mixiユーザー(id:66120937)

2020年07月02日08:57

117 view

MAY 5(作成中)

「あたし男の子だったら良かったな。」
メイはよくそう言っていた。「あたし男の子になりたいの、他の友達みたいに男の子の遊びができるじゃない?女の子だったら、なんか変なかんじになるじゃん?本当の友達になりたいの、名前だけでなくて」

その日の放課後、いつもはサッサと帰ってしまうのにやけにゆっくり支度をしているなと思いながら、目を合わせたら怒られるから見ないようにうつむいたままカバンに荷物を詰めていた。そしたら前からいきなり、頭をつかまれた。髪の毛をガッとつかんでワシワシしてきた。
「誰なー、痛ったいなあ」
いつの間にかメイが目の前に来ていて仁王立ちしていた。そしてしゃがんで言った。
「なあ、ヨッチン、あと一週間だよね」
まだ教室には他の生徒もいるよね。一体どうした?
「あー今週末だから、学校に来られるのはあと5日かな」「あのね、あのね、これあんたにしか頼めないからさ、今のうちに」そりゃ他の人とは会話できないからな(カナコさんとはいくらか口がきけるようだが)「あたし、やってみたかったことがあるんだ」「何?」
「男の子の服着てみたい」「ん?」
「貸して」

「貸して とは?」「制服でいいから。交換しよ。そんで街を歩きたい」

いやいやいや、待て待て待て。何を言っている?ワシも巻き添えか??と思っている間に、ブラウスのボタンに手をかけている。うわっ、まてっ、ギャー
「中に体操服着てるから大丈夫だよ〜。いやまって、あ履いてた、」他の生徒はとりあえず先にみんな出てるようだけど、いや無理だって。どうした、とうとう壊れたか?
「早く、誰か戻ってきちゃう。」「いやこっちは体操服仕込んでない」「じゃスカート貸してあげる。そんで、ズボン貸して。早く」
「いやー、やっぱりぴったりだー。背格好似てるからいけると思ったんだ」「…なんの真似だ」「似合ってるよ。可愛いよ。襟リボン結んであげる。」
「あれっ、何してるの」誰か戻ってきた。よし、間に合った。「よし、行こう」「じゃあな〜」

「で、どうしたいの?」「しばらくこのまま外に出たい」「うっ、、自転車は?」「あとでいいや、あっ、あんたは喋らないでね、今からあんたがあたしの役」「いやそれは無理、、」「結構いけるよ、バレないバレない。」「あんたも黙っときな」「えー」「だって声が」「そっか、、あっゆうじくんが来たよ、ほいほーい」「…もう、やめて、、絶対変な顔で見られた…」
「あはははは、楽しーーい。やっぱり自転車持って来ようよ、このままあんたの家まで行こう」
「…いいけど、なんか変だぞ?今日どうしたの?」
「いつも変じゃん?」「まあそうだけど、、こんなことする子だった?」「だから、今日やりたいのよ、特別だよ!」
「なんでこんなにサドル高いの。」とモゴモゴ言いながらお互いの自転車を持ってきた。「あたしあんたみたいに見えるかな?」「いや、」「あんたになりたいのよ」「うーん無理」しばらく無言で自転車を押して歩いた。無言のまま本屋に寄って、少し立ち読みして、目で合図してまた自転車を押す。「こっちは何女装してるのかと思われてるよ…」
「周りを気にするのね、緊張する?」「そりゃそうだよ、あんたは平気なの。」「あたしはいつもこうだよ、だから普通」「ああ、そう」
「自転車乗る!先に行って、ついて行くから」
「わかった。で本当にうちに来る?」「うん、行く!美少女の気分でね!堂々としてね!」誰が美少女かと。
「やっぱり自分の乗る、乗りにくい」「じゃあ交換」「うわあ待って、早いよ、」

家の鍵を開けようとすると、すでに開いている。そうっとドアをあけて「ただいまあ」スカート姿で言って、後ろを向く「はいどうぞ」「……」おいおい、ここまで来て固まっている。「イケメンのつもりで入ってきて」コソッと呟くと、心もち背筋を伸ばして黙ったまま入ってきた。「友達連れてきたから〜そのまま部屋に行くね〜」
台所のところで弟がチラッと見て、えっ?と二度見するのをスルーして階段を上る。「…おじゃまします」メイちゃん、何とかこれだけ言ってついてくる。
「弟さんと一緒の部屋なの?」「えーと、ここで仕切ってる」真ん中のカーテンレールを引いてみせた。
「もう着替えちゃう?ていうかどうすればええんじゃ、」「待って、しばらくこのままでいて。ここ鏡ある?」

結局メイちゃんの小さい手鏡を持たされていた。襟リボンを解いて髪にヘアバンドみたいに結ぼうとして、「これじゃハチマキだな。」と言われている。「可愛くしたかったのに。そうだ、リップ塗ってあげる。あまり色つかないけど」これは一体何をされているのでしょう。
「あの、もしかしてどっちかというと俺に女装させてみたかったのがメインてことでは…?」「絶対可愛くなると思ったんだもん。明日あたしのカチューシャ持ってくる。多分似合うよ。」
「ちょっと待ってね、」ポーチから取り出した小さいリップクリーム、少し透ける赤いいろ。「それ、いつも使っているの」「うーんあんまり」と言いながら唇に押し当てる。イチゴの香り。髪が触れる。近い。
「ああ、やっぱり可愛い…できたよー。どう?」「…って言われても。えっ、可愛い?」「童顔だからーにあうのよねー」「そう?」「立ってみて。写真撮っていい?誰にも見せないから、ほら見てみて」「うーん…」

「さっきね、友達連れてきたって言ったでしょ」「ああ、」「嬉しかったよ、ありがとう」「別に、礼を言われるようなことじゃないよ」「そういやギターってこの部屋にあるの?」「えーと、あ、今弟の方にあるわ、取ってくる」カーテンをあけて向こうに入ると、

「兄ちゃん…何してるの?」

しまった。弟が部屋にいたんだった。「あ、ちょっと遊んでた、、って、いつからいた?どこから聞いてた?」「女の人、なんで兄ちゃんの服着てるの」「いや、だから、ちょっと遊んでたんだって、」と振り向いたら、おい、その表情、、
「あ、あ、」と息が止まりそうな顔で固まっていた。
それじゃあ何かやらかしたみたいじゃないか、頼むからシャレにしてくれよー、
と思ったが、メイの場合、それは自動的にそういう顔になってしまうんだと思い出した。
「だ、大丈夫だから本当に、なっ、」祈るような気持ちで見たが、笑う気配は無い。ますます青い顔をしている。

「ごめんなさい、スカート返して。もう帰る」
うつむいたまま、そう言った。「わかった」「ぎゃああ」「失礼、あっち向いてて…はいどうぞ、」「うん、向こう向いてて、ズボン返す。」
「あの、この顔戻してくれないかな」「あっ、」
「ごめんね、あなたで遊んだりして」「ええよ面白かったよ、」泣きそうな顔でティッシュでゴシゴシ拭いてくれた。正直痛かったが何も言えない。
「よしよし、泣かな〜いで〜」前髪に触れる。
「じゃあ帰る」「待って送るよ」「まだ明るいからいい」「道わかんないでしょ」「だいたい覚えてるから大丈夫だよ」
「おじゃましました」と口の中でつぶやいて、走り出した。自転車に飛び乗って行ってしまう。「ちょっと、待って、」慌てて後を追うと、姉ちゃんが帰ってきた。「おかえり、ごめん、ちょっと急ぐから」姉ちゃんが「おっ?」という顔をしたのがみえたが、かまわず自転車に乗って後を追った。

「おかえり」家に戻ると姉ちゃんが迎えてくれた。「ちゃんと送れた?あの子なんでしょ。」「友達だよ」「お母さんには言わないから、、やるじゃん」「いや何が、違うって、」「顔真っ赤になってる」「は?あっこれ、こすり過ぎた」「お父さんにも黙ってるから」「だから違うんだって」

翌朝の教室で。メイは普段からテンション高くはないので他の子にはいつもどおりに見えたかもしれない。斜め前の席で授業前から机に突っ伏したまま、動かずにいた。こちらに目を合わせないのもいつもどおり。話さないのもいつもどおり。

業間の休み時間に、メイちゃんの座席まで紙袋を持って行った。「これ返すわ」机の上にガサと置くと、ん?と顔を上げて袋の中を確かめた。昨日のブラウスとリボン。あっ、というふうにこちらを見た。「ごめん、こっちで洗濯できなかったからよろしくな」「ああ、」「また帰りでな。喋ろうな」「え」「じゃあ、後で」

「あんた、あたしばかりに構ってられないでしょ、他の友達とも話したいんじゃない?」「あんただって、友達だよ」「あたしなんか友達なんて呼ばない方がいいよ」「何言ってるの」「あたし友達の資格がないの、」
「あのなあ、前にも言ったけど、あんた友達を大袈裟に考え過ぎだよ!そんな大したもんじゃないよ、資格なんかいらん」「あたししょうもないんだよ、ごめんな」「俺だって、しょうもないよ、一緒だよ」

「あのな、大丈夫だよ!なんてことないよ!昨日はただ遊んでただけでしょ?なんか悪いことしましたか?誰か死んだ?怪我した?」「ううん、」「じゃあ大丈夫、とにかく、親には特に何も言ってないし、姉ちゃんには『やるじゃん』いわれただけだしな」「やるって何?」「いや、なんでもない」「ごめんね…」「なんで謝るの?全然たいしたことないんだよ、な?大丈夫だから!」
「あしたシャツ持ってくるよ、だから、もう行くね」
「待ってよ、もうちょっと付き合ってよ。話したいんだよ」「あんた忙しくないの?」「じゃあ、そこの曲がるところまで」「わかった」
「で、何話してくれるの」ニヤニヤ笑いながら尋ねてきた。笑顔はいいんだよな。
「え、えーと特にないけど、いや、そうだな、今週末引っ越すんだよ」「知ってる」「この時期の転校ってキツいよな」「いつだってそうじゃない?」「あ…」「ごめん」「だから頼むから謝らないで。お礼と謝罪はしないんじゃなかったっけ?」「そういう訳にはいかないよ。あたしそんなこと言った?」「うん、まあそれはいいよ。うーんと、修学旅行とか行けるかなあ?」「そっか、2年で済ませちゃうとこもあるもんね。うちは3年に行くけど」「そうそう」
「転校して一人ぼっちになったらどうしようかなあ」「今までどうだったの」「この前は小2だし、その前は幼稚園だから。その時は別にすぐ慣れたけれど」「ああ、その点ならあたしの方が小学校3つだし、幼稚園もかわったし、今は中学もだし、、って全然慣れてないや」「うん、心配だな」「ま、一人でもなんとかなるよ、あたしも今までなんとかしてきたし」「友達は今まではできたの?」「いたり、いなかったり、いろいろかな…」「転勤族の子供って社交的になるって言われるけどな、」「そんなんいろいろでしょ。でもひとりでも適応力はあがるんだよ、きっと。あたし、学校には行けてるでしょ、適応してるんだよ」「休んでる人もそういう適応だし」「辞めちゃった人もそういう適応なんだろうな」「なんでもあり」「うん、生きていれば」「そっか」
一段あがった歩道で自転車を下りて、立ち止まる。
「あのさあ、ひとつ教えてあげよう。俺引っ越したら多分もう誰にも会わないと思う」「え」「だってここを卒業しないでしょ。同窓会とかあっても呼ばれないんだよ」「あ、そうか。」「ここで生まれたわけでもないし、親戚もいないし、来る理由がない」「友達に会いに来たら」「引っ越したらそっちで友達作るし、こっちとは切れるよ」
メイちゃんが紙袋からリボンを探り出して「やっぱりこれあげるよ」目の前に差し出してきた。「えっ、なんで」「うーんと、記念に?」「なんの?」「リボンなら替えがあるし、だから、」質問には答えてない。「なっ、持っといてよ」
「引っ越したら切れるって言ったよね?」「うん」「まあ普通はそうだよね」「そうでしょ」「ふーん」「なに?」「2度あることは3度ある」「ん?」「多分ね、その時に返しに来て」
「あー、そういうことか」「本当に分かってる?でも別に返さなくてもいいよ、」
また歩きだしながら、
「どうもあたし男の子にはなれないみたい。だからね、あんたが女の子になってよ。リボンつけたら似合うよ」「絶対返しに来る。」

「えーとつまり、これはどういう意味?」「意味って?」「いや、いい。なんでもない」

フフフッと思い出し笑いしながら、とうとう曲がり角についた。「じゃあまた、明日、学校で、」と言って別れた。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する