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2022年11月23日10:52

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映画『ザ・メニュー』作品レビュー

映画『ザ・メニュー』作品レビュー

 ミステリー小説に「奇妙な味」と呼ばれるジャンルがあるそうです。ブラックユーモアや幻想、怪奇などの異色の物語たち。「味」は読後感のことだが、代表的なロード・ダンセイニの「二壜の調味料」やロアルド・ダールの「味」などは、味そのものをテーマとしている。このスリラーも、奇妙な味と呼ぶにふさわしい作品だと思います。日本でいえば宮沢賢治の『注文の多い料理店』が近いのではないでしょうか。

 舞台は、孤島にある世界で最も予約困難な超高級レストラン“ホーソン”。カリスマシェフとして世界的に知られているジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)による、選び抜かれたセレブな客だけが味わうことを許された究極のフルコースを堪能するため、破格の高額な料金を払って予約を取ったゲストたちは、専用の客船に乗って意気揚々と招かれてくるのでした。みんな有名な俳優や料理評論家、IT産業で成功した若者ら富裕層ばかり。究極の美食を楽しむ客たちでした。しかし、11人の客たちの中には、予約が取れたものの代わりに来た客もいました。グルメオタクのタイラー(ニコラス・ホルト)と連れの女性マーゴ(アニヤ・テイラージョイ)です。
 物々しい雰囲気の中、マース料理がふるまわれて行きます。けれども、出てきた料理に感動するタイラーとは対照的に、マーゴはどことなく違和感を抱き始めます。実はこの日のメニューには恐ろしいサプライズが用意されていたのです。やがてディナーの「演出」は常軌を逸し始め、シェフはまるでカルト集団の教祖のごとく君臨し、ゲストたちは恐怖で追い詰められていくことになるのでした。
 
 外界と隔絶した太平洋沖のレストランというたった一つの状況設定のもとで、全編が進行していくサスペンス映画。ガラス越しに荒々しい海を間近に望むレストランの内装から、軍隊のように統率された厨房スタッフの動き、現代アートのごとき料理の数々まで、緻密に構築された様式美に目を奪われます。
 グルメにまつわるブラックな風刺を盛りつけた映像世界は、謎めいたスローヴィクの人物像も好奇心をかき立てられました。唯一の招かれざる客の若い女性マーゴ (アニャ・テイラージョイ)、スローヴィクとの対立劇もスリル抜群の緊迫した場面が続きました。途中で救助に現れる沿岸警備艇の登場で、狂気に満ちたメニューもジ・エンドと思ったら、とんでもないことに。
 そして圧巻なのは、衝撃的なラストです。シェフもスタッフも客もレストラン全体までひっくるめて調理し、メニューにしてしまう展開は、想像を超えた世界。刺激的な映画体験に浸れる一作です。

 不穏な空気に一気に引き込まれ映像ですが、恐怖が支配すると裏側には、ゴージャスで、官能的で魅惑に満ちた美しさも併せ持っていました。
 例えば、劇中登場する料理は、全て実在の有名シェフが手掛けたもの。それらはもはやアートといえるものでした。レストランのデザインも洗練されていて、「死」ですら盛りつけのように飾られるのでした。あくどさを感じる過剰な描写と美しく整えられたセットデザインのバランスが絶妙なのです。

 同時期公開の「土を喰らう十二ヵ月」と見比べると面白いと思います。素朴な料理で「食」が「生」そのものだと描く同作に対し、美食は追究すればするほど生から遠ざかり死に近づくのが本作です。そんなシェフの心の空虚さをファインズが熱演しています。ただ、格差社会や客たちの罪など、材料を詰め込みすぎで「味」がややぼやけてしまったことが残念です。
 訳ありの登場人物たちのキャラクターは典型的で意外性はありませんが、デスゲーム系の作品が好きな人は間違いなく楽しめそうです。

https://www.searchlightpictures.jp/movies/themenu
公開:2022年11月18日
上映時間:107分


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