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2020年07月29日09:50

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最初の3ヶ月 2(作成中)

最初の転校生ブームは早くも2日で収まった。反応の薄い、つまんない奴だと分かると、潮が引くようにサーと周りから誰もいなくなり、平穏な日々が戻ってきた。私は無口になった。
あたし話ができない訳じゃないのよ?話しかけられたから返事してるよ。答えられる質問なら。答えられないことは、答えられなくても仕方ないでしょう。
自分からは特に話し掛ける用事もない。だから黙っていると、なんだろう、「黙ってるキャラ」みたいになってくる。喋る場面がやってこないだけなんだがな。
いつものことだけど。喋る場面、なんてどこに落ちているんだろう。
誰か話しかけてきたら返事をする場面が訪れる。先生に本読みに当てられたら教科書を読む場面が訪れる。あたし、ちゃんとしてるよ。

「なあなあ、学校で困ってることない?」
2日ほど巻いて帰るのに成功したが、今日は運悪く捕まってしまった。
「今んとこなんもないよ」「何かあったら言うてな」はいはい、親切ですね。でもあたし親切な人は苦手なのよ。「あんた何を知ってる?どこまで聞いてる?」昔だってクラス違ったしな。「えー。何かあったの?」「じゃあいい」大人しすぎると言っても学校中に知れ渡るほどじゃなかったってことだな。「あーあれか?おもらし」「わーー」「あんなん誰でもあるじゃん。1年生だし」そういう問題じゃねえ。ていうか何で知ってる。「あっ人には言ってないから安心して」当たり前だ。
「あのさあ、あたし小学生じゃないんだからな。そんなに不便してねーよ。してても自分でなんとかするよ」
「イジメられたりしてない?」「は?」「転校生はいろいろあるから」「そういうもんじゃないでしょ」「いや、あるんだよ」「あー、、そう。あんたがなんかしてくれんの?」「リキコって名前の子がおるじゃろ、あの子に頼んどくわ」「何を」「なんかあったら助けてやってな言うて」
「あの、あんたが動いたらややこしくなるから。いらんことしないでいいよ」「ん?なんで?」
お前アホなのか?天然か?わかれ。
「とにかく、そういうのやめて。何もしないで。」
曲がり角に来た。「じゃあ、」「待って。これやる。さっき拾ったの。手出して」「えっ何…うわっわっ」セミの抜け殻ごときでそんなに騒ぐかね。「じゃあな〜」そこに放置したまま自転車に乗って去って行った。

休み明けの月曜。1時間目の授業前になって気がついた。筆箱と国語の教科書忘れた。血の気がすっと引く。
チャイムが鳴る。「起立」「礼」どうしよう。…とりあえず、見つからないようにしなきゃ。授業をよく聞いていれば覚えられる。覚えきれ!そして後で思い出して書く!気合いがあればできる!
隣の子の教科書をチラチラと盗み見しながら、エアでノートを取るふりをする。どうか、見つかりませんように。
という願いも虚しく、「あれ?」隣の子に勘付かれた。「教科書忘れた?」諦めて、うん、と頷いて見えるところまで少しだけ机を動かす。それなのに隣の子の方から机を寄せてつけてしまった。固まったまま、寄せられた本をチラチラ盗み見て、椅子はなるべく遠ざけて。そんなに、見えなくていいです…そっちで見てください…。
授業が頭に入ってこない。この時間が早く終わることだけを願う。と、隣の子が急に本を押し付けてくる。えっ、何?「春名さん、当てられたよ」気が付かなかった。慌てて「はいっ」と立ちあがる。えーと、どこ?「…ページ」とささやき声で教えてくれた。聞こえない。でも聞き返せない。本を持って先生の方を見る、先生が見返す。「…。」ああ、まずったーっっ、授業よく聞いとけば良かったー。「もういいです、座ってください」そして何事も無かったように、つぎの人に当てられた。黙ったまま腰を下ろす。泣きたい。

休み時間のチャイムが鳴った。黒板の字が消されていく。「よし、」意を決して立ち上がった。3組だったよな、いるかな。
入り口のドアから覗き込む。席どこだろう。…いないか、、、「あ、メイちゃん、なに?用事?」
後ろから声がした。良かった。
「あのね、鉛筆貸してくれない?」「えっ、なに?声小さい」「筆箱忘れた。鉛筆貸して」「あっ、ちょっと待ってて」
わたし待つのは苦手。どこ見ていたらいいか分からない。だから、ペンケース持ってやってきた時は心底ホッとした。フタを開いてガラガラいわせながら「どれにする?」と聞いてきた。覗きこむと「ええと、これは、何?」「普段シャーペン使いだから鉛筆こんなんしかないけど、どうする?」「あー、えっこれどうやって使うの?」ケースの中には削って短くなった鉛筆らしきものがゴロゴロ転がり、あとは折り紙や、黒い丸いもの、折れた芯、「こうやって持てば使えるよ」いやいやいや、ほとんど芯先だけになった鉛筆を二本指で摘んで見せてくれたけど。「…シャーペン借りていい?」「やっぱりこれはダメ?」「ちょっと難しい」「あっ、これな、こうやって裏返すと色が変わるんよ」中の折り紙をクルクルと万華鏡のように返してみせた。「すごいね。器用だね」「あ、消しゴムきれいなのあるから貸してあげるよ」別のポケットから新品のを出してくれた。「いいの?」「これあるから」黒い丸い塊をみせてくれた。…なるほど。「じゃあ、後で返すから。」シャーペンと消しゴムをスカートのポケットにいれて、教室に戻って行った。

もう大丈夫。これでだいじょうぶ。ポケットから出した消しゴムとシャーペンを机の上に置いた。国語の授業のノートはもうとれないけど、これからは大丈夫、でも早く返さなきゃ。人に借りるのに、短い鉛筆押し付けて良い方をもらってきてしまった。やっぱり良くなかったかな。…まあいいか、上手に使えてたし、、あの子なら上手くやるだろう。大丈夫、大丈夫。

「えっ、もう返してくれるの?まだ午後があるでしょ」お昼休みに返しに行くと、そんな風に言われた。
「短いのと交換して。消しゴムもいい」「でも使えないでしょ。明日返してくれたらいいから、持っとき」「でも」「ええから、ええから。はいはい」外に押し出されてしまった。
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