上野オークラで加藤義一監督の新作「すけべ繫忙期 モーレツたらし込み」を観る。20年の「オトナのしおり とじて、ひらいて」に登場した「予約完了」が口癖の無責任男、繫を主人公にした続編。
セフレの女の子の相談に乗ったことから、その恋人である社長の会社で働くことになった繫。そこで幼馴染の女性と再会、嫌味な上司のもと、電話の営業を開始する。
観客に向かって話しかける繫、歩いてではなく、移動でフレームに入ってくる登場人物たち、何かと眼鏡を変える上司、必要なものは画面の外から投げ込まれる。これらの手法がコメディとして効いているとは言い難い。
さらに「サラリーマンはやったことがない」と言う繁だが、前作でヒロインの会社に途中入社してこなかったか。いい雰囲気だった不思議ちゃんはどうなったのか。
しかし社長の性的不能を治すことで入社、欲求不満の女社長をセックスで満足させることで営業成績上昇と、いかにもピンク映画風展開は、なかみつせいじさんが久しぶりにコメディ演技を見せていることもあって、昔の作品を観ているよう。この雰囲気は悪くない。
繁も女社長とセックスするのは金のためではなく、喜ばせるため。金の亡者である社長に意見し、幼馴染の夢のために本気で無人島を購入しようとする心意気で見せる。不満な点もあるが、フィルム時代のピンク映画を思い出させる楽しさがある。
ポレポレ東中野で城定秀夫監督「欲しがり奈々ちゃん ひとくち、ちょうだい」を観る。6月の城定祭りでは、Vシネとして特別上映されたが、ソフト化されず映画の新作として上映。
コンビニのバイトの面接を受けるヒロインの奈々。面接をする店長の結婚指輪に見入る。その後前の職場で付き合っていたと思しき男が現れ、妻と離婚したからと結婚を申し込む。それを冷たくあしらう奈々。店長と働く奈々。次の場面ではラブホテル。
冒頭の簡潔な描写で、奈々のキャラクターを見せる。後の回想場面でも強調されるが、人の物がいとおしくなる性格だ。それは他者の夫でも、食べ物でも同じ。醜いものフェチの「花と沼」のヒロインと同じく病んでいる。
奈々は「妻を愛しているから離婚しない」と言う店長にのめりこみ、同じコンビニで働く妻とも親しくなる。店長を守屋文雄さん、妻を並木塔子さんと、「恋の豚」でも夫婦役だった2人が演じているので、すんなり入っていくが、後半意外な展開になる。
店長も奈々同様病んだ人物奈々とともにこちらも驚く。ここからの2人の行動にまた驚く。店長の勇気を出した告白は、当然拒否されるとわかっているが、相手が嬉しそうに笑ってくれたことで救われる。気持ちの入っているこちらもホッとする。
珍しく城定監督本人ではなく、首藤凛監督の脚本。いつもは歓喜の移動撮影が、今回は奈々が負の感情を持つ場面で使われるなど、ちょっと変わったところがある。
しかし後半の2人の変化を丁寧に見せるなど、面白さは変わらない。ドロップアウトした2人が、「何とかやっていきます」と言うラストも嬉しい。城定映画は今回も楽しめた。
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