mixiユーザー(id:4380531)

2023年02月26日00:00

181 view

映画『シスター 夏のわかれ道』

フォト
『シスター 夏のわかれ道』(中国)
見知らぬ弟が現れて、突然私は姉になったーー。
2014年まで続いた中国の「一人っ子政策」は、家系を築く子孫となる男児が欲しい夫婦にとって女児が生まれることは悲劇だった。主人公アン・ラン(チャン・ツイフォン)はまさにその申し子で、生まれながらの男尊女卑を背負ってしまったと言っても過言ではない。どうしても2人目を産む許可を得たいがために、ランの両親は彼女を障害児として政府に申請しようと企てる。足を引き摺る演技をさせられる小学生のランが「私は障害者じゃない!」と叫ぶ回想シーンが印象的。

家を出て独立したことで疎遠となっていたランの両親が、交通事故で亡くなった。葬儀の場で彼女の前に突然現れたのは両親と暮らしていた6歳の弟ズーハン(ダレン・キム)。それは正真正銘ランの弟で、両親待望の男児だった。こういう時になると血縁を重視するのは、日本よりも中国の方が顕著。親族たちは見知らぬ弟ズーハンの養育をランに命じた。根強い男社会の中国において、それはある意味で常識に近い考え方だった。

一方的な押し付けに反旗を翻したランは、それならズーハンを養子に出すと宣言する。それは親に愛されなかった自分と、愛されてきた弟への復讐なのか。養子縁組が見つかるまで仕方なくズーハンの面倒を見るランだが、甘やかされて育ってきたズーハンの我儘ぶりは、彼女の神経を逆なでするばかり。

かつて両親の妨害で叶わなかった大学院医学部への入学を目指し、看護師として働きながら寸暇を惜しんで受験勉強に励むランにとって、突然現れた弟の扶養は人生設計を狂わされる邪魔でしかない。ましてや会うのも初めての弟には愛情のかけらもない。

しかし世間は「姉(女)は弟(男)のために我慢して支えるのが当たり前」という風潮が支配的。恋人(リャン・ジンカン)ですらピント外れの優柔不断な態度を見せるため、彼女には心の拠り所がない。望まれない娘だったという自覚を持って、早くに親元から離れて生きてきたランの心は固くと閉ざされる。

突然現れた年齢の離れた弟との家族関係に、ランはどんな選択をしてどう向き合うのか? それとも向き合わないのか? ズーハンを一切甘やかすことなく厳しくあたりながらも、しっかりと世話をするランの様子は健気で応援したくなる。

この作品で描かれる中国の諸問題は一人っ子政策だけに留まらない。根強く残る家父長制的価値観の家庭環境が、父方の伯母ロンロン(ジュー・ユエン・ユエン)の言動を通じて語られる。ロンロンは学生時代にロシア語学科に合格していたのに、弟(ランの父親)のため自分の夢を犠牲にしたことを、美徳とするかのような思考を繰り広げる。ロンロンの生まれた時代は一人っ子政策前なので家族の一員でいられただけ幸せとも言えるのだろう。それすら叶わなかったランは、普段から余計な愛想を振りまくようなことは一切しない少女として育った。

自立心と意志の強さが磨かれ、内面的な強靭さばかりが目立つようになったランの振る舞いは、そのまま伯母ロンロンの人生を否定しているかのようにこう訴える「子供の時、伯母さんのうちではあなたの息子に散々殴られた。義伯父さんには裸を覗かれた。伯母さんのその自己犠牲は結果が伴っていない。」

ロンロンはランにスイカを切って出しながら「私の母は弟にだけスイカを食べさせた。あなたは自分の人生を生きなさい。」自分の夢が叶わなかった後悔と同じ思いを、ランにはさせたくないという告白を漏らす。本作の登場人物達は、それぞれが建前と本音の両面をドラマの中で晒し心境を交錯させる。

弟ズーハンも例外ではない。成都から北京の大学院に行きたいお姉ちゃんの気持ちを察し、交通事故当事者であるトラック運転手の娘の協力で自ら里親候補に電話をかける。本当は別れたくないのに、ランのために自ら養子に行こうとしたことを後で知ったランは、何度もズーハンの腕を叩いて「どうして?」と問いかける。

母方の叔父ドンフォン(シャオ・ヤン)とランの関係も興味深い。性格的に真反対のタイプであるこの叔父こそが、親に溺愛されて育ってきた長男の駄目レッテルの成れの果て。中国社会における典型的な劣等生の遊び人なのだ。ランと同世代の娘からは父親失格の烙印を押され、それ故に姪であるランに父親的体裁を見せようとする滑稽さが痛々しい。だが一方のランも愛されなかった実父の代わりに、微妙な家族愛的感情をこの叔父に持っている素振りがあるのが面白い。お互い暴言を吐き合うふたりの会話は奥が深い。

怪我をしたズーハンを背負って歩く病院帰りの夜、ランの背中で「ママと同じ匂いがする」と呟いた弟の体温が、彼女の固い決意を溶かすきかっけとなる。ズーハンを扶養するために北京の大学院留学を諦めるべきなのか。そもそも弟との離れた年齢差は、彼女が障害者への成りすましを拒んだことが要因!? 

養子縁組が見つかり、ズーハンは新しい里親の元へ引き取られることになった。ランに母親の面影を感じているズーハンを見た里親は、もう2度と弟には会いに来ないで欲しいと、ランに誓約書を書かせようとする。これで自分の人生からズーハンはいなくなる。

自ら答えを出したはずなのに、その心には違う感情が芽生えていることを既に隠しきれないラン。ぐちゃぐちゃな心境が手に取るように解る秀逸のクライマックス。本作の結末はいわゆるオープンエンディングになっている。この姉と弟の物語はまだ続いていくのだろう。一概に養子縁組を否定することもなく、近年の中国社会の変化を予感させる余韻のある見せ方は、ランが北京に行くのか否かも語られない。

意志の強い姿を見せ続けてきた彼女が、自ら考え直す「幸せ」の意味が何であるのかは、これからも変化していくだろう。確信が持てるのは、彼女の閉ざされていた心が開かれたということだけだ。

<映画レビューを切通理作さんのメルマガ内にて連載しています>
月2回配信、購読開始から1ヶ月無料
http://yakan-hiko.com/risaku.html
切通理作編集メールマガジン『映画の友よ』
【 料金(税込) 】 660円 / 月
【 発行周期 】 月2回配信
【 最新発行日 】2023年1月31日
映画の友よ Vol.214
<「未体験ゾーンの映画たち2023」『シスター 夏のわかれ道』『あの娘は知らない』>
<業を孕むが故の輝き〜『コーンフレーク』>
11 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年02月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728    

最近の日記

もっと見る