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2023年08月14日18:00

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映画『EO イーオー』

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『EO イーオー』(ポーランド, イタリア)
重厚なテーマ曲と音響効果が印象的。EO(イーオー)とはサーカス団でショーに出演しているロバの名前。由来は嘶き声「イオオオン」の擬音から付けられた。本作は正真正銘ロバのEOが主役。彼の目線で物語が進行する。ショーの相棒カサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)から愛され、仲睦まじいパートナー関係にあるEOにとって、このサーカス団が居心地のよい場所だったことは後々の回想シーンで裏付けられる。
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だが動物愛護団体の抗議によってサーカスは解散に追い込まれ、出演していた動物たちは行政に強制保護されてしまう。偽善的偏見が漂う保護動物団体によって首にかけられたニンジンのレイをポリポリと食べだすEOの仕草に鑑賞側はハートを鷲掴みにされる。夜更けに別れの挨拶をしに来たカサンドラの後を追うように、EOは保護柵を越えて脱出をはかる。かくして様々な人物との関わりを繰り返しながら、EOは人間社会のエゴと不条理に巻き込まれた旅をする。
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ロバ目線のロードムービーという異色作は、EOを擬人化することもなければ解説などの補足も一切ない。仕草と表情からでは読み取りきれないEOの思いを代弁するのは、戦後ヨーロッパで最も評価が高いといわれる(パンフ解説より)イエジー・スコリモフスキ監督85歳による演出。人間の視点とは異なる感性で綴られる物語は、ストーリーの連続性の矛盾や殺伐とした空気感、読解できない意味不明な描写がいくつも含まれる。EOの視点や回想と思われる抽象的な表現世界に、こちらのフィーリングが上手くマッチさえすれば、とてつもなく深い観念世界を味わうことができるだろう。
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サラブレッドの繁殖風景に劣等感を抱き、迷い込んだ森では猟師によるレーザー照射に恐れ嘶く。撃たれた野生動物に戦慄し、その場から慌てて立ち去る姿に感情移入してしまうともうEOから目が離せない。試合中のサッカー場に紛れ込んだことが原因でPK戦に勝ったチームからは「勝利のロバ」として持て囃される。だが祝勝会のバカ騒ぎに耐えられなくなり会場を脱出したEOは、外で怒り狂っていた敵チームの殴り込みに遭遇してしまい瀕死の重傷を負ってしまう。病院に担ぎ込まれたEOに安楽死を提案する助手と「治療するのが医者の仕事だ」と断言する医師。この後、EOが助かったのかはよくわからないのだが、映像は四つ足で歩く動物型ドローンロボットを繰り返し追い続ける。それは果たしてEOが観ている夢か幻覚か、それとも動物虐待に対する抽象的アンチテーゼなのか。
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生死を彷徨うEOが見る幻はカサンドラとの思い出の日々。彼の拠り所はそこにしかないのだろう、他の人間達は誰もが自分本位で愚かなものにしか感じられない。いや、実はそれはEOを介して見ている我々鑑賞側の気持ちであるのが本音で、ロバにそんな感情があろうはずもないこと頭では理解している。だがそう思わせるのが同監督の狙いであることは間違いない。
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劇場で一斉に声があがるほど、家畜の運命に逆らうべく人間に激しく敵意を見せるEOが1度だけある。やがてEOの居場所は殺処分場のような所に変わっており、動物の遺体が積まれた荷馬車を引かされている。途中を見逃してしまったのかと思う程、前後の繋がりの不明瞭さに時系列順の物語ではないのかと疑わしくなる。だがそれは人間の観念であって、語らないEOの驚きや恐怖、悲しみや哀れみがその瞳を介して伝わる気持ちこそが本作の比類なき魅力なのだ。
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後半はEOの目線から離れた部分にも焦点が当てられ、EOはしだいに狂言回し的な役割を担っていく。輸送トラック運転手がメインとなるショートエピソードは、笑わせてから奈落ヘ落とすというダークストーリー。EOを連れ帰る若いイタリア人司祭と伯爵婦人が住む豪邸でのやり取りが始まると、ここでフランスの大女優イザベル・ユペールが登場して驚かされる。義理の息子の不良司祭ヴィトー(ロレンツォ・ズルゾロ)との妖しい会話劇は、そのあまりの存在感にイザベルがドラマを全部持っていきそうなアクの強さ。だが果たしてこれが本作にどういう意味をもたらしているのかは正直まったく解らなかった。
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人間の茶番に付き合うことこそ無駄で迷惑。そんな連中に運命を変えられるなんて真っ平ごめんとばかりにその場を去るEO。ダムに架かるアーチ橋の中央に佇む場面での彼の視点は、人工物であるダムの激流が逆廻し映像になっている。家畜であるロバの運命が人間に依存するのは持って生まれし宿命なのかもしれないが、その生き方に幸せを感じる知覚がEOに少しでもあるのなら、最後はカサンドラの元に帰してあげたい。だがEOが次にいる場所は屠畜場だった。そこが彼の旅の終着駅だったのかどうかはわからない。パンフ記載の監督インタビューで印象的な部分を抜粋する。
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「人間の俳優との主な違いは、ロバは“演技”が何であるかを知らないということです。彼らは何かのフリをすることができず、純粋に彼ら自身であり続けます。優しく思いやりがあり、相手に敬意を払い、礼儀正しく忠実であり、今この瞬間を最大限に生きています。そして決してナルシズムを見せません。自分の役柄に想定された意図に従って仕事をし、監督のビジョンに口をはさみません。彼らは優れた俳優なのです。」
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ヒューマントラストシネマ渋谷で販売されていた劇場オリジナルのコラボドリンク・キャロットジンジャーソーダ。EOを演じたロバは全部で6頭いるとのこと。その脇役にイザベル・ユペールが出てくるというだけでも前代未聞の作品。

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