久しぶりに目黒ゆたか会に参加。今月の上映作品は、93年の「女子大生、後ろから突き上げて」。29年ぶりの再見で、ほとんど忘れていた。ヒロインの女子大生は、セックス上手の教授、金持ちの医学生、小劇団の役者と付き合っている。友人はそれを批判するが、ヒロインは取り合わない。それが自分を真剣に愛する8年生の先輩との愛に目覚めるのは型通り。
しかし快楽や金目当てではなく、ヒロインは皆を平等に愛しており、友人、すなわち観客とは違った感覚の人間だ。
教授の妻が乗り込んできたときは脅えた表情をするし、役者に裏切られたときは本当に悲しそう。ヒロインを最初から最後まで嫌味な人間として描いていないのがいい。
池島ゆたか監督の同時コメントで、友人役の草原すみれさんの意外な背景がわかる。93年から94年にかけて出演作を何本か観た。「NEW ZOOM UP」にも連載していたし、懐かしい女優だ。
そして「マンディンゴ」。リチャード・フライシャー監督75年作品。この映画は40年近く前、テレビで大幅にカットされた版を観た。それ以後テレビ放映された記憶はない。解説の町山智浩によると、あまりに奴隷制度をリアルに描いたため、葬られてしまったそうだ。それだけでなく、黒人男性と白人女性のセックス場面も当時は衝撃だったのではないか。
南北戦争前のルイジアナ。大農場の主人ジェームズ・メイソンが、奴隷の売買をする場面から始まる。農場主は「奴隷制度は神の意志」「宗教を教えたら黒人は自分が人間だと思ってしまう」と嘯き、奴隷が病気になると獣医に診せ、自分のリウマチが子どもに移ると信じ、両足で子どもを踏みつける。醜悪を通り越して滑稽だ。
これは当時の南部人としては当然かもしれないが、息子のペリー・キングは父親とは違う。足に障害があり周囲に同化できないのか、黒人に対して冷酷になり切れない。
息子はニューオーリンズでマンディンゴの男を競り落とす。マンディンゴはマリ帝国の種族で、当時最も強く美しい黒人と信じられていたそうだ。演じるケン・ノートンは、さすがモハメド・アリを倒した男で、マンディンゴを体現している。
マンディンゴは奴隷同士の格闘戦で血まみれになる。それを見ていられなくなった息子は、負けを認めてやめさせようとする。しかしマンディンゴが逆転で勝つと、抱き合って喜ぶ。2人の間に友情が感じられる。
息子は奴隷の女性ブレンダ・サイクスをセックスの相手としてではなく、本気で愛しているように見える。悲惨な物語の中で、初めて希望が見える。
この映画は黒人への迫害だけでなく、女性蔑視も描いている。息子は従妹のスーザン・ジョージを妻にするが、処女でなかったことで冷める。それも兄の性暴力によるもので、原作では障害のある赤ん坊が生まれ、さらに悲惨。結婚後も期待されているのは、跡取りを生むことだけ。
奴隷にも子どもを24人産まされた女性がいる。奴隷として売るためであり,母親と売られる子どもの別れの場面はひどすぎる。
相手にされない妻の怒りが悲劇を招く。息子がマンディンゴを殺すのは、友情を裏切られたと感じたからか。それも身勝手であり、「あなたも所詮はただの白人」のセリフは、テレビで観た時も衝撃だった。
全ては当時のアメリカ社会のせいだ。19世紀半ばまで奴隷制度を維持した先進国は他になく、そのためか現在でも反動的な大統領が生まれたりする。去年公開された「アンテベラム」などリアリティを感じてしまった。
家父長制と女性蔑視を主張する宗教に、与党議員が多く影響を受けている我らも他人ごとではない。
フライシャー監督は社会派と言うより、エンターテインメントとして描いていて2時間を飽きさせない。ノーカット版を観られてよかった。今回も上映に感謝。
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