mixiユーザー(id:492091)

2021年08月09日01:22

25 view

映画『サマーフィルムにのって』作品レビュー

映画『サマーフィルムにのって』作品レビュー

 「甘ったるい青春映画は苦手」という人は安心してください。本作は勝新太郎ファンの女子高校生が、高校最後の夏の思い出に、仲間と時代劇映画を撮る物語です。
 集まったのは仲良しの友達や一芸に秀でた同級生の素人集団で、手作り感満載。憧れや見よう見まね、局所的こだわりなど映画ファンの胸中に忍び込んで、いつのまにか見入ってしまう熱気ムンムンの青春映画でした。

 恋愛ものばかり撮る映画部でくすぶっていたハダシ(伊藤万理華)は、勝主演の「座頭市」シリーズを見て「尊すぎ」とうっとりするほどの時代劇マニア。
 ある日、自作した脚本のイメージにぴったりな憂いを帯びた美青年凛太郎(金子大地)と出会い、理想の主演俳優を見つけたと狂喜します。嫌がる彼を半ば脅して説き伏せて、凛太郎主演の時代劇「武士の青春」の撮影を開始するのでした。
 ロケに合宿、仲間との語らい。映画と青春が夏空に輝く。ハダシは凛太郎に恋心を抱くが、彼にはタイムトラベラーという秘密があったのです。未来で大監督として名を馳せることになるハダシの大ファンだった凛太郎は、ハダシ作品でデビュー作となりつつも、埋もれてしまった「武士の青春」をひと目見たくて、この世界にやってきたのだといいます。 
 ハダシが監督する「武士の青春」は、人間的にひかれ合いながら闘わざるを得ない男2人の物語。その関係が「未来人」へのかなわぬ恋と重なります。物語の結末と恋の決着は、文化祭当日の上映会の場で完結するのでした。それは、映画の未来を賭けた「決闘」でもあったのです。
 
 青春映画が突然タイムトラベルものに変異してしまう松本監督の自由奔放なアイディアにはついて行けないところや、シナリオの荒さを感じてしまう、ツッコミどころ満載の出来上がりでした。ケチをつければキリはありませんが、それでも学生映画の奔放さや葛藤が随所に表出。王道だけどホップ、「あるある」感とテンポ良いストーリーテリングで、映画作りの喜びとワクワクする気持ちが伝わる演出で引きつけてくれました。

 1988年生まれの松本壮史監督はCM制作が多く、長編映画は今作が初めてだそうです。同世代の劇作家三浦直之と共同で脚本を書き、座頭市や「時をかける少女」など、好きなものを詰め込んでできあがったのが本作。そのためか、取り入れた要素と要素のつなぎ方が未消化で、後半からラストにかけての展開に唐突感は否めません。松本監督は「脚本を読んだ時、どのキャラクターもものすごく愛おしくて、私が味わったこの感動をちゃんと伝えられるか、プレッシャーでした」と心配しています。もちろん充分に映画作りにかける情熱の部分は伝わってきますが、タイムトラベルのところは、アイディア先行しすぎではなかったでしょうか。
 本作では、未来社会で、映像作品はどんどん時間短縮し、わずか5分で長編作品とみられてしまうネット動画全盛の社会となり、今のような劇場公開映画は滅んでしまったことになっています。それは全くあり得ないことではないだけに、このシークエンスに説得力を持たせたかったのなら、続編としてもう一本作るくらいの意気込みで、きちんとストーリーを立てて欲しかったです。

 それにしても好きなことに打ち込む人の姿は、なぜこんなに美しいのでしょう。つい撮影に巻き込まれた凛太郎のように、ハダシの明るさ、熱っぽさがぐいぐいと物語に引き込んでくれます。名セリフも多く、撮影班の同級生に「この夏の間、みんなの青春、私にちょうだい」と言い切る姿は貫禄たっぷりでした。
 演じる伊藤は、当初この子は誰?と思っていました。調べてみるとアイドルグループ「乃木坂46」出身なんだそうです。とてもアイドル顔には見えません(^^ゞ映画での主演はまだ少ないですが、中学生かと思うくらいのあどけなさに、意志の強さを見せつけて、ハダシ役ははまり役でした。最後の対決に臨む時の『この作品を一番愛しているのは私だ』と心を奮い立たせるところは、ビシッと決めていましたね。

 ところで劇中劇『武士の青春』は殺陣のシーンがなかなか良くできていました。殺陣は初めてというのが信じられないくらいです。
 
 ハダシが『武士の青春』を作って映画の未来をつなげたように、この『サマーフィルムにのって』を見た人がその先の映画の未来を作るかも知れません。そんな連鎖が拡がっていけばいいなぁと思いました。長編映画危機の時代を臨んで。(2021年8月6日公開)

☆公式サイト
https://phantom-film.com/summerfilm/



2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年08月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031