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2022年03月13日11:43

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【読書日記】独裁者の孤独(スターリン伝記)

独裁者の孤独という謎

みんな心の底ではちょっと思ってる。何でも自分に思い通りになるのが幸せなら、絶対的な独裁者こそがもっとも幸福な人間である。だけど、自分は独裁者にはなれない。せいぜい小暴君にしかなれない。だから絶対的な権力をもってるような独裁者が妬ましくて、けなしたくなる。

いろいろなけなし方があるが、そのなかでも「独裁者の孤独」というのがその有力な根拠の一つであった。権力を独占すればするほど、独裁者は孤立して、仕合せになるどころか不幸になる。それ見たことか。そう思って少し溜飲を下げる。

独裁者を批判するのは正義の側に立つことでもあるから、立派なことを言いながら、密かに私的な復讐を遂げることができる。一石二鳥だ。いな、ついでに自分に無力さから生じる不幸にも目をつぶれるから、一粒で三つ美味しい。

そういう心理が働くから、「独裁者の孤独」もあまりに使い古されて、これもまた陳腐になってしまった表現の一つである(タイトルが「」つきなのはそのせい)。それで、独裁者はみんな孤独というのが当り前になって、それがなぜなのか検討もされない。だがそうなると、本当にそうなのかという逆張りの問いに対して、よい答えが見つからなくなる。いざ問いかけられても、「そんなこと決まってるだろ、バカ」とお茶を濁しといて、エヘン、エヘンと咳払いなどしてる。

だがそもそも、近代の独裁者の大多数は血統によって独裁者の地位を受け継いだのではない。自力で独裁者の地位に昇りつめた叩き上げが多い。自分に忠実な仲間や子分がいなければ、とてもそんなことはできまい。孤独な者は独裁者になれない。孤独になるのは独裁者になってからであって、それ以前はむしろ子分に慕われ恐れられる親分でもある。悪の首領はむしろ普通より大勢のひとに囲まれている。

そんな人が、どうしてあえて孤独な独裁者になることを選ぶのだろう。自分の理解できないものは何でも病気にしたがるのは今に始まった風潮ではないが、この場合も「性格異常」ということで片づけられることが多い。そういう目で独裁者たちの経歴を振り返れば、いくらでも性格異常を示すような点が見つかる。

あいつはもとから権力欲とか嫉妬心が異常なほどに強い。生れながらに独裁者になる素質があった。独裁者の伝記というか伝説には、こういう臆断が纏わりついている。ヒトラーもスターリンも毛沢東もそうだ。一概に間違っているとは言えないのであるが、それで片づけてしまうと、独裁者というのは例外的な存在であって、普通の人びとは仮にそんな風になれてもならない、という油断を生みがちである。近代的独裁者を人類の外に放逐するという操作によって、人類が浄化され、近代が安易に救済されてしまう危険がある。


人間スターリン

自分は昨年、サイモン・セバーグ・モンテフィオーリという人の書いたスターリンの伝記を読んだ。『スターリンーー赤い皇帝と廷臣たち』と『スターリンーー青春と革命の時代』である。特に後者は、今まであまり知られていなかったスターリンの幼少期から青年期を扱った、画期的なものであるらしい。

スターリン級の政治的「怪物」になると、伝記を書くのも客観的ではいられない。ぼくらの自己理解が、彼らをどう理解するかと無関係ではない。もう「怪物」という評価が決まっているから、それを否定するようなことは書きにくい。いかに怪物であったかということの根拠になるような事実を並べた方が喜ばれる。下手に定評を修正するような事実を強調すれば、たちまち歴史修正主義の非難を巻き起こしかねない。

それでも、もうスターリンを直接知っている人たちが少なくなれば、少し距離を置いて、生まれつきの怪物ではなく人間スターリンをもう少し冷めた眼で見れるようにもなる。これらの伝記も、そういう歴史的距離の賜物であるらしい。

そんな伝記から浮かび上がってくるスターリン像は、ちょっと意外なところがある。仲間と猥談に興じるよき友人。面倒見のいい親分。気難しい妻にてこずりながらも愛する夫(伝記では、この妻の自殺をきっかけにスターリンは仲間との距離をとり始めたという、ちょっと感傷的な仮説に触れられてる)。娘を溺愛する父。正規の教育を受けずに独学で学んだ多読家。晩年はゲーテ研究までやってる。

スターリンは人一倍傷つきやすく、嫉妬深いことも指摘されている。自尊心と劣等感が同居している、複雑なパーソナリティだ。しかし、それだけで彼が「異常」な人間であったと言えるかどうか疑わしい。そんな人が二十世紀の怪物、政治史上の最も血にまみれた殺人者の一人になりうる。ここに謎がある。


独裁者以前のスターリン

粗野で暴力的、官僚主義的と言われたスターリンには、実は古典的教養をもつ知識人(彼は神学校に行っている)とギャング団の親分が同居してる。ボヘミアンな漂流民気質まで持ち合わせてる。ギリシア語でプラトンを読み、革命家としてより民族詩人としてまず世に知られていた。

そうは言っても、彼は早くから暴力に取り囲まれて育った。暴力は彼にとって両義的な意味をもったようだ。一つは酔いどれの父が妻子にふるう暴力で、ロシアのツァーリの暴力に重なる。だが、もう一つは、家父長の暴力に対抗する暴力、浄化のための暴力である。言うまでもなく、革命の暴力につながる。さらに、グルジアの氏族的な暴力の文化が、彼をギャングの親分として鍛え上げた・・・・・

続きは↓
【読書日記】独裁者の孤独(スターリン伝記)|てれまこし
https://note.com/telemachus/n/nf0df662c1d44
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