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2021年06月10日14:57

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映画「るろうに剣心 最終章 The Final」作品レビュー

 昨日『Beginning』を見たことを前提にしたレビューです。 

 2014年に連続公開された「るろうに剣心」シリーズは、ハリウッドとは異なる活劇の可能性を示したものとして、邦画の娯楽作品の中で金字塔を打ち立てたシリーズです。 特に第2作「京都大火編」と第3作「伝説の最期編」は素晴らしい!
 若手を中心とした俳優たちの知られざるポテンシャルを最大限発揮したものとして。5年以上の準備期間を経た今回の「最終章 The Final」は、その達成をさらなるピークへと押し上げたといっても過言ではないでしょう。

 静かなる主人公・剣心(佐藤健)の新たな敵となるのは、上海帰りの雪代縁(新田真剣佑)です。彼の姉は剣心の妻だった亡き女性、つまり縁は剣心の義理の弟に当たります。 彼らの皮肉な因縁を背景に、剣心の左頬に刻まれた“十字傷の謎”に迫っていくのが物語の大枠となっています。

 監督は大友啓史。但しシリーズならではの活劇を彩るのは、アクション監督の谷垣健治の存在が欠かせません。長年にわたり香港・中国映画の現場を渡ってきた彼が、自身が影響を受けたベスト映画のひとつによく挙げるのが「ルパン三世 カリオストロの城」です。この作品の崖の斜面を走行するカーチェイスをヒントに発想されたのが、剣心の“ドリフト走り”であることは有名ですね。
 アニメやカンフー映画の流儀となるぶっ飛びの運動性を、まるでミュージカルの振り付けのような舞踏=武闘として培養し、ドラマと接着させたのが、本作の活劇シーンの特徴です。それが大友監督の掲げる「限界を超える」ためのメソッドなのだといえるでしょう。

 “十字傷の謎”と並び、本作で核心となるのが、雪代縁がなぜ剣心に恨みを持つように至ったのかについてです。それは目の前で、自身の姉であり剣心の妻だった巴を彼に惨殺されたから。詳細は後編の『The Beginning』で描かれていきます。ただ縁が目撃するところは本作の『The Final』でしか描かれていません。縁は姉の思いを知らずにただ剣心に斬られた姿しか見ていなかったのです。それでは、縁が剣心を恨んでも仕方ないでしょう。
 せっかく姉に協力するためにやってきたのに「帰れ」と言われたこと、姉の力になりたいのにさせてもらえない辛さなども見えた気がしました。
 
 巴も清里という許嫁を剣心によって殺された恨みを晴らすために近づいたものの、人をたくさん殺めてきた以上に人を救いたいと願う剣心の優しさに気付き、もう一つの幸せを手に入れたから、何としてでも剣心を生かしたいために身を挺し命を絶ったことが今回描かれていました。
 
 ただ本作の問題点としては、メインの縁の復讐劇を寸断して、度々断片的に過去へカットバックするため、巴が剣心に惨殺された経緯が分かりずらいし、現在の復讐劇に集中できなかったです。
 本来1本の企画であったものが『The Beginning』と分割しなければいけなかったので、どうしても『The Beginning』の関わる回想部分が断片的になったことは仕方なかったのでしょう。なので『The Beginning』を先に見てから、『The Final』を見たほうが、ストーリー的にはわかりやすいし、剣心や縁の心情に深く共感できることでしょう。
 
 そんな縁の復讐心は中国での数々の修羅場を潜り抜けられるほど根深く、剣心を殺すことだけでなく、剣心の周りの人物、言葉を交わした人物、さらには剣心によって平和になった国そのものにまで標的にし、剣心に痛みを与えるより苦しめることが目的になっていたのでした。
 
 そして迎え撃つ剣心は、縁がこれまで抱えてきた痛みに同情しながらも、自分がこれまでしてきた贖罪は決して間違いではなかったのではないかと自らに問いかけるのでした。 間違いなのは、その痛みを復讐として剣心以外の人間も巻き込んで苦しめることだと言い放ち、縁に立ち向かっていくわけです。
 
 必死に悩んでどう生きるべきかの道を決めた剣心。人を斬った分、人を救うことで贖罪してきた彼だからこそ、個人的な復讐に駆られる縁には応えた言葉だったように思えます。

 縁との最終対決では、劇伴を流さず効果音のみでバトルしているのが良い演出でした。2人の譲れない理由に重みが増したアクションだったというか。これまで以上に白熱したバトルシーンだったように思えます。
 ここまでのバトルでも、シリーズキャラクター総出で縁の手下となっている中国マフィア軍団と闘う集団バトルシーンも見物でした。バトルの激しさ、大かがりなところはシリーズ最高のシーンだと思います、但し、ちょっとワイヤーアクションがやり過ぎ気味で、剣心たちの動きが超人的過ぎました。

 そして忘れがたいシーンが、剣心が薫を伴って巴の眠る墓に詣でるシーンです。
「ありがとう、すまない、さようなら」と剣心はこころでつぶやき、薫の手を握ってその場所を去るのです。その時、ああ薫ちゃん良かったねと心から祝福したくなる心境になりました。
 『The Beginning』を見終わったときも、このシーンが頭の中をリフレインして離れませんでした。

 いたずらな大作志向ではなく、むしろ「小粒でもぴりりと辛い」といえるような精度の高い仕事を丁寧に積み重ね、キャストやスタッフが力の限りを出し合う「お祭り」として盛り上げた本作。
 いまの日本映画に可能なエンターテインメントの最良形の提示したのではないでしょうか。シリーズ全体のクライマックスにふさわしい高揚感を盛り上げていく一方で、憎悪と赦し、負の連鎖の超克をめぐる主題は、6月4日公開された前日談『最終章 The Beginning』へと繋がっていくことになります。
 気合とエネルギー、端正な語りと精鋭たちのチームワーク。すべてが素晴らしかったです。
https://wwws.warnerbros.co.jp/rurouni-kenshin2020/

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