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2016年12月08日03:41

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映画『ガール・オン・ザ・トレイン』試写会レビュー

★★★★★
 ラストの展開が本当に意外過ぎて、「オチ」の破壊力で圧倒されました。思わず試写会だけでなく、お金を払って2度見てしまった作品です。
 
 本作は、イギリスの作家ポーラ・ホーキンズの、ベストセラーとなった同名小説の映画化。
 基本的に、不思議な物語です。アルコール中毒の主人公のレイチェル(エミリー・ブラント)は、毎日記憶がなくなるほどの酒浸りを送っていたのです。そんな彼女が殺人事件に巻き込まれて、容疑をかけられるもののの、何しろ記憶がありません。そして事件が起こる60日前から、少しずつ現在へカットバックされる映像は、彼女が犯行に関わっているのではないかという暗示を、彼女にも、観客にも突き付けていきます。果たして自分は人を殺したのかどうか?主人公が陥る不安に、グイグイと引き込まれていきました。
 
 話のキーとなる「記憶喪失」や「信頼できない語り手」など、ミステリーとしては古典的な手法で目新しさはないかもしれません。単なる謎解きミステリーというよりも、サスペンスといった方がいい作品だと思います。何しろアル中の主人公がどんな暴走するのか予想不能で、ドキドキさせられました。加えて本作で描かれる男女関係のどす黒い情念に圧倒されることでしょう。欲望のままに突っ走る男と女が放つ暗い異様な情念には画面に釘付けとなること請けあいです。
 
 物語は、表題の通り通勤電車の毎朝通勤するレイチェルのシーンからはじまります。普通の光景です。しかし、レイチェルが大きな水筒からストローで飲み干している液体が、あとからアルコールであると分かると、それだけで彼女の異様さを感じることでしょう。しかも、仕事もせずに、日中店で飲み続けて、また元の電車に乗って帰宅するのです。
 実は彼女は不妊に悩み、アルコール中毒なっていたのです。夫のトムはレイチェルに愛想をつかし、不倫相手のアナと再婚していました。さらにアル中のせいで仕事も1年前に解雇されていたのです。
 
 レイチェルはいまも別れた夫のトムと追い出された新居へ未練たっぷりでした。用も亡くなったのに毎日通勤電車乗車するのも、同居人に失業したことをバレないようにするためと、沿線にあるトムと暮らしていた、かつての自分たちの家を見つめることが習慣だったのです。その近隣には、若い夫婦が睦まじく暮らす姿も見えていました。しかしある日、その若妻が夫以外の男とキスする現場を目撃。レイチェルは思わず途中下車し、若妻メガン(ヘイリー・ベネット)の不倫をとがめに向かいます。
 赤の他人へ、突然「電車から見た」と浮気を責めに行く行動がすでに異常といえるでしょう。ところが駅で下車して夫婦の家に向かおうとするけど、そこから記憶がなくなってしまっていたのです。
 気がつくと、帰宅して風呂場で倒れていました。全身にあざだらけで、頭部には大きな傷がアリ、血が流れていたのです。
 
 翌日、メガンが行方不明になったのが発覚します。レイチェルはアルコールのせいで、自分が何をしたのか記憶がありません。しかしほっとけないという理由で、お節介にもわざわざメガンの夫スコットに、彼女の浮気が失踪の理由ではと告げにいくのでした。
 間もなく妻は遺体となって発見され、周囲の疑惑の目はレイチェルに向けられます。
 
 メガンは誰に殺されたのか。レイチェルの意識を再現するように、時間軸が現在と過去を往復していきます。最初は大変な混沌に突き落とされる見ている側も、愛憎が入り乱れる男女の真相が明かになるにつれて、すべてが腑に落ちる爽快感を味わえることでしょう。
 本作の基本はサスペンスであるものの、伏線としてアル中で家庭も仕事も失ったレイチェルの再生に向けた希望の人間ドラマでもありました。アル中になった自分に自暴自棄となりさらに酒を煽る日々。車窓から見る他人の幸福と自分の惨めさを比べ、むなしさを感じずにはいられないレイチェルだったのです。
 それが事件をきっかけに、レイチェルも真剣に酒を断ち記憶を取り戻していきます。すると夫に罵倒されたほど、アル中で狂って狂っていなかったことを思い出していくのです。そのことがレイチェルにとって生きる自信を取り戻すことに繋がっていくのです。
 それだけにラストのレイチェルがまた例の列車に乗車しているシーンでは、ジーンと心に響く余韻を感じることができました。いつもとは違った風景に突き進んでいく列車に、希望ある未来を暗示しているかのようでした。
 女性心理のか弱さや、清濁を摂受した優しさに、鑑賞後一抹の爽快感を味わえることでしょう。
 
 演技面では3人の主演女優たちによる、個性的な演技のアンサンブルが目を引きました。ブラントは熱演というレベルを超え、人相が変わって見えて、恐ろしいほど不気味さを感じることでしょう。
 
 いまや忘年会シーズンたけなわ。飲みすぎて昨夜の記憶がないという人にぜひ見てほしい作品です。飲んべえのご自身が、いつこんな目に遭ってもおかしくない思うと、ゾッとすること必至のサスペンスでした(^^ゞ

●Introduction
 ポーラ・ホーキンズの小説を基にしたミステリー。通勤電車の窓から人妻の不倫現場を目撃したのを機に、殺人事件に巻き込まれる女性の姿を追う。メガホンを取るのは、『ジェームス・ブラウン 〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』などのテイト・テイラー。『プラダを着た悪魔』などのエミリー・ブラント、『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』などのレベッカ・ファーガソンらが集結する。待ち受ける衝撃のラストに息をのむ。

ストーリー:夫トム(ジャスティン・セロー)と離婚し、深い悲しみに沈むレイチェル(エミリー・ブラント)。そんな彼女を慰めるのが、かつてトムと暮らしていた家の近所に住む夫婦の仲むつまじい姿だった。通勤電車の窓から二人を眺めてはトムと過ごした日々を思い出す彼女だったが、その夫婦の妻が不倫にふけっている現場を目撃する。次の日、電車を降りて彼らの様子を確かめようとするが、不意に記憶を失ってしまう。やがて自分の部屋で大けがを負った状態で目を覚ましたレイチェルは、その人妻が死体で発見されたのを知るが……。
[日本公開:2016年11月18日]

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