朝は小学生に混じって元気に登園するのだけど、どうしても教室に入ることができなかった。
靴が脱げないの?靴箱がわからないの?と言われながら、靴箱の横にずーっと立っていた。その間にもいろんな子が自分のタイミングで上がっていく。
やがて先生が来て「入りなさい」と言われてやっと入るのだった。自分のタイミングは来ないままだった。これを毎日毎日。
クラスの「おゆうぎ」をした覚えがない。
製作の時間にみんなで一つの絵を仕上げるときも、他の子の邪魔にならないように離れた所から眺めているだけだった。自分が変なところに色をつけて台無しにするわけにはいかない。
郵便屋さんごっこも参加することができなかった。お手紙を書く友達がいなかった。それに、私はうまく字が書けなかった。
クラスの女の子に毎日腕をつねられていた。その子はつねりながら「どうしてくれるん」と言っていた。どういう意味なんだろう。毎日同じ場所でアザができた。それでも私は泣かなかった。意味のわからないことでは泣けない。
教室の中にいても居場所はどこにもなくて、隅っこで絵ばかり描いていた。他の子どもとは遊べない。おままごとには入れない。おしゃべりもできない。
園庭のブランコで遊んでみたかったな。私はブランコが大好きだったのに、幼稚園のには乗ったことがなかった。
おままごとはうすにも入ってみたかった。他の子と遊ばないので入るチャンスはついに来なかった。
幼稚園の頃どうやって帰っていたんだろう。お母さんのお迎えは無かったんだ、園庭で並んで、お歌を歌って帰っていた気がするんだけどなあ。ひとりで歩いて帰っていたのかな。
あたし嫌われていたからね。卒園のまえに引っ越しすることになって、先生がその話をしたらみんな手を叩いて喜んだよ。卒園式の時だけ戻ってきたら「なんでいるの」と言われたよ〜。でもまあ一年しかいなかったから。誰もあたしのことなんて覚えてないでしょ。
この町は好きよ。今まで住んだところで一番いいところだよ。
幼稚園から前に住んでいた家に歩いてみた。道は覚えてない。地図をみて書いてあるとおりに歩いた。
ああ、まるで変わらない。幼稚園の庭から平屋の教室のある建物と、そのうしろの5階建ての県営住宅と。
昔住んでいた家のそばを走る線路と、うしろの山と、向かいに同じ形の小さな家のたくさん並んでいる風景と。
日向と、パンジーと、2階建てのお家。
なんでついてきてるの?
だって教室ではお話してくれないでしょう。
あたしのこと覚えている?
教室の一番前でいつも居眠りしている人でしょう?
始業式で立ち寝してひざカックンなってる人でしょ?
あーー敗れたりーー
今日もまかれたーー。
家族以外では、他に話せた人はいなかった、
だから友達なんて誰もいないのよ、
うーん、幼稚園のときは普通にしゃべったり遊んだりしていたんだけどなあ。なんでそんなふうになったの?知らないよ。
そうか 私はいやがられていたんだな、何も言わないからわからなかった。気が付かなくてごめんよ。
もう話し掛けたりしないから。
どっかのただの知らんおっさん
ばいばい ごめんね
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