『ドライビング・バニー』(ニュージーランド)
ほぼ全てが一次産(原材料)によって経済が支えられているニュージーランドでは、二次産品(加工製品)は殆どを輸入に頼るという偏った貿易依存が現在も続いている。酪農,畜産,林産大国である一方、機械,金属,精密製品,自動車を含む家電はその殆どが輸入品。地上資源立脚型の体質は慢性的な財政難を招いており、国民の生活水準は旧態的な資本主義社会にありがちな、格差社会を浮き彫りにしている。行政の力不足は500万人足らずの人口に対して満足な住居を提供することすらできていない。新興住宅が建設されても、中国マネーの介入など、外的要素によって価格相場は高騰の一途をたどる。頑張って働いて自分の家を買うという夢が、果てしなく届かないところに位置してしまう社会的弱者層にとって、普通に家族と一緒に暮らす環境を得る権利が困難といっても過言ではない。
主人公のバニー(エシー・デイヴィス)は金なし家なしの訳ありシングルマザー。妹夫婦の家に間借りしているが、まだ幼い息子のルーベン、娘のシャノンは家庭支援局に保護されているため自由に会うことが許されない。彼女に親権がないことは明らかだ。経済的弱者が努力することで生活水準を高める機能のハードルが高いのは間違いない。
良くも悪くも即物的で、正義感の強さが盲目的な行動に繋がり歯止めが効かないバニーは、その真っ直ぐ過ぎる性格故に社会不適合者のレッテルを貼られていた。それでも気丈に明るく振る舞い、信号停止中の車の窓拭きで小銭を稼ぎ、それを貯めていつか必ず自分の住まいを確保し、再び子供たちと一緒に暮らすというのが彼女の夢。だがバニーの境遇は同情と同時に、社会のしくみによる共感余地のない背景も感じることになる。
バニーの妹グレース(トニ・ポッター)の再婚夫ビーバン(エロール・シャンド)が、継娘トーニャ(トーマシン・マッケンジー)に性的行為を言い寄る光景を目撃したバニー。彼女の性格はこれを見過ごすことなどできるはずもなく、直接ビーバンに忠告したことがきっかけで間借りしていた部屋を追い出されてしまう。妹グレースは見て見ぬふりで、ビーバンの味方をする始末に呆れたバニーは、姪のトーニャを連れて車を奪ってアクセルを踏み込む。目指すは家庭支援局から里親に出されてしまった娘シャノンと会って5歳の誕生日を祝うこと。社会ルールとモラルを完全無視したバニーの暴走劇が始まる。
映画好きなら誰もが感じるであろうニュージーランド版 “ケン・ローチ” のテイストがたっぷりの本作だが、行政が経済面だけで親子の暮らしを引き離すとは到底思えず、バニーが保護観察になっている理由は彼女の犯罪歴にあることが見えてくる。過去の真実が少しずつ判明し、子供への強い愛情故に社会ルールに馴染めないバニーの不器用な生き方が歯痒い。客観的な視点では彼女の側に多分に問題があるのは否めず、支援局や街の他人達の言うことが正論なのも間違いない。
母性愛の尊さが社会常識に屈して追い詰められていくバニー。彼女の正義は理屈では理解できない。次々とやらかしていく騒動はそういう印象になるよう演出されているので、この主人公に嫌悪感を抱く可能性も高いだろう。闘い続けることで更なる悪循環を招き、墜ちるところまで墜ちていく姿はとてつもなく辛辣。しかも更正するチャンスはいくらでもあっただけに共感度が低い。娘と暮らしたがるバニーが、トーニャをグレースから引き離すという矛盾も、もう少しトーニャの心情を深堀りして欲しかったところが惜しい。
トーニャの年齢にして「人生をやり直したい」と言わしめる背景には、進学目指して勉強して成績を上げても、貧困家庭ではそれが叶わないディサイル制度(生徒の格差是正を行う制度だが、実際は富裕層が学校に寄付金を献上して格差を助長している)などの、冒頭に記したこの国の仕組みが噛み合っていない事例なのだろう。そして母親グレースのトーニャに対する愛情の不透明さも節々に垣間見える。だからこそトーニャには、考えるよりも先に行動する型破りな方法で自らの目的に向かって突っ走るバニーに憧れるのだ。
終盤はついに “騒動” が “事件” となり、家庭支援局に立て籠もるバニーに狙撃手の銃が向けられることになる。エシー・デイヴィスがとにかくパワフルで、全てを奪われて踏みつけられた挙句に、クライマックスに向けて確実にヒートアップしていく破天荒さと相まって、シャノンとの電話のシーンでは泣かされる。
この監督は潔いほど演出にあざとさを感じさせない。映画なのだからもう少し感情移入できるケレン味を盛ってもよさそうなのに、敢えてそれを避けている意図を感じた。だからこそ立て籠もりの人質となる女所長や、救急隊員女性のさり気ないひと言が強烈な印象で存在感を残すところが素晴らしくもあるのだが。
自らの道を選んで旅立つトーニャの清々しい姿には救いを求めたくなるが、これから先の苦難の道を想像できてしまうだけに、ニュージーランドという小国の苦悩を慮る。
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