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2023年07月30日20:00

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映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』『Single8』

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『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(日本)
『いとみち』の駒井蓮を目的に鑑賞したのが、想像していた内容とまったく違う作品だった。そこに集まったぬいぐるみサークルの先輩と仲間は、同じ空間に居ながら人間同志の会話を閉じ、互いの声を聴かないようにイヤホンで耳を塞いでそれぞれのぬいぐるみに話しかけている。一見この理解し難い学生達の心理は、コミュ障と短絡的に言ってしまえばそれまでかも知れない。しかしそこには特殊でもなんでもない誰もが持つ自分の痛みと他人への思いやりの葛藤があった。

七森(細田佳央太)の中性的思考は性的マイノリティとも違う、強いて言えば恋愛不感症とでも云うべきアブストラクトな感性。そのフィールドを破ってくる輩との交流では一気に冷静さを欠いてしまう。それを乗り越えたい意識からか同類の友達である麦戸(駒井蓮)ではなく、聡明叡知な振る舞いの白城(新谷ゆづみ)に交際を申し込む。

男女間の恋愛とも親友とも違う、若き青春時代の掴みどころのない微妙な関係性は言葉では表し難い。昨今はSNS等で陰惨なヘイトクライムが横行し、日常生活でも悪意なき差別、性的恐怖心、バイオレントがはびこる。そこで生き難さを感じながらも、人のぬくもりを求める者が集まっているのであろう、やさし過ぎる人々の場所が“ぬいぐるみサークル”通称「ぬいサー」だった。もちろんぬいぐるみではなく部員同志の会話もあるのだが、その朴訥でぎこちないコミュニケーション場面の空気は独特で、言葉の表現として適切かどうか自信はないが「渇いた生々しさ」を感じる。麦戸が引篭もりとなって大学に来なくなると、七森は家まで行くが会うことはしない。ふたりの距離は近くて遠く、それをお互いに吐き出すことなく内に秘めて苦しみを育て続ける。

「ぬいサー」で唯一ぬいぐるみと話さない白城は、他のアクティヴ系サークルを掛け持ちしており、そこではセクハラ発言が普通に横行していることを七森に打ち明ける。そんなサークルは辞めた方がいいと助言する七森に対し、白城は「でもこれからそういう社会に出ていくのだから」と反論する。彼女だけは自分が傷付くことと、他人と関わるストレスを受け入れる覚悟を持ち合わせている。辛いことを頷き合うことすら躊躇してしまう繊細な「ぬいサー」で、唯一普通っぽいがために異端児に見える白城。その視点こそがおそらく鑑賞側の大多数の視点に近い客観性なのだと感じられ、それはラストシーンが彼女のモノローグで終わることでも証明される。

ぬいぐるみとの会話で自己救済している「ぬいサー」メンバーだが、やがてそこには限界があることが朧げに見えてくる。本作はぬいぐるみ視点の俯瞰ショットが折々に挟まれており、つい感情移入の準備をしてしまうのだが、ぬいぐるみ達は喋りもしなければ目線を動かすこともなく、無機物の領域を逸脱しない。

様々な出来事が七森を追い込み彼も登校をしなくなる。だがそれをきかっけにようやく麦戸と声に出した会話をする機会が生まれる。人に話すとその人を傷付けてしまうと思ってしまうため、ぬいぐるみにしか本心を打ち明けることができなかったこと。それは七森が加害性を持つ側になってしまうことへの怯えであり、麦戸にとっては世間側の無自覚者への恐れに繋がるのだ。

ここでの駒井連ワンカット長台詞シーンは必見。息苦しいくらいに繊細な気持ちの露呈が伝わり、人と話して気持ちを伝え合うことが如何に重要であるかをこの映画は訴える。毎日を前向きに生きている殆どの人にはピンとこない可能性もある。だがそうではない人もこの社会には多くいる。やさし過ぎる若者達の物語は、作品タイトルにそぐわない辛辣さで比類なき個性を感じる映画になっている。
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『Single8』(日本)
小中和哉監督が「自分の原点を振り返る映画」と銘打って公開された1978年を舞台にした青春グラフィティ。自身が8ミリ映画作りに夢中だった学生時代をそのまま再現した回顧録がベースらしい。当時の映画作りセオリーを踏襲しながら膨らんでいく夢と憧れを具現化していく過程を、その時代を知っている者なら登場人物たちと一緒に気持ちを体感できるところにたまらない高揚感がある。フィルム製作経験がない自分でも楽しめる空気感は、大林宣彦監督の80年代作品テイストに通じるところからきていると感じた。

『スター・ウォーズ』に感化され、手作りミニチュアでいかに巨大感を演出した8ミリ映像を撮ることができるか。そこから始まった広志(上村侑)の映画製作はクラスの文化祭テーマとなって起動する。思いを寄せるクラスメートの夏美(高石あかり)を、一所懸命に執筆したシナリオを読ませることでヒロイン役に口説き、喜男(福澤希空)と佐々木(桑山隆太)を仲間に『タイム・リバース』がクランクインする。

自己満足から始まったはずが、人を楽しませる“作品”を目指す意識へと変化いていく過程部分に焦点が当てられており、同級生や先生から期待を受けるプレッシャーの心地よさは、映画監督という職種であれば誰もが持っているモチベーションの原動力。それは承認欲求でもあるが、これこそが社会に出て大人としての自己形成をしていく階段の一歩であり、好きなことを世間に認めてもらう快感への追及が作品のクオリティに比例していくことは間違いない。

鑑賞後にこれだけ清々しい気持ちで映画館を出たのは久しぶり。時代空気を感じさせているにも関わらず、ノスタルジーだけになっていないのが素晴らしく、セオリー通りで奇抜な展開が一切ないのにワクワク感が最後まで持続する。

我々世代の映画創成期物語に魅力的なヒロインは必須。キャンプでファインダー越しにカメラを構える夏美は、高石あかり史上最高のワンカット。そして恋が実らないのもまた納得の苦笑い。そういう想いの毎日が青春の積み重ねなのは今でこそ知ったかぶっているが、本心は当時と同じメンタルなのだから。

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