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2020年01月17日03:20

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映画『ティーンスピリット』作品レビュー

映画『ティーンスピリット』作品レビュー(2020年1月10日(金)公開)
★★★★☆
 『ラ・ラ・ランド』、『グレイテスト・ショーマン』、『ボヘミアン・ラプソディ』……。
 ここ数年、音楽のパワーと美しさがスクリーンで描かれる物語にぴったりとマッチし、多くの観客の心をときめかせる映画が続いています。
 『ティーンスピリット』も、そんな音楽とストーリーによる極上の「ときめき」が満載された作品でした。

 『ティーンスピリット』とは、早い話、日本の『スター誕生』のような新人発掘番組です。スターを誕生させるオーディション番組は、欧米で今なお大人気となっています。本作の『ティーンスピリット』は、架空のオーディション番組ながら、音楽の才能を秘めた若者たちが予選から熱く競い合い、栄冠をめざすドラマには、リアルな「舞台裏」を見せてくれました。

 歌手になることを夢見ていた主人公のヴァイオレットは、地元のイギリス南部のワイト島で、初めて『ティーンスピリット』番組の予選が開催される収録されることを知り、応募することになってから物語は始まります。

 ロンドンで開催される番組の決勝で優勝すれば、スターの座は確実。ヴァイオレットの夢が叶えられます。
 しかしバラ色の夢とは裏腹に、「舞台裏」は過酷なプロセスの連続でした。一つの予選の階段が上がる度に、出場者の合格/落選の悲喜こもごも、そんな試練を乗り越えて、夢に向かう若者たちのまっすぐな心情を体感させてくれるところにとても好感が持てました。もがき苦しみながらも、自分なりの夢と希望を見出す10代の精神=Teen Spiritに、誰もが胸を熱くすることでしょう。主人公が歌い上げる楽曲自体が、Teen Spiritに溢れていて、心にズシンと響いてきます。

 また、オーディション番組がテーマとなっているだけに、全編を台詞控えめで歌唱シーンにスポットが大幅に当てられていました。特にヴァイオレットを演じるエル・ファニングの歌唱力は素晴らしく、楽曲の良さともあい交じって、1度聞いただけで強烈に耳に残りました。本作の制作と音楽プロデューサー及び作曲担当スタッフが『ラ・ラ・ランド』チームだけに、青春映画+音楽ムービーの魅力が凝縮。音楽がいろどる共感度満点の一作といっても過言ではないでしょう。

 ところで、本作は主人公が単に歌が好きなだけでオーディション番組を通じて歌手を目指すというサクセスストーリーではありませんでした。ヴァイオレットはスターになることで閉鎖的な家庭環境から脱出することを願っていたことも色濃く描かれます。

 彼女の出自は、プロパーのイギリス国民ではなく、ポーランド移民の娘であったこと。父親は彼女が幼い頃に家を出て行ったまま帰って来ず、母親の手で育てられた母子家庭であったこと。そのため家計は貧しく、ヴァイオレットはいくつものバイトを掛け持ちで稼ぐことを余儀なくされていたのです。そのため学校の友人も少なく、孤独な日々を送る彼女にとって、唯一の心のよりどころが「音楽」でした。

 そんな伏線が描かれていたからこそ、ヴァイオレットが番組中で歌う楽曲には、彼女の人生が投影されているかのように聞こえてきて、とても感情移入してしまったのです。

 もう一つ、本作で存在感を放っているのが、ヴァイオレットのマネージャーを引き受けるクロアチア出身で元オペラ歌手ヴラドの存在。ふたりの出会いは、バイト先のパブのステージ。パブで飲んでいたヴラドは、ステージで歌うヴァイオレットの歌の上手さに惹き付けられていたのです。そんなヴラドに、ヴァイオレットはいきなり『ティーンスピリット』の予選に同行して欲しいと頼み込みます。予選出場には、成人した後見人の引率が必要だったからでした。
 彼女の歌手としての才能に惚れ込んでいたヴラドは、単なる後見人としてではなく、マネージャーとして引率したいといいます。
 オペラ歌手として活躍していたなんて思えないほど、ヴラドはみすぼらしく落ちぶれ、毎日酒浸りの生活をしていました。そんなヴラドにとっても、彼女との出会いが過去の挫折を乗り越えて、再起する希望を与えてくれたのです。本作は、そんなヴラドのどん底から再起を目指す物語でもありました。
 まぁ風体からはとてもこの人にマネジメントなんて安心して頼めない感じなのですが、発声練習を通じて、ふたりは信頼を深めます。きっとヴラドにたいして、単なるマネージャーとしてだけでなく、父親として寄り添ってもらえることも求めていたのでしょう。

 そんなふたりの関係にも、試練がやってきます。『ティーンスピリット』のプロデューサーがヴァイオレットの歌唱力を認めて自身の経営する事務所に所属しないかと持ちかけてくるのです。事務所とのマルジメント契約にサインすれば、優勝間違いなしになると「舞台裏」の裏取引を持ちかけられて、ヴァイオレットの心は揺れます。サインすれば、ヴラドは用済みになってしまいます。翌日の大事な番組出場を前にして、ふたりは大喧嘩してしまい、ヴラドは行方不明に。

 ヴラドがいない不安を抱えながら、ヴァイオレットはオーデションを勝ち進めることができるのか、敗退してしまうのか。そしてふたりの関係はもう戻ることができないのか。本作一番の見どころは、ぜひ劇場でお確かめください。





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