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2021年06月17日11:56

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映画『トゥルーノース』作品レビュー〜北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族を描いた、衝撃の人間ドラマ。

映画『トゥルーノース』作品レビュー〜北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族を描いた、衝撃の人間ドラマ。
 
 本作は、“地上の楽園”と喧伝された北朝鮮に帰還した日系家族が突然、政治犯強制収容所に送られ、絶望の淵にありながら仲間とともに過酷な毎日を生き抜く様子を3Dアニメーションとして完成させた衝撃作です。
 日本国内では本作が紹介されるや否や数多くの日本のマスコミがとりあげ話題となり、日本国内の映画配給権は争奪戦となったそうです。各国の映画祭で続々入賞し世界中で話題となっている作品です。
  
 レオナルド・ディカプリオも激賞したドキュメンタリー映画「happy - しあわせを探すあなたへ」のプロデューサーの清水ハン栄治の初監督作品。
 一人三役を務めた清水監督は、タイトルに二つの意味を込めました。ひとつは英語の慣用句で「絶対的な羅針盤」の意。人間として進むべき方向や生きる真の目的を、究極の環境でも見失わない主人公たちの葛藤を描きました。
 ふたつめに「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」。それは今日でも12万人以上が収容されている政治犯強制収容所での人権蹂躙と、抑圧の中でも健気に生きる北朝鮮の人々のヒューマニティーを表現したかったそうです。
 収容体験をもつ脱北者や元看守などにインタビューを行い10年もの歳月をかけて作り上げましたのが本作です。
 
 描かれるのは昼夜を問わず課される強制労働に飢餓。そして公開処刑で恐怖心を徹底的に植え付けられこと。清水監督は、元収容者や元看守、脱北者から集めた証言を基に、その異常性を描写していきます。
 暴力と処罰による支配は、この世の地獄。私たちも、否が応でもその目撃者となってしまうのです。
 
 冒頭から、「死ぬまでここで?!」という悲惨な状況に頭がクラクラ。そのあまりに収容所のリアルな描写ぶりには、いかに人間性を保つのが困難かを思うと震えずにいられませんでした。
 というと、見るのをためらってしまうかもしれません。大丈夫、耐えられます。それはなぜか?折り紙で作った人形のような、ガクガクした素朴な風合いのキャラクターがストーリーを紡いでいくからです。ディズニーやピクサーのようにツルッとした精緻なアニメではありません。そこからある種の寓話性が生まれ、ショックが和らげられたのです。清水監督が、事実を広く知らしめる手段として、実写ではなくアニメーションを選んだ理由がよくわかりました。
 
 重い現実を暖かみある3Dアニメの寓話としたこと。それだけに家族愛、人に優しくあり続ける強さと美しさに感動し、涙なしでは見られなくなることでしょう。
 
 ホラー映画より酷い実態の見た日を和らげつつ、牧歌的な光景なども挟みながら、観客を目撃者としてエンドロールまでつなぎ止めてくれたのでした。なので現に12万人いるといわれる政治犯が公開処刑や拷問、陵辱にさらされる日々が十分伝わってきます。

 物語は、1960年代の帰還事業で日本から北朝鮮に移民し、パク一家が平壌で幸せに暮らしているところからはじまります。主人公の少年ヨハンのほか両親、妹ミヒの4人暮らし。ちなみに1959年から84年まで続いた帰還事業で、多くの在日朝鮮人や配偶者、その子供らが、当時「地上の楽園」と宣伝された北朝鮮へ渡りました。その数は、約9万3000人に上るといわれています。
 
 穏やかな生活は、父が政治犯の疑いで逮捕され一変。同罪とされた母子も、着の身着のまま、極寒の荒れ果てた政治犯強制収容所へ連行されることになります。
 
 物語の軸となるのは、誰しもある弱さと強さの闇で揺れ動く、ヨハンのドラマです。真に恐ろしいのは、虐待を受け続けることにより、人間性が丸ごと奪い去られてしまうこと。心優しい少年は、生き延びるため、次第に優しい心を失い、仲間を密告し、看守に取り入る「人でなし」の青年へと変貌してしまうのです。

 一方、母と妹は人間性を失わず、倫理的に生きようとして命の危険にさらされます。
 恨みを買い、利己的な行いの高い代償を支払うことになったヨハンを、「大いなる善」として変わらずに存在する妹ミヒが救うのです。病に苦しむ者を看病し、食べ物を分け与え、日本の童謡「赤とんぼ」を口ずさむミヒは、この映画の光といえるでしょう。
 そんなある日、愛する家族を失うことがキッカケとなり、ヨハンは絶望の淵で「人は何故生きるのか」その意味を探究し始めます。さらにそんなミヒが守衛兵にレイプされて身ごもる事態となって、ヨハンはある賭けに出ます。収容者の妊娠が発覚すると、母子ともに公開処刑される決まりとなっていたのです。
 
 やがてヨハンの戦いは他の収監者を巻き込み、収容所内で小さな革命の狼煙を上げるのでした。
 
 最後に、本作では脚本も手がけた日本人拉致被害者も登場します。世界のだれにとっても他人事ではありません。
 強制収容所内の恐るべき実態を描きつつ、家族愛、仲間との絆・ユーモア、死にゆく者への慈しみの心情などが表現され、ラストにはひとつの希望を見い出せる内容となっています。ぜひその感動を多くの人と共有できればと願ってやみません。
 
 なお、本作の全編は冒頭で登場する脱北体験報告会の会場で、体験談を語る報告者の語ることとして展開されました。その報告者は誰なのか、ラストでわかるとき、複雑な境地となって涙されることでしょう。
 
追伸
 現代の伝統宗教の多くが唯物論に染まっていていて、仏教やキリスト教徒の多くが輪廻転生に対して否定的です。ところが唯物論の国北朝鮮で暮らす本作の収容所の人々の間では、人は死んだら終わりでなく、生まれ変われることが広く信じられていたのです。
 
 それは日本から北朝鮮に移民した人からの伝聞でした。それでも、生まれ変わったら今世とは全く違う幸福な人生となるという輪廻転生の話に、多くの人が飛びついて聞き込み、希望を見出したのです。
 元クリスチャンの人が、落命した人に祈りを捧げただけで、処刑されてしまう厳しい宗教弾圧が続く北朝鮮であっても、素晴らしい来世を願うことにフタすることはできなかったのでした。



「虐げられた人たちがいるので、何とかしないといけない」 北朝鮮の政治犯強制収容所に生きる家族を描いた衝撃作『トゥルーノース』監督インタビュー
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=85&from=diary&id=6546288
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