mixiユーザー(id:66120937)

2020年11月05日14:47

173 view

スーヴェニール 4(作成中)

「何年ここに住んでたん?」「7年。小2になる前に引っ越してきたから。」「なっがいよね、、いやどうなん?長くはないのか、、」「いや長かった、2、3年くらいで終わると思ってたからな、」「あんたんとこもそんな感じ?」「うん、前のとこは2年しかいなかったし、その前は、」「えっ、そうだったん?じゃあ、うちが越してきたのとおんなじだ」「そうだっけ」「もっと前からいるんかと思ってた」「幼稚園一緒じゃなかったからな」「…違って良かったわ」「ん?」「いやいや、」
「あー、でもやっと出て行けるー」「この町嫌いなの?」「まあ、いろいろあったし」「ふーん、じゃあさびしくはないんだね」「ええと、まあ、出られる日を待っていたし」「そうなんだ。良かったね。」

「引っ越してったら何かやりたいの?」「うーん何しようかな」「すっごいキャラ変したりして?」「できるかな」「いきなりスポーツとか」「いやー、」「優等生キャラになるとか」「それは絶対無理。頭脳は簡単に変えられん」「簡単に変えられるのってなに?あっ、めっちゃ背伸びて下級生にモテまくるとか!」「そういうの止めたほうがいいよ…」「なに?」「身長いじってくるじゃん?言わなかったけど」「それは、小さいほうが可愛いから」「何言ってるの。…いや、人のそういうのはあまり言わない方がいいよ。嫌がられるから。」「嫌だったの?」「うん」「そうなんだ、ごめん」「いや謝らんでもいい」「でもいつのまにか背伸びたよね。」「そんなでもない」「まだ伸びるんじゃない?キャラ変わっちゃうよね。つまんない」「つまんないて」「だって、今だったら横見たらいるじゃん?上になっちゃうじゃん。なんかいやだ」「別にあんたがいるわけじゃないし」「そうか、そうだね。誰がいるんだろうね、彼女さんとか?」「さびしいでしょ」「うん、さびしい」

「いやいやいや、そういう意味じゃなくてね、遠くに行くんだなあって」「遠いかな」「広島って何があるの?」「知らん。あまりここと変わらんのじゃない?」「お城とかあるかな?」「さあ。あっ、原爆ドームとか?あとは、わからん」「お好み焼き」「それ広島なんかな」「広島もあったよ」「なんかあんまり知らんな」「知らなすぎるな」
「ああそうだ、今度行く学校は電車通学になるみたいだよ」「電車?」「うん、路面電車」「へー、じゃあまちなかなのかな?」「そうなんだろうな。」「いいなあ。登下校で町に出られるんだ」「こっちなんか田んぼ道と坂道だからな。」「都会の子になっちゃうんだ」「都会かどうかは分からんけど、まあな」「ふふ」
「あとな、今度の学校は給食があるよ。お母さんが喜んでるわ」「そうなんだ。」

「いま何分?」「ええと、45分」「もうそんなにたったの?」「大通りまでは行くよ。メイちゃん遭難させたら困る。」「遭難はしないよ」「本当?」

「あたし迷惑だよねえ」「へっ?別に送るくらいなんでもないよ」「そうじゃなくて、まあいいや」

「なんかずっと黙ってるよね」「え?」「まあいいけど」「うん」「その帽子可愛いよね」「かぶってみる?」と帽子を取って渡そうとする。
「いらない、いいよ、」
そこからもう話すことも見つからない。黙ったまま並んで歩き続けた。時々紙袋を持ち直して胸に抱えた。
少し先を歩く後ろ姿、刈り込んだ首すじと伸びすぎた前髪(切れよ)、、ヘロッヘロだなあ…と眺めていた。この子はあたしの友達。この子が好きなんて、やっぱり無いよ。全然格好良くないし、恋なんかしていない、大丈夫。ただの友達、それが一番いいよ。
小さい時に知っているから、たまたま話しやすかった、それだけのこと。

黙っていると、どうやって話しだしたら良いか分からないまま大通りまで来てしまった。
「もうここまででいいからね。ありがとう」「うん」「元気でね。あ、なんかもらっちゃってありがとうね。あたしからは何にも無いのに」「もうもらってるから、いいよ」「缶ジュース?あれはリキコさんの、」「そうじゃなくてもっと前の」「あのセミ?あー。あんなもん」「えっと、あっと、いや、」ちょっと目をそらして「今までありがとうな」「?あたしなんにもしてないよ」「いつも話しに来てくれたでしょ。ああいうの今までなくて、楽しかった」「でも友達がいるんじゃない」「メイちゃんは違うよ。女の子だし」「女の子なの?えっと、でも、リキコさんは」「リキコはまた別だから。女の子って感じじゃない」「別…。」

「あ!あたしも」「なに?」「ありがとう、いつも普通に話してくれて」「なんだそりゃ」「いいの、ありがとうね」

「あのな、メイちゃん」「なに?」「なんかリキコがへんな話しなかった?」「あ、ああ」その話?緊張が走る。やめて。「何言ったか知らんけど気にせんでもいいからな」なんだ。「うん、気にしてない」「リキコちょっと考え過ぎなんだよな。ごめんな」「あの、あのね、」ああでも引っ越しちゃうんだよね。こんなん言っても無理だよね。「なに?」「友達、と呼んでいいんだよね?」「うん?どうぞ」「本当に?嫌じゃないよね」「なんで」「これからも。ずっと。」「いいよ、友達」「良かった。」

「ちょっと手出して」え?もうなんもいらんよ。紙袋を右手に持ち直し、いや、と左手に持って「なに?」右手を出すとその上に自分の手を重ねて「あくしゅ!」ぶんぶんと振り回す。「痛い痛い、もう」「手つめたいな」「心が温かいからかなあ。あんたは温いね。」「どういう意味」「あ、もう11時過ぎてない?」「気にしないでいいよ」
「あたし手大きいほうなんだよ、…あまり変わんないね」「メイちゃんピアノやってみたらいいよ、手大きいと有利だよ」「ヨッチン、ほんとは弾けるんでしょ」「いや、下手くそ」「そういえばギター聴かせてもらってないな」「あー、聴かせるほどじゃないから、それこそ」

「もう帰らなきゃ」「うん」「もう戻らないと怒られちゃうよ」「うん、そうだね、そろそろ」
「これ何入ってるの」紙袋を指差す。「ああ、大したもんじゃない。帰ってから開けて。びっくりするよ。しょうもなさすぎて」「そうなん?じゃあ楽しみにしておこう〜♪」「ほんまになんもないよ」「そうなんだ〜」
「なあメイちゃん」「ん?」「しかえし」手を頭に伸ばしてきてグシャグシャグシャ。「へんなあたま」と言って笑った。「ううう、もう」

「じゃあね、もう行くね、元気でね」「メイちゃんも」「うん。がんばってな。向こうでも上手くやれるよ」「だといいな」「だいじょうぶだよ、絶対。」

離れたらまた最初からやり直し。でもあの子の周りにはゆったりと温い空気が流れてるから、きっとだいじょうぶ。うまくやれるよ。
あたしとは違うもの。

少し歩いて振り向いたらまだそこに立っている。早く帰ってよ、と思う。小さく手を振ってみる。振り返すのがチラとみえたか見えないか、また前を向いて走り出す。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する