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2021年08月02日23:44

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映画『返校 言葉が消えた日』作品レビュー〜自由を切望 台湾「新たな波」

映画『返校 言葉が消えた日』作品レビュー〜自由を切望 台湾「新たな波」

 日本を含むほとんどの国は、台湾を「国家」として認めていません。中国は自国の一部と主張しています。しかし、台湾映画は中国映画の一部ではありません。公開中の2本の台湾映画は強烈にそう思わせてくれます。
 そのうちの一本である本作は、国民党の独裁政権下で、長らく市民への思想弾圧が行われていた白色テロの時代を背景にしたミステリー仕立てのホラーです。
 観客に"恐怖"を提供するホラー映画は、テーマが二の次になりがち。ところが台湾のジョン・スー監督のこの長編デビュー作は、重いメッセージをはらんでいたのです。
 本作は、台湾のアカデミー賞に相当する金馬奨の5部門を受賞、2019年度の台湾映画興行収入第1位となった作品です。
 人気ホラーゲームが原作ですが、同じく白色テロの時代を扱ったエドワード・ヤン監督の「枯嶺街少年殺人事件」のような鋭い作家性はありません。
 負の歴史を描く物語は実に重いものがあります。しかし迷宮に閉じ込められたファンが体験する悪夢的感覚に、台湾現代史の闇を重ね合わせた世界観が秀逸です。「共産党のスパイの告発は国民の責務」とつぶやき襲いかかる怪物は、まされもなく理不尽な強権主義のメタファーといえそうです。 

 物語は、国民党独裁の戒厳令下の1962年。言論が弾圧され、違反者は処刑された「白色テロ」と呼ばれる時代でした。
 高校3年生の少女ファン(ワン・ジン)が教室でうっかり眠ってしまいます。目を覚ますと校内は人の姿が消えていました。なぜか不気味に静まりかえった校舎は廃虚と化していたのです。異様な雰囲気の中をさまよううち、後輩の男子高生ウェイ(ツォン・ジンファ)と出くわします。彼は政府が禁止する本をひそかに読む読書会のメンバーでした。
、無人の校内を探索するふたり。学校から出ようとしますが、何故か洪水の濁流に囲まれていてに学校の外が出られないようになっていたのです。
 やがて彼女は、秘密の読書会のメンバーが当局に摘発された事件の真相に迫っていきます。
 
 戻った校内では地獄と化し、いかにもホラー的な光景が展開するのでした。それは読書会のメンバーの生徒たちが講堂で頭に麻袋をかぶせられ拷問や首吊りにあっているところでした。
 さらに惨劇は続きます。校内に張り巡らされた不気味な「忌中」の紙。ウェイのほおに血が垂れ、天井からつるされた級友らが映ります。
 ウェイは監禁された友人ヨウを助けますが、ヨウは教官に射殺され、手にしていた人形の首が床に転がるのでした。そんな拷問されるウェイの回想では、ウェイの喉をファンが切り裂くと、血まみれの禁制本が出てくるのです。けっこうおどろおどろしいシーンが長く続きました。人形の白い首や回想場面は明るく緑寄りに撮られているため、流れる血が余計に印象的で不気味さを強調していました(^^ゞ。
 こんな異様な光景を前にして、自分たちが捕らわれたのは「密告者の地獄」だとふたりには分かってくるのです。不幸な時代に生きた人々の恐怖や痛み、悲しみが、見る者に生々しく突き刺ささりました。
 その一方で、回想シーンではファンと教師の淡い恋模様が描かれますが、暗く憂鬱な時代の閉塞感は彼女らのささやかな幸せさえ容赦なくのみ込んでいきます。
 
 やがてストーリーは、この惨劇を招いた密告者をめぐる謎の答えを提示し、悪夢から覚めたかのように現代のエピローグヘたどり着くのでした。

 自由に生きることが罪だった時代。そんな台湾の負の史実をホラーの手法で落とし込んだ斬新で刺激的な一作といえるでしょう。政治的な弾圧の光景を一つの学校、さらに小さな読書クラブというミニマムな視座から見つめ、若い世代に橋渡しする意図も強く感じられました。台湾で大ヒットを飛ばしたことで、民主化後に生まれた世代もも劇場に足を運んだそうです。台湾戦後史をよく知らない日本人、とりわけ若い映画ファンには驚きの一作ではないでしょうか。

 ただホンネを言うと、作品のほとんどが主人公の悪夢の中の描写となるので、場面展開がめまぐるしく、あわただしいままに終わってしまった感じです。なので正直言って、本作はもう一回見ないと理解できないところがあって、このレビューも抽象的な説明に終始することになってしまいました。ごめんなさい<m(__)m>
 
 荒廃した学校と雨で真っ暗な周囲、ゆらめくろうそくの炎とホラーのお膳立ては十分なんでしょうけれど、そもそもホラー仕立てや血しぶきが舞うスプラッターなシーンは苦手なんです。過酷な拷問や凄惨な殺害場面などそれを上回る恐怖の時代の陰惨な描写が全編を貫く本作は、わたしの肉体が全力で拒絶してしまったことは拭えません。
 同じようにホラー仕立てが苦手なひとには、あまりお勧めしたくない作品でした。(2021年7月30日(金)公開)

☆公式サイト
https://henko-movie.com/




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