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2018年04月21日23:21

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律儀な親友

さて精神的な病に襲われた絵描きの親友はパニックアタックもあるので、医者のアドバイスでしばらく外との接触を避けることになった。
そこで友人も家族も電話、ファックス、メール一切のコンタクトは禁止となった。
ただ一つ彼女の容態を知るには、休暇を取って母親の面倒を見ている彼女の次男に連絡するしかない。
その次男だって忙しいはずなので毎日とはいかないが、時々問い合わせる。
答えは調子は良いので心配いりません。
3食食べて居ます。
前よりもよく眠れて居ます。
と嬉しい返事なのだ。
ともかく快方に向かっているらしいとホッとする。

ここ数日初夏のような天気。
ドアを開け放ち外と一体化、屋内に光と空気が流れ込む。
バスルームの窓も開け掃除しながら久々な幸福感を噛み締めて居た。
すると電話。
慌てて階段を駆け下りたつもり。
本当はよたよたとだったろう。
最後の階段に足をかけた時もまだ電話はなって居た。
よしっ、間に合った。
だが、電話は切れて居た。
誰だったんだろう?
すぐに着信番号を調べると、なんと絵描きの親友の電話番号ではないか。
何かあったのかしらとドキドキしながら慌てて番号を押す。
が慌てすぎたのかなんども間違う。
わっ、早く早く!
ち、違う、落ち着いてゆっくり確実に。
4度目にやっと繋がった。

出てくれたのはなんと絵描きの親友本人。
声は相変わらず弱々しいが、確かに本人。

「あ、丁度良かった。」
と彼女。

「今、電話くれたよね?」

「ふん(うん)、したよ。今回はもうね息子たちに何もかも任せてね。」

「それがええよ。全てまかしてゆっくりしいよ(しなさいよ)。」

「それでね、だんだん善うなってきたんよ(良くなってきた)。」

「良かったねー」

「あのね、長男がね町医者ではラチがあかないからとプライベートの精神科医を予約してくれてね、その精神科医が私を見てすぐに対応してくれてね、薬も変えて、おかげでどんどん良くなりよるんよ。」
町医者だとこれも予約制なので数日待ち、よほど具合の悪い場合だけそこから病院の専門医に紹介、そこからまた数日か何週間か待たされる。
それがわかっている長男はことを迅速に運ぶためにプライベートの医者を選んだのが良かった。
そのように手配を整え3日後には看病のために休暇を取った次男にバトンタッチ。
長男はコマーシャルづくりの会社を経営しているため休めない。

「それにねー、私知らんかったけど、クライシスチームというのがあってね。」

「私も知らんかったよ。」

「このチームは可能な限り自宅治療できるようにする組織でね、毎日来てくれてんよ。(来てくださる)」

「そりゃええね。そのチームは国民保険がきくん(きくの)?」

「そうなんよ、きくんよ。」

「えかった(良かった)ねー。」

「次男がねえ、料理が上手なんよ。それで美味しいんよ。」

「食べれて眠れるようになったらこっちのもんよ。」

「そうそう、じゃから(だから)あんたにだけは知らせたいと思うて電話したんよ。」

「まあ、わざわざ有難うね、安心した。」

「あっ、次男が帰って来たから切るね。」

どうやら親友は次男の目を盗んで電話をくれたらしい。
小銭を送っただけなのに、なんと律儀な親友だろう。

ともかく本人の声が聞けてホッとする。
射し込む日差しの輝きが眩いほどだった。











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