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p.427
結局のところ、ネストリオスは「プロソーポン」という用語を静的・存在論的な表現としてではなく、動的な意味で使用しているのである。キリストが神のプロソーポンを持っているということは、キリストが神の意志することを意志し、神が行為するように行為し、神の真の啓示であることを意味している。従って、ネストリオスにとっては、二つの「本性」が異なる二つの物質のような仕方でイエスにおいて一つになったというのではなかった。受肉とは、人間イエスにおける神のプロソーポンの精力的な現存と行為に他ならなかった(17)。
では、キリストにおける神性と人性の結合についてネストリオスはどう考えていたのであろうか。第一に、ネストリオスは結合が「本性的」あるいは「ヒュポスタシス的」であるとみなすいかなる解釈をも拒否しなければならないと確信していた。本性的あるいはヒュポスタシス的結合は、彼の理解によれば、二つの本性が混合して第三の本性を形成するということであり、静的で完結した結合に他ならない。もしそれがキリストにおける二性の結合であるとしたら、もはや結合について語るのではなく、結合の結果について語るしかない。もし結合された二性の区別が失われるとしたら、本性的なプロソーパも失われることになり、結果として生じた本性については、別々の構成要素ではなく、その新しい本性についてしか、語ることができなくなる。しかも、二つの未完結な本性だけがそのような仕方で結合し得るのである。しかし、ネストリオスが確信していたのは、救い主において結合された二つの本性は、それぞれに侵害することのできない原則であった。そこで、キリストにおける結合は、二つの本性が一つになるということではあり得なかった。本性的結合と同義のヒュポスタシス的結合という教理は、ネストリオスにとってアナテマに他ならなかった。
p.428
ネストリオスにとって、本性的結合とは本性の結合であり、本性の内において生じるものであって、本性において完結するものであった。それに対し、プロソーポンにおける結合は……本性の結合であってプロソーパの結合ではない。それは本性の内においてではなく、プロソーポンの内で起きることであり、本性においてではなく、プロソーポンにおいて完結すべきものなのである(18)。
こうした二つの結合の仕方が根本的に異なる点は、「プロソーポンにおける」結合が勢力的であり、あたかも、鏡が鏡の映し出しているものの真の「プロソーポン」であるためには鏡と鏡の映し出すものとの結合が更新され維持されねばならないのと同様に、絶えず更新されるのでなければならないということであった。ネストリオスは、敵対者たちの主張(「本性的」あるいは「ヒュポスタシス的結合」)が、それぞれの本性に固有な事柄を混乱させ消滅させる仕方で混合したものであると理解したのである。
…二つの未完結な本性が第三の本性を構成する仕方での本性の結合は、自発的な結合ではない。なぜなら、結合される本性はそれぞれの固有性を失うからである。キリストにおける神性と人性の結合は自発的なものであった。それはネストリオスが明確に批判した養子論の意味においてではなく、それぞれの本性の固有性と区別に対していかなる侵害もなされないという意味においてである。
p.429
ネストリオスはキリストにおける二つの本性それぞれの統一性を強調し、それぞれがプロソーポンであると主張したことにより、彼自身、真の意味での二つの本性の結合を明確にすることが困難になったのであり、特に、ネストリオスの敵対者たちのように本性を「静的」な意味合いで理解する人々にとってはそのように思われた。ネストリオスにとっては、この結合は、二つの本性がそれぞれの属性を失うことなく、混同されることなく、同時に結合自体において属性を積極的に共有する「連結」を意味した。そのためにネストリオスにとっては、当時既にアレクサンドリアの神学者だけでなく西方において、そして穏健なアンティオキアの神学者たちにもある程度受け入れられ一般的になっていたcommunicatio idiomatumの教理を受け入れることができなかった。このことの根拠として、彼は「神を生んだ人」という称号をマリアに対して用いることに反対したのである。
…「神を生んだ人」という称号を認めることは、「二つの本性を混同すること」になり、神でも人間でもなく、その中間的な第三の本性を主張することになる。
p.430
ある文献の中に彼は「受肉した神であるロゴスの一つの本性」という定式を発見していたのであり、この文献をキュリロスは正統主義者の手によると確信していたが、それは実際にはアポリナリオス主義の文書であった。
p.431
この定式は、アポリナリオス主義がキリストの人性の統一性を否定し、魂が存在しないのでキリストの人性を「本性」と呼ぶことはできないと主張するためのものであった。
…
キュリロスの展開したキリスト論によると、キリストにおいて神と人が「ヒュポスタシス的結合」(キュリロスによってはじめて用いられた用語)によって結合された。この結合をキュリロスはアポリナリオス主義の「受肉した神であるロゴスの一つの本性」という定式に基づいて理解した。しかし、キュリロスは「二つの本性」という表現を用いる人々を完全に否定したわけではなかった。むしろ、彼自身も二つの本性という表現を、両者が分離され得ないということを明確にした上で用いている。…その場合、キリストの人性はそれ自体のヒュポスタシスもしくは本性を持たない。
p.432
なぜならキリストの人性はそれ自体においてではなく、ロゴスのヒュポスタシスにおいてのみ実在するからである。
歴史家たちの中には、キュリロスはプラトン主義の影響を受けていたため、彼によればロゴスが一般的な概念としての人間性と結合したのであって、個としての人間存在と結合したのではなかったと解釈する者たちもいる。こうした解釈を可能にする言及が存在するのは事実である。しかし、キュリロスは救い主の人性における個人性を否定してはいない。キュリロスがキリストの人性は固有のヒュポスタシスを持たないと語る場合、彼は人性がそれ自体において実在しているのではなく、その実在の原理はロゴスにあるということを指摘しようとしているのである。(29)
29 キュリロスのキリスト論をこのように解釈することに対するおもな反論は、「わたしたちはみなキリストにある」「ロゴスは一人を通してすべての者の内に住んだ」といったキュリロスの言葉を根拠としている。しかし、これらの本文は、人類の一体性というキュリロスの概念を前提として理解する必要がある。この概念に基づいて、キュリロスはアダムに関しても同様の発言をしているのである。その場合、キュリロスがアダムを一個人とみなしていたことは明白である。しかも、もしキュリロスがロゴスはキリストにおいて人類全般と結合されたと考えていたのだとしたら、ライバル関係にあったアンティオキアの神学者たちがこの点を追求しなかったはずはなく、しかし実際には彼らはそのような追及をしてはいない。
キリストにおける神と人間の「ヒュポスタシス的結合」の教理はcommunicatio idiomatumの根拠である。ロゴスが「ヒュポスタシス」あるいは救い主の実在の原則であるのと同じように、人性について述べられることは全て、ロゴスについての言及でもある。
p.433
マリアが神の母であるのは、キリストの神性がマリアの内で存在を始めたなどというばかげた理由によるのではない。マリアはロゴスとの結合によってのみ存在する人間の母だからであり、その人間としての存在の属性は全て、ロゴスに適用されるべきだからである。
…ネストリウスがキリストにおける神性と人性の結合をどのように理解しているかを説明することが困難であったとするなら、キュリロスの場合、少なくとも初期には、救い主の統一性を強調するあまり、キリストが真実かつ完全に人間であることと、ロゴスと結合された人間性がロゴスに吸収されたのではないことを十分に説明することが困難であった。
p.434
〔訳者追記 本章註8(四二二頁)の原書の引用に誤りがあるかと思われる。suppositatがsuppositoであれば、ネストリオスとキュリロスの間での主体もしくは自存をめぐる論争であり、suppositateであればエフェソ公会議での両陣営による議論のねつ造・すり替えを指すであろう。「主体に関する討論(捏造に関する討論)、そこではこれまでネストリオスが正統であるとかアレクサンドリアのキュリロスと公会議に強制された他の主教たちが異端であるとか前代未聞の多くのことが示されている」。〕
p.437
そんな時、アンティオキアでテオドレトスが取ったある行動が、ディオスコロスによる攻撃材料となった。テオドレトスは、アンティオキアの神学者たちの教えと対立する教理を唱えていたペラギウスという人物(ペラギウス主義の創始者となった同名の修道士とは別人)が神学を教えることを禁止していた。
p.439
エウテュケスが教えたことは、おそらく、キリストの身体は受肉によって神化されたので、もはや「わたしたちと同質」と言うことはできないということであった。…エウテュケスのネストリオス理解も同様であり、彼はキリストに二つの本性を認めるものは何であれ、「ネストリオス主義」と見なした。キュリロスとネストリオスの神学に、本人たちが決して呼ばなかった名称を付けて読んだエウテュケスの神学が、彼自身そのように呼んだことのない「エウテュケス主義」と名付けられたのは、ある意味ふさわしいとも言えよう。
p.440
このことに基づいて、レオはエウテュケスの「受肉の前には二つの本性があったが、結合の後は一つの本性を持つ」という説を受け入れることができなかった。この説では、人性が神性に吸収されたことを示唆することになるからである(ibid.,6)。
p.441
ただし、レオはネストリオスが糾弾されたような意味で本性を「分離」したわけではない。レオはキリストがただ一つのペルソナを持つことを明言し、その統一性については繰り返し承認しているからである。
p.442
五世紀には、キリストにおけるヒュポスタシス的結合と人間のヒュポスタシスの欠如というキュリロスの教理が最も一般的になっていた。しかし、彼の後継者の中には、キュリロスの神学が「本性の分割」という考えに近づく極めて大きな危険性を孕んでいると見なし、救い主の一つの本性のみを承認する昔の立場へと戻る者たちもいた。非常に尊敬されていたキュリロスがキリストの「二つの本性」を承認していたという事実が提示する問題を解決する方法として、アレクサンドリア学派の神学者たちは「受肉以前は二つの本性を持ち、結合後は一つの本性」という定式を用いた。キリストは真に人であり神であるが、この区別は、「受肉以前」という観念的な意味合いでのみ可能である。
p.443
なぜなら、「結合後」は人性は神性に吸収されたので、人性をそれ自体として語ることはできないからである。
アンティオキアの神学者たちは救い主の人性の実在性を前提としたが、サモサタのパウロスとアンティオキアのエウスタティオス以降、キリストの神としての位格を認めることの必要性をも確信するようになった。さらに、ネストリオスの断罪後、アンティオキア学派の神学者たちはおおむね、communicatio idiomatumを否定することは受肉そのものを否定することになり、従ってイエス・キリストによる救いの働きを否定することに気づいた。そこで彼らは、真にcommunicatio idiomatumを可能にする仕方で、キリストにおいて人性と神性が結合されたことを認めた。しかし彼らは、神性と人性を「混同」して人性がその固有性を失うことになる教理を受け入れることはなかった。
…西方では次第に、キリストによる救いの働きを人間が神に負っている負債の支払いとして理解するようになった。…そこで、救い主はそのような働きを実現できる方として解釈され、そのために神と人がキリストにおいて結合されたという理解が不可欠であったが、どのような仕方で結合したかについては特別な関心を払うことはなかった。そのため、西方では、救い主の人性が神性に吸収されたという意味に解釈されない限りは、古代からのキリスト論的定式を繰り返すことで十分だったのであり、レオが「トムス」で表明したキリスト論はそのようなものであった。
p.444
13 イバスは後のキリスト教神学の発展に重要な役割を果たした。ペルシア・キリスト教の祖となったニシビスのバルスマスと親しかったイバスは、ニシビスに設立された、いわゆるネストリオス派の神学校とペルシアのキリスト教とも、バルスマスを介して繋がりがあったからである。ただし、イバス自身は、四四九年の教会会議での決定にもかかわらず、ネストリオス主義者ではなかった。
p.446
ディオスコロス自身は、キリストは「二つの本性からなる」のであって「二つの本性において」ではないと主張し、フラウィアノス、ドムノス、イバスその他を罷免したことを正当化した。…数年後に追放先で死んだディオスコロスは、正統主義教会ではほとんど忘れ去られたが、単性論者の間では、権力と影響力を駆使して自分の教理を他の人々に強要した熱狂主義者としてではなく、真の信仰の擁護者として称えられた。
p.447
キュリロスは「受肉した神であるロゴスの一つの本性」という表現を用いていたため、キリストの神性に対応する本性と人性に対応する本性とを明確に区別する人々から疑いの目を向けられてきたのである。二つの本性に関しては、キュリロスは「受肉前」のという意味では受け入れ、キリストについて「二つの本性からなる」ということもできたが、彼は決して「二つの本性において」とは言わなかった。それに対してレオの「トムス」は結合後のキリストに二つの本性があることを認め、受肉にとって不可欠なcommunicatio idiomatumを認めた上で、キリストの人性と神性を区別して、ある事柄を人性に、ある事柄を神性に、それぞれ帰することができると主張している。…ただし、結合の後には一つの本性が存在したという教理は、コンスタンティノポリス教会会議でエウテュケスが主張し、四四九年にエフェソ教会会議で宣言されたものであった。そのために、西方からの使節とアンティオキア学派の一部は、キュリロスの権威と正統性を認めつつも、「二つの本性からなる」という定式は不十分だとして、「二つの本性において」の表現の方を積極的に用いた。(18)
18 一部の極端なアンティオキア主義者は、「二つの本性からなる」という定式はアポリナリオス主義の「受肉した神であるロゴスの一つの本性」という定式と同じであり、非難されるべきだと主張した。
p.449
教会にとっての信条は相変わらずニカイア信条であるが、それは今や、救い主の本性を「混同」したエウテュケス主義だけでなく、二性を「分離」したネストリオス主義をも斥けた、カルケドンの「信仰基準」に即して解釈されるべきなのである。エウテュケスだけでなくキュリロスも用いた「二つの本性からなる」という表現は、明白に非難されることはなかったが、エウテュケスが理解したような意味での解釈は否定された。同様に、「二つの本性において」という句は受け入れられたが、この表現のネストリオス主義的な解釈は明確に拒絶された。
『手塚治虫文化賞』マンガ大賞は『チ。―地球の運動について―』魚豊氏が史上最年少24歳で受賞
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第26回手塚治虫文化賞の贈呈式が2日、東京・汐留の浜離宮朝日ホールで開催され、マンガ大賞を受賞した『チ。―地球の運動について―』の著者の魚豊氏（25）が出席した。
同作は、天動説が定説の時代に、禁じられた地動説の証明に命を懸ける人間たちを描いた物語。15世紀のヨーロッパが舞台で、異端思想が火あぶりに処せられていた時代、主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。しかしある日、ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは異端思想ド真ン中のある「真理」だった。
5月の発表時点では24歳で最年少での受賞となった魚豊氏は、盾と鉄腕アトム像を受け取り、壇上で「いろんな人の協力があって、こういう賞をいただけた。本当に感謝しております」と口にした。
その後「2分ぐらいのスピーチということで何を話そうかなと思っていたんですけど…。社会問題に触れたり、漫画の記号表現に触れたりしようかなと思ったんですけど、そんなので言えることはない」。続けて「そもそも漫画で描けること、言えることが全然ない人間。というのも人より特殊な人生を送ったわけでもないし、マジョリティ側で、のほほんとやってきた。なにか問題に直面して悩んでいる人に届く言葉も持っていない。面白いものが読みたかったら過去の偉人の名作が膨大にあるから、それを読めばいい」と素直に明かした。
そして「『なんでやっているんだろう』『僕が描く意味なくない？』という話だと思うんですけど、僕もそう思って悩んだり、不安になることもがないわけではない」と胸のうちを語りながらも「そういう不安を凌駕するぐらい僕は自分の漫画に自信がある。それはなぜかと言うと、僕の漫画はほかの誰でもない僕にとって必要」と力説。「僕の漫画が僕に勇気を出させたり、挑戦させたり、冒険させてくれる要素もある。自分の漫画は自分しか描いてくれない。こういうめっちゃ名誉ある賞をいただくと、人から褒められるためにやっているんじゃないかと勘違いしそうになる。9割ぐらいは褒められるためにやっているんですけど…。残りの1割、初期騒動は自分に届く言葉とか、自分に刺さる場面を描いてみたいという思いで始めた。こういう機会で、初心に戻って。その根底は1歩も引かずに、そこから積み上げていって将来的に副次的に誰かの何かのためにつながればいいなと思っております」と熱く語り、スピーチを締めくくっていた。
『ビッグコミックスピリッツ』で2020年9月より連載がスタートし、「マンガ大賞2022」第5位、「マンガ大賞2021」第2位、「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第10位、「このマンガがすごい！2022」（宝島社）オトコ編第2位を受賞した人気作品で、コミックス累計発行部数は200万部を突破。コミックス最終巻は6月30日に発売される。
「手塚治虫文化賞」は、日本の漫画文化の発展、向上に大きな役割を果たした手�犲Ｃ郢瓩龍叛咾魑�念し、手�犹瓩了屬魴僂い婆＿菠顕修侶鯀瓦僻�展に寄与することを目的に、朝日新聞社により1997年に創設された賞。〈マンガ大賞〉〈新生賞〉〈短編賞〉〈特別賞〉の4賞がある。
新生賞は『教室の片隅で青春がはじまる』（KADOKAWA）、『今夜すきやきだよ』（新潮社）の谷口菜津子氏、短編賞は『いいとしを』（KADOKAWA）、『白木蓮はきれいに散らない』（小学館）のオカヤイヅミ氏が受賞。特別賞は該当なしだった。
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