インドネシア東部にあるフローレス島は不思議な島である。かつて氷河期に最大で130メートル海水準が低下した時も、ジャワ島など(したがってアジア大陸本土)とも陸続きになったことがない(地図=↑を付した島)。
◎超小型人類の発見
この島が、世界の古人類学者、古生物学者を瞠目させたのは、同島東部のリアン・ブア洞窟(写真)で2004年に小型人類ホモ・フロレシエンシス(フローレス原人)の発見が発表されたことである。
石灰岩の同洞窟から前年に発掘されたメスの全身骨格は、身長1メートルちょっととまるで猿人のように小さかった(写真)。また脳も小さく、猿人並みの426シーシーしかなかった(小型のことから「ホビット」という愛称が付けられている)。
しかし年代測定の結果は、驚くべきことに最も新しく見積もれば1.2万年前、日本なら縄文時代草創期ということになった(その後、再調査の結果、新しく見ても5万年前と訂正された)。この骨格を含めて、リアン・ブア洞窟ではこれまでに計15個体のホモ・フロレシエンシスの骨が見つかっている。
◎島嶼化の人類ホモ・フロレシエンシス
ホビットの場合、身長はともかく、脳の矮小性が衝撃的だった。
人類進化は、猿人以降、ホモ・エレクトスをへて、着実に脳の巨大化に向けて進むものだった。それが、ホモ・フロレシエンシスでは、おそらく祖先と思われるジャワ原人よりも小さかったのだ。
古人類学界での激論の末、フローレス島という小さな島に閉じ込められた結果、食資源の乏しさに適応した「島嶼化」で説明できるとされた。また2014年、リアン・ブア洞窟から南東に約74キロ離れたマタ・メンゲ遺跡でこの祖先と思われる下顎骨と6本の歯が発見され、年代は約70万年前と測定されている。
◎体高1.5メールもある巨大コウノトリ
さて、実はリアン・ブア洞窟では、ホモ・フロレシエンシス化石の他に、体高1.2メートルほどの絶滅ゾウであるステゴドンの骨も見つかっている。この小型ステゴドンも、島嶼化による矮小化だが、しかし意表をつくのは、体高が1.5メートル以上あった巨大コウノトリ、レプトプティロス・ロブスタス(Leptoptilos robustus)も見つかっている(写真=国立科学博物館の展示で。ホモ・フロレシエンシスの復元と比較されたい。レプトプティロスの右がステゴドン、図はホビットとの対比)。
骨の発見された当初は、巨大なために、ニューギニアにいるヒクイドリやオーストラリアのエミューのように「飛べない鳥」と見られていた(想像図)。
◎ステゴドンの死肉漁り屋だった?
しかしその後、ノルウェー、ベルゲン大学のハンネケ・メイエル博士らによる翼の骨を含む新たな化石の研究で、レプトプティロスは、巨体にもかかわらず広げた幅が約3.6メートルもある翼を使って空を飛んでいたことが推定された。
彼らは、サハラ以南のアフリカに住むアフリカハゲコウのように、空を飛んで上空から死肉を見つけ、それを食べていたスカベンジャー(死肉漁り)だったと見られるという。主な餌は、ステゴドンの死肉だったようだ。
現在、レプトプティロスは生き延びていない。おそらく主要な食物だったステゴドンが氷河期末頃に絶滅した時、狭いフローレス島で餌不足に陥ってレプトプティロスも絶滅したのだろう。
ただフローレス島の近くのニューギニア島では、巨大な鳥のヒクイドリは生き延びている。空を飛べたのなら、レプトプティロスはどうしてニューギニア島に逃避しなかったのか、謎は残る。
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昨年の今日の日記:「デニーソヴァ洞窟の先住デニーソヴァ人の後にネアンデルタール人が出現、両者は同洞窟で交代して繰り返し居住していたことが遺伝子解析から判明」
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