mixiユーザー(id:492091)

2021年06月17日16:41

57 view

映画『明日の食卓』作品レビュー〜他人事ではいられない、現代日本が抱える家族の闇。 愛情が憎しみへ…

 神奈川のフリーライター留美子(菅野美穂)、大阪のシングルマザー加奈(高畑充希)、静岡の専業主婦あすみ(尾野真千子)は、いずれも石橋という姓を持ち、小学5年生のユウという息子を育てている。そんな見ず知らずの3人の母親を主人公にした椰月美智子の同名小説の映画化したものです。
 
  女優3人は三者三様の母親を演じているのですが、三人とも同じ姓で息子の名前も同じ“ユウ”というから、見ている側は最初混乱しました。
 途中なんの説明もなく、直接交錯しない三つの物語をパラレルに展開されてしまうのは面喰らいます。それでも徐々に事情が飲み込めてからは、それぞれの日常の揺らぎを見せていく瀬々敬久監督の語り口に、さすが熟練の技と感じ入ったのです。

 本作は、「どうしてあんなことをしてしまったのか。時間を巻き戻せるなら、あの日に戻りたいと、何度思ったことか…」という冒頭のイミシンな言葉がすべてを表しています。そしてとある母親が感情のあまり自己を失って、わが子に暴力を振るい、死なせてしまうシーンから始まりまるのです。
 物語のクライマックスでは、この家庭内暴力が誰にでも起こり得る事件として、身につつまされる展開を、3組の家庭を通じて描かれました。
 ちょっとしたボタンの掛け違いで起こってしまうわが子殺しの悲劇。その背景として本作があぶり出すことが、人と人のつながりです。「核家族」という言葉が生まれて久しいですが、現代人に欠けているのは、人間関係でしょう。希薄になった親子関係もそうです。そこに日本の光と闇そのものが潜んでいるものと思われます。

 その過程では、夫とのすれ違い、仕事と育児の両立の難しさ、ひとり親の貧困など、世の母親たちが苛まれるありとあらゆる問題が詰め込まれて、思わず「うちもあるある!」と頷きたくなる家族ドラマでした。なので、優しそうなタイトルにだまされてはいけません!登場する3家族は日本が抱える典型的な闇を抱えた一家を描いているわけです。

 前途したように物語は「イシバシ・ユウ」という同姓の男の子を持つ3人の母親が主人公です。

 神奈川で2人の子供を育てるフリーライターの石橋留美子(菅野美穂)は仕事も軌道に乗りかけた矢先、フリーカメラマンの夫が失職。仕事と家庭の両立にいらだち、息子のユウに手を挙げてしまいます。そこから仲のよかった夫婦関係にもひびが入ってしまうのでした。
 
 スーパーやコンビニで仕事を掛け持ちするシングルマザー、石橋加奈(高畑充希)の唯一の生きがいは息子ユウの成長。一人息子は聞き分けのあるよい子に育っていたと思われました。でも、加奈がためていたお金を弟に盗まれたのを誤解し、ユウを問い詰めると「オカンはほんまは僕のこと嫌いなんや!」と家を飛び出してしまうのでした。
 
 東京から静岡の夫の実家の隣に引っ越した専業主婦の石橋あすみ(尾野真千子)は遠距離通勤の夫を送り出し、優雅な暮らしと思いきや義母の目が気になって息が抜けません。 ある日、息子ユウの同級生の母親から「あんたの息子がうちの子に暴力をふるっている」と非難されます。息子に問いただすと涙を流して否定するのでした。しかしあすみは庭で粗相した義母に暴力をふるうユウを見てしまい、息子を頑なに信じていた気持が揺らぎ始めるのでした。。
 
 こうして3組の家族が崩壊してゆくことに。彼女たちはそれぞれに悩みを抱え、疲弊していく。夫婦間の不和、仕事と家事の両立、母子家庭の困窮、不景気とリストラ……。
 どこの家庭にもありそうな問題に社会の歪みも絡めた家族の実情。子育てに無関心、非協力的な夫たちがことを深刻にしていました。そして、昔は“かすがい”だった子供が今や家庭内弱者として、ストレスのはけ口になっていたのです。
 
 こうした家族の実情のその先にあるものは何なのでしょうか。これはまさに日本の縮図といってもいいでしょう。でもここでは単にワンオペ育児、困窮するシングルマザー、高齢家族の問題だけで片付けられないものがあったのです。
 世の母親を取り巻く過酷な環境と、自立できない夫や息子への愛情問題がからんで愛が憎しみへと変化することをこの映画は教えてくれます。それは決して他人事ではないことなのです。

 本作は、子を持つ女性なら頷くだろう様々なこと。理想と現実のズレ、葛藤、苦悩、怒り、悲しみを、深く抉るのでなく、誰もが共感できるレベルで並列し、てらいのない描写でストレートに伝えてくれました。コロナ禍で子供と向き合う時間がふえ傷が広がっている今、3人の気づきや選択が希望につながればいいのですが、子供とのズレが表面化した後の“希望”を感じさせる展開には無理やり感が残りました。やはり3人の母親は少々誇張されてステレオタイプに感じられてしまうところは否めません。それでも子育て中の描写には、凄いリアリティーも感じらます。
 一方、夫たちはどうしようもないほど小心で子供っぽく、父親にもなり切れていません。なので同じ不満を持つ若いママさんであれば、ダンナさんを躾けるための「教育映画」として役立ちそうです(^^ゞ
 もちろん3女優は大熱演でした。(公開日:2021年5月28日)

☆公式サイト
https://movies.kadokawa.co.jp/ashitanoshokutaku/

4 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2021年06月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930