あのね、ちょっと話があるんだけど、と孫娘。
孫娘の方から話しかけてくるのも珍しいが、その真剣な様子はもっと珍しい。
いいわよ、とリビングに入った。
一体なんなんだろうと不安な気持ちに襲われながら座ると、孫娘も座り俯き加減な姿勢。
27歳の彼女はロンドン中心の大きなデパートで売り子をしていた。
マネージャーにならないかと声をかけられたが、責任ばかりが大きくてその任務は重すぎるからと断り、それからしばらくしてフリーランスとして家で仕事をする事にして辞めてしまった。
以来ずっと家で仕事を続けている。
ボーイフレンドも我が家に下宿している。
彼らは高校時代に知り合いやがて交際が始まった。
2年ほど前から我が家に下宿するようになった。
二人とも28歳。
ボーイフレンドの方はコンピュータープログラムの仕事。
孫娘はコンピューターでアニメ風の女の子を描き、これを売っているとのこと。
またストリームでその描き方の講習もやっているとか。
しかし、孫娘がデパートを辞めた頃、ボーイフレンドも会社を辞めてしまった。
そして1年が過ぎようとしている。
実は彼のことだけど
と、孫娘が切り出した。
あれからちっとも仕事を探していないのよね。
えっ、家で仕事しているんじゃなかったの?
最初の1回きりなの。
そうだったの。
でね、探すように勧めたんだけど、彼は不満そうに色々言って最後には「自由だったら他の女の子とデートだってできたのに」なんて言うのよ。
ええー、そんなことを!
そうなの、友達にも話してみたのよ。そしたら皆んなそんな奴とは別れた方がいいって。
で、あんたの気持ちはどうなの?
もううんざり。
まさかそんな状況になっていたとは知らなかった。ただ、最初は二人でやっていたのに、最近は孫娘がほとんど皿洗いしたり、料理をしたりしていた。
おまけに彼の部屋の掃除も。
意外と古風なんだなと、呑気に思っていたが彼女は一生懸命努力していたんだそうな。
また無気力な彼にセラピストと話すべきだとアドヴァイスもしたと。
ああ、それで先週彼はセラピストに会いに行きますと出かけたのか。
私自身はアドバイスするのは大変苦手だが、ここは孫娘の一大事とばかり、必死だ。
じゃあ、もう気持ちはすっかり冷めているの?
頷く孫娘。
そうなの。変よね、彼はここにきたばっかりの時は仕事をしない父親に対してすごく批判的だったよね。50代で務めを辞めて結婚式の写真家として自営業をするんだと。で機材も揃えたけれどちっとも仕事に繋がらず、それ以来仕事をしていないと。まあ、教会でのボランティアはしているらしいけど。
なのに今は彼も仕事をしていないなんてねぇ、知らなかったわ。
ともかく貴方の気持ちがすっかり冷めていることは確かなのね?
だったらその気持ちを正直に彼に告げるべきよ。
あなた達が終わったら彼にはここを出てもらうわ。
孫娘はハッとした表情になった。
あれ?此処をでてもらうわと言ったらハッとしたってことは、まだ情があるんだなと気がついた。
正直に気持ちを伝え話し合ってみてと伝えると、孫娘は話を聞いてくれてありがとう、話し合ってみるわ。
その後話し合い、お互い努力してみようと、そして彼には毎週セラピストに会うことと仕事探しすることを条件に2ヶ月のテスト期間に同意したそうな。
やれやれ。
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