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2017年11月09日09:18

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小説「死の川を越えて」 第25話

権太が言った。
「うーん。世帯を持つのは大変だと思うが」
「家を持つことは後でもいい。正式に嫁さんになったことを集落に知らせることが必要だ」
こう正男が言うと、権太が一歩踏み出して笑顔を作った。
「御隠居さんに仲人になってもらえ。式は白旗神社がいい」
 3人が万場軍兵衛を訪ねて意見を聞くと大賛成であった。
「白旗神社とは、お前たちよく考えたな。あそこは集落の氏神だし、源頼朝を祭った点もよい。頼朝は新しい武士の時代を創った男。2人はこれから戦いの人生を始めるのだ。頼朝が2人の将来を勇気づけてくれるだろう」
 話しは一気に進んだ。仲人は老人1人というのはよくないというので、こずえが役割を担うことになった。参加者は権太と正男を中心とした数人の若者、それに正助とさやが働く竹内館、津久井館の主人であった。主人たちは、住まいについてはいずれ2人で暮らせるように考えるから暫く待てと言ってくれた。
 正助とさやを喜ばせたのは、竹内館の主人の計らいで、新郎、新婦の衣装を整えたことである。花嫁姿となったさやは見違えるようであった。さやは、福島の故郷を思って涙を落とした。自分を追った農村の風景が一瞬頭をよぎる。
「さやさん綺麗」
こずえが思わず叫ぶ。
 神官が祝詞を上げ、2人が夫婦であることを宣言した。三三九度の盃をあげると、人々の明るい笑顔が社にあふれた。正助の胸には万感迫るものがあった。
※毎週火・木は、上毛新聞連載中の私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。

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