後期更新世の本州産ヒグマの研究成果の紹介の続きである。
興味深いのは、ミトコンドリアDNA解析の結果だ。
◎本州の化石のヒグマは14万年前頃に北海道から渡ってきた
それによると今回分析した本州産ヒグマは、14万年前頃に本州に渡ってきた系統の子孫だったことが分かった。その姉妹系統が現在の道南のヒグマのグループのようだ。前掲日記で、現在の北海道のヒグマは道南、道東、道央・道西系統の3つの系統が混じっていることを述べたが、本州産ヒグマは前者に近い。
ただ本州産の系統は現生の道南系統のグループと、それ以前の16万年前頃に分岐していたようだ。その分岐した土地は、年代から考え、北海道だったと見られる。16万年前の分岐後、さらに南の本州に渡ったのが、本州に化石を残した系統だった。
◎ブラキストン線をナウマンゾウは北に越え、ヒグマは南に越えた
本州と北海道の動物相の違いを示す生物地理学上のブラキストン線(図)は、津軽海峡に引かれている。
水深130メートルになる津軽海峡は、海水準の低下した氷河期も陸化しなかった。だから北海道と本州との間で動物の往来が妨げられ、現在の両地域の動物相の近いが出来た。
それでも狭まった海峡を、本州のナウマンゾウとオオツノジカが北海道に渡った(現在はいずれも絶滅)。逆に北の北海道から、ヒグマが本州に渡ってきたわけだ。前掲日記で、僕は本州のヒグマが北上して北海道に渡ったと書いたが、どうやら異なっていたようだ。
津軽海峡をヒグマが渡ったのは、1回ではない。実はそれよりずっと古く、34万年以上前に分岐した系統も本州に来たらしい。つまり、北海道からの本州への渡来は、最低2回あった。
なお僕が津軽海峡が陸化していなかったと述べたのは、氷河期最盛期でも海水準の低下は130メートルには達しなかったという見方が大多数だからだ。
◎ヒグマもゾウも泳ぎが得意
陸になっておらず海峡があっても、ヒグマは海を泳いで渡れる。現在でも、北海道北部のヒグマが利尻島に現れたことが確認されていて、泳ぎが超得意なホッキョクグマと近縁なだけに、ヒグマも泳ぎが上手なのだ(写真=北海道の風蓮湖を泳ぐヒグマ)。
泳ぎが上手いのは、ゾウも同じだ(写真=水槽の中を泳ぐアジアゾウ)。アジアゾウが、インド亜大陸とセイロン島を渡ることが何度も目撃され、またどんな海面が低下しても決して陸化したことのなかったフローレス島に旧象のステゴドンが渡ってきていた。そのステゴドンは、ホモ・フロレスエンシスの狩りの標的となっていた。
◎更新世末の急激な気候変動で絶滅か
後期更新世の本州には、化石からトラ(たぶんアムールトラ)もいたことが分かっている。それに加えて、体長3メートルにも達する肉食性の強いヒグマもいた。
それが、バイソン、オーロックス、オオツノジカ、ヘラジカ、ナウマンゾウなどの大型草食獣と共に、更新世末に絶滅した(オオツノジカは縄文草創期まで生き延びた)。
その原因は分からない。しかし氷河期の終結で気候が温暖化し、それまでの環境が激変し、草食獣の食べる食草が減ったことは確かだ。その上に、旧石器人の石器技術の進歩があり、狩猟圧が加わった。
大型草食獣が絶滅すれば、それを獲物にしていたトラ、そしてヒグマも絶滅せざるを得ない。
かくて本州の縄文人は、巨大ヒグマを目にすることもなかった。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、
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昨年の今日の日記:「ユダヤ人ホロコーストを揶揄した元芸人の小林賢太郎の解任劇などに見る芸人の歴史認識・人権意識の乏しさを憂う」
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202107240000/
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