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2020年01月30日14:55

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映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』作品レビュー(2020年1月24日(金)公開)

映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』作品レビュー(2020年1月24日(金)公開)

●物語はこんなお話となっています。
 CM監督のトビー(演:アダム・ドライバー)はスペインでドン・キホーテを題材にしたCMを撮っていましたが、撮影に行き詰まりを感じていたのです。企画会議を兼ねたボス(演:ステラン・スカルスガルド)主催の夕食会で、トビーはとあるジプシー(演:オスカル・ハエナーダ)からドン・キホーテを題材としたDVDを売りつけられます。なんとそれは自分の卒業制作映画だったのです。

 翌朝トビーは、その卒業制作映画の舞台が近くの村だったことに気付いて足を運ぶことに。しかしながら再訪した村では、ドン・キホーテ役を演じた靴職人のハビエル(演:ジョナサン・プライス)が狂人と化し、ヒロインとして出演させたアンジェリカ(演:ジョアナ・リベイロ)が役者を夢見て都会へ出て、娼婦に落ちぶれていたことを知らされ、自分の映画が村に大きな影響を与えていたことを知ることになります。
 
 トビーは村はずれで監禁されていた「ドン・キホーテ」の元を訪ねますが、彼をサンチョ・パンサだと信じるハビエル(以後、ドン・キホーテ)に解放を迫られます。彼を振りほどいて外に出ようと抵抗し、もみくちゃになった末に失火事故が起き、監禁場所は全焼。トビーは撮影現場へとなんとか逃げ帰るものの、警察はバイクのナンバーからトビーに事情聴取されることに。さらに、前夜ジャッキの部屋に入った泥棒の容疑者として逮捕されていたジプシーと共に警察に連行されてしまいます。

 道すがら、警察車両の前に愛馬ロシナンテに跨がったドン・キホーテが登場し、制止しようとした警官のひとりが誤射で死亡します。ジプシーはその隙に逃亡し、警察の追跡を恐れたトビーはドン・キホーテと旅を共にすることになってしまいました。

 旅の途中でスペインの金貨を見つけたトビーは、岩場に隠そうとして転落し、アンジェリカと再会する。アンジェリカの身体には多数の痣がありました。その傷は、おそらく雇い主(旦那)であるウォッカ王ミシュキン(演:ジョルディ・モリャ)に付けられたものでしょうか。彼女は会話を盗撮する男がいることに気付いて立ち去ります。トビーは追いかけて彼女を救おうとするものの追いつけません。

 旅を続けたトビーとドン・キホーテは、ジャッキと再会しミシュキンの城へ連れて行かれます。ドン・キホーテを面白がったミシュキンは実際の『ドン・キホーテ』談に沿った演劇を作り上げて彼をからかうのでした。
 一方のトビーはアンジェリカともども馬で逃亡しようとするが、ドン・キホーテも連れて行こうとするももの彼が首を縦に振らず失敗し、アンジェリカは連れ去られてしまいます。

 果たして裏切りを許さないミシュキンは、アンジェリカを殺してしまうのか。トビーは無事逃げ出せるのでしょうか。そしてアンジェリカを助けようと駆けつけていたドン・キホーテは、あやまって二階から勢い余って転落してしまいます。彼の安否はどうなってしまうのか。自分が靴職人のハビエルであると気がついていたのかどうか劇場で確認ください。
 そしてハビエルが最後に残す「ドン・キホーテは永遠である」という言葉には、永遠に生き続ける秘密を明かす、予想外の後日談が残されるのでした。
 …とまぁ、こんなお話です。

●19年間の間に9回映画化に挑戦して失敗した、映画史に刻まれる呪われた作品
 原題は、本作の劇中劇と同じ「ドン・キホーテを殺した男」で、完成して正式な邦題が決まるまでは長らくこの名で呼ばれていたそうです。この作品は映画史最大の開発地獄に陥った作品のひとつとして悪名高く、ギリアムは19年間の間に9回映画化に挑戦してその都度失敗していたのでした。この映画の日本語版公式サイトでは「映画史に刻まれる呪われた企画」と銘打たれています。

 当初監督のトビー役には、ジョニー・デップがキャストされていましたが、計画の長期化とデップの多忙なスケジュールにより降板。アダム・ドライバーが代わりに演じることになりました。『スター・ウォーズ』とは全くちがう、わがままで無責任なキャラへの大変身にご注目ください。

 本作には、30年間にわたって挑み続け、9回も同じ企画を挫折したギリアム監督の深い苦悩に満ちた思いが込められていました。確かに映画製作には夢があり、製作の準備段階では、調子のいいハッタリをカマして、スポンサーや協力するロケ地の地元関係者に過剰な期待を持たせてしまうことがよくあります。わたしもある作品のアシスタント・プロデューサーとして、同じような体験をしました。映画業界にあるハッタリがどんな悲痛な結果をもたらすのか、本作では痛いほど伝わってきます。
 本作のドン・キホーテとは、トビーの若かりし頃を象徴するメタファーなんでしょうね。学生時代に村をロケに訪れて、「ドン・キホーテを殺した男」の撮影に打ち込んでいたころは、夢に生きていたのです。その気持ちはドン・キホーテとなってしまった靴職人のハビエルと同じではなかったのでしょうか。そして、プロとなった今、かつての製作へのこだわりと情熱はどこかに分かれてしまい、ボスやスポンサー筋にへいこらする毎日。そんなトビーがサンチョとなってドン・キホーテと旅をする中で、やがて本来の自分を取り戻すことが本作で描かれていました。

 なのでやっぱり本作にはギリアム監督自身の9回にも及ぶ製作失敗でたくさんの方に迷惑をかけてしまったという強く懺悔する気持ちがこもっていると感じたわけです。



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