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2019年01月23日23:00

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恐怖の報酬

 シネマート新宿でウィリアム・フリードキン監督「恐怖の報酬」を観る。かなり前、テレビで観た作品だが、その時はアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督のオリジナル版に遠く及ばないと思った。それはフリードキン監督の意に沿わない不完全版であり、今回の上映は120分の完全版。
 観なおしてみると、クルーゾー版とは全く違う映画。新たに付け加えられたのは、前半の登場人物たちの過去だろうか。トラック発車まで1時間かかるのは、クルーゾー版と同じとなる。クルーゾー版の前半、南米に流れ着いた男たちの無為の日々、そこから脱出しようとする焦燥感、その中で生まれるイヴ・モンタンとシャルル・ヴァネルの友情が好きだったが、フリードキン版を観ると、南米に行った男たちが何を取り戻したいかが見えてくる。
 ジャングルに入ると、いきなり吊り橋の場面。ここは緊張した。暴風雨の中、揺れるつり橋を渡るトラック。誘導の男の足元が壊れて落ちる。この瞬間音声が消え、私を含めた観客の息を吞む雰囲気が伝わる。これぞ劇場で観る面白さ。
 さらに窓から木の枝が突っ込んで来るし、ウィンチを繋いだ木が揺らぐ。この場面はクルーゾー版より面白かったが、トラックが危機を脱するとすぐ別の場面に移る。カタルシスをあえて避けている。
 ジャングルで実際に撮影しているし、CGもない時代で、次々襲ってくる危機はクルーゾー版を踏襲しているが、まるで得体の知れない怪物のよう。タイトルバックや途中で出てくる不気味な顔は、「エクソシスト」でメリン神父が掘り出した悪魔の像を思わせる。雰囲気を盛り上げるタンジェリン・ドリームの音楽の効果もあって、ホラー映画のような感覚。
 クライマックスは主人公ロイ・シャイダーが死者の声を聞き、ラストも放心状態。ここもカタルシスなし。フリードキン監督の執念、狂気が感じられる。
 これは「地獄の黙示録」を思い出させる。ジャングルの撮影を嫌って主演のスティーヴ・マックイーンが降りたのも同じ。
 フリードキン監督は、この映画について「運命の神秘」と書いている。ラストもクルーゾー版の不条理とは違い、過去が復讐にやって来る。定められた運命から逃れられないと言うことか。
 完全版は、スクリーンで観たこともあって、かなり面白さが増した。当初の予定通り、マックイーンにリノ・ヴァンチュラ、マルチェロ・マストロヤンニ主演で映画化されていたらどうなっていたか。こちらも観たかった。
 
 
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