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2018年12月20日22:10

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蓮見重彦セレクション

 シネマヴェーラ渋谷で開催中の「蓮見重彦セレクション ハリウッド映画史講義特集」に通う。この劇場の古い洋画特集は好きなのだが、今回はアメリカの、しかも映画史上の名作ではなくB級と言っていい作品が目立つのも楽しみだ。
 「レオポルドマン」は、ジャック・ターナー監督43年作品。メキシコ国境付近の町。ナイトクラブの客寄せに連れてこられた豹が脱走。そして連続殺人が起きる。ストーリーはあまり重要ではない。主人公は犯人を見つけるが、本当に犯人なのか。説明がされず、すっきりしない。
 それよりもターナー監督は、恐怖を盛り上げる描写に冴えを見せる。遠くへの買い物を言いつけられ、夜道を急ぐ少女の慄き。突然挿入される豹のアップの驚き、ドアの下から流れる血や、墓地に閉じ込められた女性の恐怖感、風に揺れる夜の森にラテン系女性が鳴らすカスタネットの音、虐殺を悼む葬列など、「キャット・ピープル」「私はゾンビと歩いた」のような恐怖の積み重ねが見事。ターナー監督のこの路線があまり観られないのが残念だ。
 「将軍暁に死す」は、ルイス・マイルストン監督36年作品。20世紀初頭の中国。残虐な軍閥を倒すため、レジスタンスから資金を託されたアメリカ人を描いた作品。ゲーリー・クーパー演じる主人公は、孤児として辛酸をなめた自分と同じ境遇の中国人を助けるため、命を懸ける。民主主義の信奉者で、難民を嘲笑する白人を殴りつけるストレートなヒーロー。
 ところが主人公はあまり活躍しない。マデリーン・キャロルの誘惑に乗ってあっさり金を奪われる。ほとんど悪の将軍に捕まったままであり、最後に悪が滅びるのもほとんど偶然。白人メシアの話にしないマイルストン監督の視点は皮肉だ。
 印象に残るのは、クーパーよりも悪役のエイキム・タミロフ、自分の弱さから娘に道を誤らせてしまうキャロルの父親役ポーター・ホール。さすがマイルストン監督作で、楽しめた。
 「モスクワへの密使」は、マイケル・カーティズ監督43年作品。革命以来、ソ連にネガティブキャンペーンを行ってきたアメリカだが、第二次世界大戦で共闘することになり、一転して作ったソ連賞賛の国策映画。
 原作者の駐ソ連大使ジョゼフ・デイヴィスがソ連への偏見をやめるよう訴えるファーストシーン。タイトル後、デイヴィス役のウォルター・ヒューストンが再び観客に訴える。ずいぶんとくどい。
 ルーズヴェルトの命でソ連大使に就任したデイヴィスが、ソ連各地を訪ね歩く。就任前にドイツへ寄る場面があり、その比較でソ連を持ち上げる。その結果、政治体制は違うが信頼に足る国と結論する。
 スターリンの粛清は、破壊工作を行った者たちであり、彼らは良心の呵責から自白を強要されることなく罪を告白、従容として死刑を受け入れる。黒幕はドイツと結託したトロツキー。冬戦争の原因は、フィンランドのナチス傀儡政権のせい。噴飯ものだ。
 映画は37年から映画制作時の43年までの時局を追っている。カーティズ監督は単調になると、ヒューストン家の友人の娘が空挺部隊となるエピソードや、突如スターリンがヒューストンの前に現れる驚きの場面を入れて飽きさせない。
 125分は長すぎると思うが、スタッフ、キャストに左翼系の人がおらず、単に仕事として作っているのがいい方に向いたか。戦後、この映画は非米活動委員会で取り上げられたそうだ。これも国策映画の運命だろう。
 今回もシネマヴェーラ渋谷の好企画。後半も楽しみだ。

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