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2020年09月25日23:41

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最初の3ヶ月 14 (作成中)

帰りに保健室の横を通ってみた。札はかかっていない。鍵は開いているらしい。ということは保健の先生がいる。私はこの扉の向こう側には永遠に行くことはないなと思った。
うしろでドアの開く音がした。「あ」と言う声が聞こえた。私は振り向かない。足早にそこから立ち去った。私は何も聞いていない。たまたまここを通りがかっただけ。後をつけた訳じゃないし。

自転車置き場のところまで来た。あの子はいない。ホッとした。
ガヤガヤとお喋りしている女の子たち。クラスのうわさ話、昨日見たテレビの話、休みにどこそこへ遊びに行こうという話。私はそれに加わりたいとは思わない。ただ、その中に自然にまざれたら良いのにな、と思う。目立ちたくない。普通がいい。

通路をはさんで、男の子がふたりでふざけている。
一言ふたこと何か言って、小突きあってる。いいなあ。
ベタベタした親友なんかいらない。ただ気楽に声掛けて、あんなふうにふざけていたいだけなのに。普通に、自然に、なんにも考えないで。頑張って話し掛けたり、並んでお話したりするんじゃなくてさあ。

あたしそっちがいい。その席替わってよ。

実は、私は自分から何か人に働きかけてすることはない。妹や親ですら、誘って何かをしたことがない。人には言われた事と、いつもやっている事と、やるべき用事がある時だけ、動けるのはそれだけ。いきなり突拍子もないことなんて、できないんだ。

用事…そういえば。ひとつあったわ。
ヨッチンどこいった?

探さなきゃ。いや待て。あたしが行っていいのかな。どうしよう。行っちゃいけない気がする。でも行かないと。どうしよう。

校舎に戻りかけてカバンを手に取ったとき、
「あー、メイちゃんここにいたー」
少しガラガラの、ほうけたような声が聞こえてきた。
しまった。見つかった。カバンの持ち手を握りつぶす。ここにいちゃいけませんか。消えたほうがいいですか。

それなのに「さっき保健室のところにいたでしょー。」とか言っている。何だよ普通だな。
「知らない」と言うと「そっか。気が付いてなかったんか。逃げられたんかと思った。」気付いて逃げたんだよ、よく分かったな。

「また休んでたよね。」「うん」「お久しぶりですね」「うん」「何やってたの」「えーと、さっき?」「休んでる間」「あー、暇だったからまたいっぱい作ったよ。ほらほら。」カバンから折り紙の花を無造作に取り出して渡された。「これまだ一部だから、また持ってくるよ」両手の中に大量の花。ギュッと握りしめる。ふざけんな。「あーあーそんなに握ったら壊れる、いや延ばせばいいか…え、どうしたの」「…」無言で折り紙を投げ返す。あの子の頭の上に花吹雪みたいに散って、きれいだなと思った。
「なんで、うわ」持っていたカバンで頭をポンと軽く…のつもりだったが、勢いがついて思い切り張り倒していた。
「あっ、だいじょうぶ?」
すこしよろけたがなんとか持ちこたえた。
「痛いなあ。え、なんか怒ってる?」
「怒ってない。リキコさんにしばいていいって言われたから。」しゃがんで投げた折り紙を拾い集める。ごめんね、と言ってシワを伸ばしながら。「これ集めたら行くね。用事は済んだから」

と言いながら、ちょっと待てよと思う。「あんた何か用事だった?」「いや特に。なんで」「だって…」「何か用事ないとあかんの?」
えー、そんなのずるい。「あたしは用事ないと行っちゃダメなの?」「えーそんなことないよ」「…もしかしてあんた自分何言ったか覚えてない?」「へっ?なに?いつ?」「じゃあいい。思い出さなくていい。」「えっ何、それで怒ってるの」「怒ってない」
悲しかっただけだよ。
今もどう考えたらいいかわからないよ。
「えっなんだろう」「もういいって。じゃあ明日お昼に行っていいね」「えーと、お昼は…」「ダメなん?」「いやいいです。あー、なんか知らんけどごめんな」「なんで謝るの?まるであたしが怒ってるみたいになるからやめて」「あ、ごめん。じゃないや、わかった」

「あ、あかん」ヤバい。「どうしたの」「あー、あの、なんでもない、お腹痛くなってきた。だいじょうぶ」「いや、えっ?泣くほど?」「泣いてない」「薬もらってくる?」「いい、いい、ほっとけば治る。いつもだから」「でも」「ほっといてくれたら治る。もう帰る。ばいばい」
折り紙をカバンに詰めて、ヨッチン置き去りにしてその場から逃げた。ヤバいやばい。
振り返って「ばいばい」と軽く手を振って、また走り去った。あの子が振り返してくれたかどうかは知らない。
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