日、財務省が発表した2023年の国際収支統計は日本経済の現状や展望を議論する上で極めて有用な情報を与えてくれるものであった。

図表:日本の経常収支
拡大画像表示
 とりわけ22年3月以降、日本が直面している執拗な円安局面を考察する上で、国際収支以上に言及すべき材料はないと筆者は考えている。

 まず、ヘッドラインとなる経常収支は20兆6295億円の黒字と2年ぶりに20兆円台に復帰した。黒字額としては前年比9兆9151億円の増加であり、その増加幅のほとんどは貿易収支の赤字が半減以下(同9兆1146億円)に改善したことで説明できる。

 さらに言えば、貿易収支の赤字の減少は言うまでもなく資源高の一服で輸入が大幅減少(同7兆6092億円減)したことで説明可能だ。

 貿易収支以外では、サービス収支赤字が大きく減少(同2兆3262億円)したことも経常収支の黒字の押し上げに寄与している。これは旅行収支の黒字が3兆4037億円と、19年に記録した過去最高の黒字(2兆7023億円)を大幅に更新したことの結果である。

 22年は6242億円だったので、サービス収支赤字の改善は基本的に旅行収支黒字の増加で説明できる。ここまでの段差が生じているのは23年の途中(5類変更が行われた5月)まで入国における水際対策が残っていたためだ。

 今後は3兆円台の旅行収支黒字が前提になるだろう。このように23年の経常収支黒字は基本的に貿易サービス収支赤字が大きく減少したことと表裏一体である。

図表:日本のサービス収支
拡大画像表示
 経常収支が大幅に改善したにもかかわらず、23年も円相場は円高方向に大きく振れることはなかった。その背景を次ページ以降分析してゆく。

CFベースの経常収支は2年連続赤字
デジタル収支の赤字は今後も拡大
 ここまでが一般的な報道に即した情報整理になる。しかし、為替市場を分析する上ではこうした「統計上の黒字」にかかわらず、「実務上のキャッシュフロー(CF)」を見る努力が必要になる。

 この点は過去の本コラムへの寄稿『日本が経常黒字でも円安な理由、外貨で再投資される「戻ってこない円」は24兆円超』でも議論させていただいている。結果的に政府・官僚・企業、多方面から強い関心を頂いている。恐らく、実感と合致すると考える向きが多いのではないかと察する。

 結論から言えば、筆者試算のCFベース経常収支で見ると、23年は約1.8兆円のマイナスと2年連続で赤字だった。

図表:キャッシュフローベースの経常収支の実情
拡大画像表示
 もちろん、22年は約10兆円のマイナスであったため、円の需給環境が改善しているのは間違いない。

 しかし、「統計上の黒字」が増加していることを手放しで評価し、過去の悲観論を腐すような論調は明らかに本質が見えていない。事実として22年も23年も円安が進んだことを虚心坦懐に受け止め、筆者は「統計上の黒字」ではなく「CFベースの赤字」を重視したい立場である。

 具体的に言えば、23年の第1次所得収支の黒字は34兆5573億円と過去最大を更新しているが、CFベースで経常収支を検討する上では受け取りにおける証券投資収益における債券利子や配当金、そして直接投資収益における再投資収益は円買い(以下円転と呼ぶ)が発生しない取引として控除しなければならない。

 厳密に言えば、債券利子や配当金でも円転が発生する取引はあるだろうが、基本的に海外有価証券から発生するそうしたフローは複利効果を企図して外貨のまま再投資される方が圧倒的に多いはずだ。再投資収益に至っては「外貨のまま現地に残る」が定義になっているので、これは確実に円転が見込めない。

 こうした視点に立つと23年のCFベース第1次所得収支の黒字は約12兆円と3分の1強のイメージに縮小する。もちろん、試算ゆえ幅を持った解釈が求められるものの、35兆円近くの第1次所得収支の黒字がそのまま円買い需要として為替市場に表れているということはあり得ない。

 また、近年、日本の経常収支を議論する上ではCFベースを重視した上述のような議論に加え、サービス取引の国際化に合わせてサービス収支の展望に気を配るべきだというのが筆者の従前の立場だ。

 この点、冒頭述べた通り、旅行収支の黒字が過去最大を更新しており、今後、メディアでもこの論点が取り沙汰されるだろう。しかし、その他サービス収支の赤字も5兆9556億円と過去最大を更新している。

 旅行収支黒字とその他サービス収支赤字の2項目で過去最大が併存しているのが現在のサービス収支であり、筆者はこれを「肉体労働 vs. 頭脳労働」だと表現してきた。これはサービス収支をモノ・ヒト・デジタル・カネ・その他の5分類で整理すれば、より可視化される。

図表:組替え後サービス収支の激化
拡大画像表示
 23年のサービス収支の赤字(3兆2026億円)のうち、旅行収支を反映するヒト関連収支が3兆3501億円のプラスであるのに対し、デジタル関連収支は5兆5360億円のマイナスだ。サービス収支はこの2項目のバランスで決まる。

 今後を展望すれば、圧倒的に肉体労働が不利だろう。というのも、既に日本では生産年齢人口と就業者人口が接近しつつある。今後10年程度で人手不足はさらに極まっていく未来は見えている。

 業種別に議論すれば旅行収支の基盤となる宿泊・飲食サービス業が史上最悪の人手不足に直面しており、物価や為替が安いという理由でインバウンド需要が一方的に膨らんでも、これをさばくだけのインバウンド供給はもはや天井が近い。

 23年に3.5兆円まで到達した旅行収支の黒字の伸び代はまだあるのかもしれないが、「限界は近い」という認識は持ちたい。

 片や、デジタル関連収支は基本的に供給側の言い値で単価がつり上げられる世界であり、赤字拡大は今後も十分想定されるだろう。

 極端な話、GAFAMのサービスがない日常生活を想像できるだろうか。現実的ではあるまい。値上げを切り出されても拒否できない以上、日本がデジタル関連収支に支払う外貨は今後も膨らむ公算が大きく、これに伴ってサービス収支の赤字の拡大基調が続く可能性は高いと言わざるを得ない。

 だとすれば、肉体労働と頭脳労働の帳尻は何かで合わせなければならなくなる。その調整弁が円安ではないのかというのが筆者の抱く懸念だ。

日本は「仮面の黒字国」
ないし「仮面の債権国」
 国際収支の発展段階説に照らせば、11〜12年頃を境として日本は財の貿易で外貨を稼ぐのではなく、過去の投資の成果として外貨を得るという典型的な「成熟した債権国」に移行している。

 22年9月に上梓した拙著『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社)ではこの立場を疑うべきだという主張を展開したが、その思いは今も変わっていない。

 相変わらず「統計上の黒字」に拘泥して「国際収支にまつわる過度な悲観論は誤りだった。成熟した債権国の立ち位置は変わっていない」という主張もまれに見かけるが、果たしてそうだろうか。

 上述の議論を踏まえ、1950年代に提唱された国際収支発展段階説を現在に持ち込むにあたって、少なくとも2つの注意点が指摘できるだろう。

 一つは経常収支黒字の主柱を成す第1次所得収支黒字の7割弱が自国通貨に回帰してこないという状況が想定されていないこと、もう一つはサービス取引の国際化(とりわけデジタルサービス取引)が隆盛を極め、その供給側(≒米国)の価格支配力が極度に強まるという状態も想定されていないこと、である。

「統計上の黒字」を見て安堵感を持つのは自由だが、現に経常収支黒字を抱えながら円安に直面しているのだから、その理由も真摯に考える必要がある。CFベース経常収支は筆者なりの回答である。

 また、サービス取引に関して言えば、企業部門でも家計部門でも米巨大IT企業の提供するプラットフォームサービスを定額課金で購入している状態が日常生活にビルトインされてしまっている。

 しかも、上述した通り、彼らの値上げに抗する力はほとんどない。それゆえにデジタル小作人やデジタル農奴といった言葉で主従関係が皮肉られる現状に陥っている。

 少なくとも現在から将来にわたってデジタルサービスの利用が減るという展開は考えられないのだから、貿易サービス収支におけるサービス収支の比重は今後ますます高まることが予想される。

 GAFAMのようなプラットフォーマーのサービスから離脱し、あらゆるデジタルサービスが国内で内製化される状況を想定しない限り、サービス収支赤字はデジタル関連収支主導で拡大していく公算が大きい。内製化の公算は小さいだろう。

 第1次所得収支黒字からの円転需要が細り、サービス収支赤字によって貿易サービス収支の改善も進まないのだとすると、CFベース経常収支というレンズを通して見た日本の実情(より正確に言えば円の需給環境)は「成熟した債権国」というよりも「債権取り崩し国」の方が近いのではないか。

 なお、長年、円の安全性を担保してきた「世界最大の対外純資産国」というステータスも、その解釈には注意を要する。対外純資産は経常収支黒字の累積なので当然、その性質は過去から変化している。端的に言えば、現状、日本の対外純資産残高の半分は直接投資で構成されるようになっている。

図表:本邦対外純資産に占める直接投資および証券投資の割合
拡大画像表示
 これは11年頃から日本企業が行ってきた旺盛な海外企業買収などの結果だ。買った会社を簡単に売却することはないのだから、この部分は「売られたまま戻らぬ円」と考えられる。00年代初頭であれば、対外純資産残高のほとんどが海外有価証券であったため流動性も高く、還流が期待できたが、今はそうではない。

 保有している外貨建て資産の多くが戻ってこない(戻す当てのない)資産ならば、対外純資産国としての表情もまた、仮面である。もちろん、本当に制御不能な円安相場に直面し、国を挙げて通貨を防衛する段階に入れば、外貨建て資産を国内へ強制シフトするような力業も検討されるかもしれない。

 例えば、穏当な手段としては22年の円安時に期待する声も上がった企業部門へのレパトリ減税などは好例である。しかし、民間部門の資産保有形態にまで干渉して為替需給の改善を図ろうとする行為は少なくともG7では御法度に近いもので、現時点で想定すべきシナリオとはいえない。

「仮面の黒字国」ないし「仮面の債権国」として経験する円安にどこまで政治・経済・社会が耐えられるのか。23年の国際収支公表を受けて、その黒字水準を楽観的に騒ぐのではなく、その背後にある変化を見定めていきたいと思う。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年02月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
2526272829