mixiユーザー(id:1609438)

2024年02月05日12:46

8 view

『日本製鉄の転生』

上阪欣史・著 日経BP



過去最大4300
億円の赤字から最高益へ、奇跡の復活
を遂げた日本製鉄の企業再生ノンフィ
クション。

取材・執筆にあたったのは、日経ビジ
ネスの副編集長で、日経ビジネス電子
版に「上阪欣史のものづくりキングダ
ム」を連載中の上阪欣史(うえさか・
よしふみ)さんです。

2019年4月に就任した橋本英二社長の
もと、大復活を遂げた日本製鐵ですが、
本書には、その一部始終が書かれてい
ます。

難しかった値上げと、国内製鉄所のス
リム化、高付加価値製品、グローバル
へのシフト…。

いうは易しですが、日本製鉄ほどの巨
大企業にとって、それは決して簡単な
ことではありません。

特に、分断が進むグローバル経済にお
いて、どうやって新興市場に出て行く
か、リスクを軽減するか、パートナー
シップを結ぶか、安定供給するかとい
った話は、困難を極める骨折り仕事で
す。

本書には、巨大プロジェクトを果敢に
進め、その後幾多の困難を乗り越えた、
同社の勇者たちのエピソードが書かれ
ています。

インドで過去最大M&Aを実現した、当
時グローバル事業担当副社長の橋本氏
の英断、諦めムードを変えた明石博之
氏の言葉、異例のスピードでのM&Aを
実現させた法務部門「日本製鉄の守護
神」原田剛氏の仕事ほか、日本製鉄の
躍進を支えた、陰の立役者たちの活躍
ぶりが、丁寧な取材により浮き彫りに
なっています。

かつて重くて動けなかった同社が、橋
本社長のもと、一丸となって突き進ん
でいく様は、まるで『キングダム』で
も読んでいるかのようです。

----------------------------

象徴的な出来事がある。21年5月、業
界団体である日本鉄鋼連盟の会見での
ことだ。会長を務める橋本は「個社と
しての話」と前置きした上で、「『ひ
も付き』は国際的にも理不尽に安く、
是正しないと安定供給に責任を持てな
くなる」と訴えた。ひも付きとは、特
定の大口顧客との取引を指す業界用語。
「いくら大口顧客だといっても価格が
安すぎては供給できない」という決意
を世間に示す、乾坤一擲の発言だった

橋本は新会社の船出にあたり「船長」
として3つの帆を揚げた。まず、「2年
以内のV字回復」だ。手本にしたのは、
事業再生の専門家として知られるミス
ミグループ本社名誉会長の三枝匡。三
枝は過去、大赤字から2年で業績を回
復させた実績を持つカリスマ経営者だ。
橋本が「このままキャッシュアウトが
続けば日本製鉄に3年目はない」と見
越していたことも2年に区切った理由
の一つだ。2つ目は「上からの改革」。
「日本のドラッカー」「社長の教祖」
などの異名を取り数千社を指導した経
営コンサルタント、一倉定の「改革は
すベて上からであり、問われるのはマ
ネジメント力」という訓示を肝に銘じ
た。最後の帆は「論理と数字がすべて」。
論理と数字を基に導き出された結論に
は「いかなる犠牲や反発があろうとも
従ってもらう」と宣言した

経営トップによる製鉄所訪問はそれま
でも定期的に実施していたが、対話を
するのは製鉄所長や総務部長といった
上位の幹部層だけに限られていた。橋
本は、さらに現場に下りていく。スー
ツから作業着に着替え、高炉や「鋳造」
「圧延」などそれぞれの工程を束ねる
現場リーダーである工場長、工程内の
設備を担当する課長まで対話する相手
を広げた

橋本は中国の古典の一つである「孫子
の兵法」を好む。その中に「迂直之計
(迂を以て直となし 患を以て利とな
す)」という一節がある。「回り道の
ように思える遠い道を真っすぐの近道
に変化させ、弱点やマイナスの状況を
発想の転換によってプラスの力とする」
といった意味だ。橋本が打ち出した
「値上げなくして供給なし」の通達は、
この兵法に通じるところがある

日本の国づくりを鉄づくりで支えたDNA
を持つ日本製鉄が、インドの基幹産業
の請負人になろうとしているのだ。今
の日本製鉄が描く「グローバル3.0」
は、世界の成長国の国づくりを担うと
いうことなのかもしれない

橋本の座右の銘は「事上磨錬」。中国
明代の思想家、王陽明が残した「行動
や実践を通してしか知識や技能は磨か
れず、人間の実力は身につかない」と
いう意味の格言だ

近い将来、社長を退任する時、一つだ
け自分がこだわったKPI(重要業績評
価指標)は何だったかと聞かれたら、
私は「社員に支払っていた給与をどれ
だけ増やせたか」だと言うでしょう
(橋本英二氏)



0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年02月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
2526272829