殺されてしまった良い子ちゃん

ずっと書けなかった。
いや、書きたいことはあった。
けどあることが気になって書けなかった。
気になることを吐き出さないうちは、そのことで頭がいっぱいで他のことは何もまとまらない。
だから書けない。
けれどこの気になることは書くほどのことではないのも事実。
正直ただ阿呆らしいに尽きる。
知名人の結婚、離婚、不倫については元々興味がない。
なのにメディアが騒ぎ立てる。
騒がれる知名人には同情する。
それより勝手にやって欲しい。
別に知名人でなくとも私たちの多くがいつか通る道。

だから関心はないのだが、２週間前ある動画を見てしまった。
素顔の女性が演技たっぷりにおどろおどろしく何か伝えている動画。
最初はわからなかったが、どうやら掃除の神様とか言われている有名な女性だとわかった。
その女性はバラエテイ番組と木村藤子さん（霊能者）に伺いをたてる番組で観たことがある。
嘘っぽい女だと思った。
喋り方も表情も全てが。
明るく、ハキハキとした物言いと態度、丁重な受け答えも嘘っぽい。
けど何が嘘なのかは解らなかった。
この嘘っぽいところが私の興味を引いた。

やがて彼女のことは忘れていた。
そこにこの動画だ！
俳優である夫の全くプライベートなことを（事実かどうかは知らない）動画でさらけ出している、そのおどろおどろしい表情。
これが彼女が隠していたダークなサイドか！
やっぱりなと思った。
彼女は自身の良い子のイメージを作り上げてその良い子を愛し、崇拝して止まない。
ところが離婚を前にそのイメージが破壊されようとしている。
彼女が愛して止まない良い子が破壊寸前なのだ。
それも夫の所為で。
夫が離婚を希望している。
彼女は散々つくし愛した夫が自分から去るなんて考えられない。
この世で彼女ほど夫を愛しているものはいないと信じている。
実は彼女は朝も４時から掃除をして頑張る主婦なのだが、自己満足のための掃除であることに気がつかない。
夫を愛しているのではなく夫を通して自分を愛しているだけ。
次々と動画がアップされ、それは毎日テレビで取り上げられた。
その報道の中で彼女の過去のテレビ出演の姿も見られた。
常に明るくハキハキと話すその姿はほとんどの人に好感をもたらしたに違いない。
けど、彼女自身の言葉で夫が悪いことをしたなら蹴つれば良いのよとか携帯をボキボキ折って鍋で煮たとか笑いにして話している。
また激情にかられると何が何だか分からなくなるとも。
完全に病気、アンガーマネジメントの治療を受けるべきだと言える。
また、コントロールフリークでもある。
その証拠に夫を完全にコントロールしていた様子。
それは夫の世話をする形で行われるのだが、世話ではなくコントロールしている。
そんな風に分析しながら動画と報道を追っていた。
そしてある朝のこと、目覚めた瞬間に悲しみに襲われた。
可哀想に、と思った。
彼女のことが可哀想だった。
狂うほどに好きだったんだな、夫を。
その日はずっと憐憫の気持ちで過ごした。
あまりにも愛しすぎて今は憎しみに変わったのだと、そう思った。テレビでもそんな意見が出ていた。

いやいやいや、そうだったらあれほど憎悪に燃え復讐というよりも全てを投げ打ってでも夫を破壊しようとするだろうか？
そうじゃない、彼女が作り上げた良い子が破壊されてしまった、殺されてしまった。
全てが無意味になってしまった。
この世で最も愛した素晴らしい良い子ちゃんは殺されてしまった。
だからあいつも破壊しなければ気が済まない。

決着がついたら海外でビジネスに没頭するつもりらしい彼女なんだが、それよりも早く正気に戻って欲しい。
いや、もし正気に戻ったらもはや生きてはいられないのではないか。
だから可哀想に思う。