スワニルダは、木曜と日曜が小林さん、
土曜マチネが浅野さん、(金曜と)ソワレが毛利さん。
最初は週末に3キャストを1回ずつのつもりだったが、
小林さんが初日と楽日でどう変化するかを観たくて、
木曜を追加してしまった。
小林さんの技術については、
どの程度ロシア風に踊ってくれるか以外、不安のカケラもなく、
未知数だった演技力が興味の対象だったが、
予想以上に表情豊かで愛らしいスワニルダだった。
友だちのリーダーというよりはムードメーカーで、
気の弱いところもあり、けれどフランツが絡むと、
頬を膨らませたり、ロマ女性の前に立ちはだかったりと、
気丈なところもある。
ちなみに丸顔の彼女が頬を膨らませると、
小さい子が拗ねているようで、
つい観ている方も微笑んでしまう。
人形のマネも見事、
キャラダンの動きもよく研究しているようで、
3人の中ではいちばん「らしさ」があった。
(他の2人ももちろん上手い)
今回の踊りは、大きさよりも強靱さの方が印象的で、
手足の振りはやや抑え気味だったが、
制御された力強い動きは音楽とぴたり合い気持ちが良い。
初日のフェッテの入りは4回転?5回転?
途中にも3回転を織り交ぜ、長時間の片足立ちも揺るがない。
プログラムの小林さんの紹介に、
彼女がワガノワ出身だったとの記述があるが、
それが宣伝に使えるということに、
スタッフもようやく気付いたか。(笑)
初日は、踊っている最中、
フランツがコッペリアを観て彼女を手放す時や、
コッペリウスの頬を張る時など、
タイミングがあわないところもあったが、
日曜はそれらも修正されていた。
彼女の実力は熊さんも認めるところのようで、
「ロミジュリ」「ドンQ」「くるみ」と、
立て続けに主役への配役が発表されているが、
今後の目標は、役作りに深みを持たせ、
彼女ならではの個性をだすことと、
演技の説得力向上だろうか。
たとえば2幕、中国人形のゼンマイを巻く場面、
彼女(他の2人も同様)は、
机の上にあるクランクを迷うことなく取りに行くが、
スワニルダがコッペリウスの家に入るのは初めて、
何がどこにあるのかは知らないはずだから、
直前にクランクを「探す」仕草を挟むべきであろう。
小林さんはそのへんで見かける女の子のようなキャラと、
強靭なテクニックという意外性の組み合わせが面白かったが、
浅野さんは綺麗なお姉さん的な風貌と、
かしましい女の子というキャラの、やはりギャップが楽しかった。
「バヤ」のガムザで演技の上手い人との印象を持ち、
常に重要なポジションに配されては、
期待通りの踊りを披露していたから、
今回の3人の中では最初から安心して舞台を楽しめた。
それにしても、浅野さんや神戸さんのような、
目鼻立ちのはっきりした人がこの役を演ずると、
2幕は本物の人形が踊っているように見える。(笑)
3人とも初役ということで、
まだ基本に忠実を心掛けていることがわかる演技だったから、
次回はいかに個性を出してくるかが楽しみだ。
3人目のスワニルダ、毛利さんは、
昨年夏に新国からKへ移籍してきた新顔。
海外で学んだ後、2012年新国入団とあるから、
20代後半だろうか。
国内バレエ団の総合力を勘案すると、
Kからの移籍組の活躍には、当然であって驚きはないが、
その逆は厳しいものがあるように思えてならない。
新国の小野さんや米沢さんが来たと言うのならまだしも、
彼女は名前に聞き覚えがある程度。
にもかかわらず、移籍早々の主役抜擢である。
興味が湧かないわけがない。
観終えたあと、真っ先に思ったことは、
彼女のキトリを観てみたいだったが、
Kがこの秋に上演する「ドンQ」には、
しっかり彼女の名前があった。
浅野さんとはまた違う美人のお姉さんキャラで、
今回の3人のスワニルダの中では、
いちばん気丈で陽性、フランツとのやりとりも、
口と同時に手が出るんじゃないかというお転婆。
他の2人がまだ個性を抑え気味だったのに対し、
「中の人」の地で演じているのでは? というほど自然。
技術的には、Kにあっては突出しているわけではないが、
平均レベルは余裕で越えている。
新国はなぜ彼女ほどの力量の踊り手を、
留めておくことができなかったのだろう。
実にもったいない話だ。
ちなみに3人とも3幕のイタリアン・フェッテを平然とこなす。
「難しい技」と言われているようだが、Kの舞台を観ていると、
誰でもできる簡単なテクニックに思えてしまう。(笑)
小林さんの相方、山本フランツは、
背格好、テクともに、小林さんとのバランスが良い。
彼の熊さんに通ずる派手なアクションは、
小林さんの力強い踊りと並んでも霞むことがない。
以前ネットで彼にクレームを付けていた連中がいたが、
おまえら本当に見る目がないな、とドヤ顔で言ってやりたい。(笑)
強いて彼の弱点を挙げるなら、
彼が今目指しているであろう、熊さんの完コピという目標。
目標が目標だから、あそこまで再現できれば、
それはそれで凄いことだが、
「コピー」は100%でないとダメと言われてしまう。
観客は完成形に対する再現度を観るから、
完璧にできても「達成」したことが評価されるだけで、
あとはすべてマイナス評価となる。
たとえ熊さんより高く跳び、速く回転しても、
オリジナルとは違うよね、になってしまう。
ただ何事も最初はベテランの真似事から入るもの、
彼ならいずれ、彼ならではの踊りを披露してくれることだろう。
浅野さんの相方、伊坂さんも、
経験値を相応に持つ中堅、
技術も演技力も定評があるから、
いちばん安心して観ていられるフランツだと思っていた。
しかし幕が開けてみれば、いつもの精彩がなく、
踊りも重たげでミスもあるなど、彼らしくない。
どこか不調だったのだろうか。
毛利さんの相方は篠宮くん。
前2人が踊り出すと熊さんの幻影がちらつくのに対し、
彼の踊りには個性があるので、
テクニック的には前2者の方が上だと思うが、
見比べると良い印象が残るのは彼だった。
演技も同様で、篠宮くんはコミカルではあるけれど、
キザな感じが他の2人よりも鼻につく。(笑)
彼もまた牧からの移籍者。
なぜ牧は彼を手放したのだろう。
もったいないことをするものだ。
しかし改めてDVDを観ると、
熊さんの演技は自然で楽しいが、
ギャグのセンスはドリフの世代なんだな。
メインストリームとは直接関係ないが、
物語のアクセントとなるのがロマたち。
リーダーとその彼女は杉野くんと山田さんの固定、
仲間の女性2名は戸田さんと大井田さんで、
戸田さんがプレイヤーの時は國友さん。
この5名がまた迫力のある踊りをする。
それにしても山田さんは何を演っても巧いし綺麗に見える。
こういう役も見応えあるから良いのだが、
杉野くんがジークも踊るようになったら、
2人の「白鳥」も観てみたい。
「杉野くん、育ちの良さが明るさと優しさに出ているのに、
何故か悪役が多くて板についてきたね。
今日のロマのガラの悪さとか」
これは我が師の褒め言葉であろう。(笑)
彼らとのトラブルは、
フランツとその男友だちの群舞の直後、
突然椅子の倒れる音とともに始まる。
怒るロマのリーダー、謝る宿屋の主人。
いったい何が起きたのか気になるのだが、
直前の男性群舞が見事すぎてついつい目が奪われ、
3回も見逃してしまった。
白旗を掲げお師匠さまにたずねると、
「ロマのリーダーがお酒のお変わりを要求、
宿屋のご主人がマグに注ぐのだけど、
2人とも踊りを観ていてよそ見をしているから、
ご主人がこぼしてしまう」
お師匠さま、実は目玉がもう一組、どこかにあるんですか。
(楽日にようやく自分で確認できた)
領主は栗山廉君のみで、あの風貌どおり、
気の良い、けれどちょっと気弱な領主様。
ロマにさんざん振り回されるにもかかわらず、
先のトラブルでもお金を渡して穏便にすませようとする。
宿屋主人も笹本さんのみ。
プログラムの略歴には何もないが、
どのような経歴の人だろう。
廉くんたちとも息が合っているから、
お芝居専門の踊らない人かとおもったら、
フィナーレでは他の人といっしょに跳んだり回ったりしている。
コッペリア人形も由井さんのみ。
動く場面以外でも、時々眺めてみたが、
まばたきをするところは一度も見かけなかった。
辛いと思うのだが、何か秘訣でもあるのだろうか。
他にも中国人形など5体の人形役がいるが、
なぜか配役表には名前がない。
動きも上手かったし、じっとしているのも大変だろうから、
そこは名前を入れてあげよう。
スワニルダの友だちは、
井平、河合、吉田、萱野、佐伯、吉岡の1チームのみ。
みな仕草が可愛いが、DVDのように、
もっとかしましい雰囲気にしても良いように思う。
フランツの友だちも、
堀内、石橋、益子、奥田の固定だが、
これがまた見応えがある。
「石橋くんは髪型変えたら雰囲気変わったね。
今の方が踊りの雰囲気に合ってる感じ」とお師匠さま。
プレイヤーはメインが矢内さんで、
毛利さんの日だけ戸田さん。
矢内さんはもう細身の印象はなく、
踊りの安定感がさらに増した感じ。
「ロミジュリ」「ドンQ」に配役されているのも納得で、
一見おっとりしてそうな見かけによらず、
元気で闊達なジュリエットやキトリを魅せてくれることだろう。
戸田さんは、名前はよく見かけるのだが、
これまではなぜか識別できていなかった。
しかし今回のソロを観て、今後はもっと注目してみようと思った。
長い手脚を有効活用した優雅な踊りは、
スケール感もあって好みのタイプ。
優しく包み込むような雰囲気は、この役にぴったりだった。
ブライドメイドは、
リーダー(?)は湊さん、毛利さんの日のみ井平さん。
2人ともひときわ小柄なのだが、踊りが大きいので埋もれない。
他は大井田、吉田、佐伯、吉岡の1チームのみ。
村人や仕事の群舞もほぼ1チームで、
ほんの数名入れ替わるだけ。
今回は若手の集中特訓なのだろう。
前述のように、最初はKらしくない群舞だったが、
(個々の踊りは良いのだが、統制感に欠ける)
最終的には及第点に達した。
緩急自在、シャープな動きの時もあれば、
優雅で美しい踊りもできる。
他のバレエ団に比べれば、初日でも十分上手いと思うが、
熊さんの目指しているレベルは高い。
そういえば、毛利さんの回の仕事の踊りに、
「小麦」ちゃんという子がいた。
まだ最下級のアパレンティスなので、
オフィシャルサイトに顔写真も載っていないから、
どんな子かはわからないが、彼女の名前で、
お師匠さまとしばし盛り上がってしまった。
「キラキラネームに入るのかもしれないけど、
なんかいいよね、かわいいよね。
両親はどういう思いを込めて名付けたのかな」
「主食のように欠かせない人になってね、ということかな、
だとすると日本ならお米だけど、
お米ちゃんではゆるきゃらすぎるから小麦?」
「それとも小麦はパンにパスタにうどんにそうめん、
白ビールやウイスキーの原料にもなる、
グルテンを加工すれば麩にもなるから、
沢山の可能性を秘めた子に育ってほしい、ということなのかな」
単に両親がパンやパスタを好きだったからじゃないですか?
と言ったらはたかれた。
群舞の踊りの中では、
1幕麦の穂の後のスワニルダの友だちの踊り、
2幕スワニルダたちが中国人形の真似する場面、
3幕フランツのヴァリの後の時の踊りが、
曲も含めて好みだったりする。
でも、男性陣のでんぐり返しは、
振付上もたついてしまうから、いらないんじゃないか。
8年前も今回も、つい気になってしまったのが、
3幕終盤、フランツの友だちが、
祭りの象徴である鐘を釣り上げる場面。
金属の塊であるはずの鐘の重さが、
まったく感じられないのだ。
手前には主人公や村人たちがたむろし、
舞台上手奥での作業なので、
観客の注意はほとんど向かないが、
キャシディさんが怪しげな本を運んでくる時は、
しっかり重さが感じられるし、
キホーテからランスや盾を受け取る時、
重さにふらついたり落としそうな演技をしたキトリ・パパもいた。
些細なことだが、
些細なことでもおざなりにしない姿勢が、
将来の演技力につながっていく。
それにしても、「コッペリア」は楽しい演目だ。
バレエ初心者に観せるとしたら、やはりこれか「ドンQ」だろう。
拍手し放題の演奏付きカーテンコールも盛り上がるし。(笑)
拍手といえば、土曜ソワレに変な観客がいた。
賑やかな場面になると、突如手拍子を始めるのだ。
本人的には演奏に合わせて
盛り上げているつもりなのかもしれないが、
リズムも合ってないから雑音でしかない。
ほどなくしてしなくなったところをみると、
周囲の人に取り押さえられたのだろうか。(笑)
「コッペリア」の3幕は、踊りがだらだら続くだけでつまらない、
という解説や感想をたまに見かけるが、
それは下手なところの舞台しか観ていないからで、
「眠り」同様、上手いところの舞台は見飽きないどころか、
あっという間に終わってしまう。
久しぶりの上演ということもあり、
今回は4公演を観たが、どの回もあっという間だった。
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