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2016年09月15日04:49

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9.11テロの犠牲者遺族、住山氏の闘いと米調査委員会のテロ報告書の翻訳

 もう15年前になる2001年9月11日のアメリカ、ニューヨークでの同時多発テロでは、日本人24人が命を失った。ニューヨーク・世界貿易センタービルの邦銀支店に長男(当時34歳)が赴任していた住山一貞氏(79歳)は、その息子を失った1人だ。
 住山氏にとって、9.11テロは実はまだ終わっていない(写真=NHKニュースから)。

◎500数十ページの英文報告書に挑む
 そのことを実感させたのは、9.11の翌朝、朝の7時のNHKニュースで流された住山氏の鎮魂とテロとの闘いの活動の一部だった。
 住山氏に敬意を表したいのは、氏が長男の死をただ悲しむだけでなく、テロを実行したアルカイダの根源を突き止めるために、必死にイスラム教など学んだことだ。ニューヨークの現場で開かれる同時多発テロの追悼式典にも、毎年出席しているという(写真=ニュースから)。
 04年にアメリカの調査委員会が分厚い同時テロの報告書を出すと、辞書を傍らに高校以来のずっとご無沙汰だった500数十ページもの大部の英文報告書を、8年もかけて翻訳した。テロの背景を知りたい一心からだった。

◎英語版「ナショジオ」誌と格闘した想い出と重なる
 住山氏の活動を報じたニュースでは、中野区の施設の一角を借りて、写真や報告書の展示会も開いているシーンも流した(写真=ニュースから)。
 そこで住山氏が数年間も格闘したボロボロになった報告書も展示されていた。中が開かれると、各ページにびっしりと英単語の訳語が書き込まれている(写真)。
 僕も経験があるが、どうしても必要になって、大学卒業以来、初めて英和辞典を片手に英語版「ナショナル・ジオグラフィック」誌を読んだ時(当時は日本語版は出ていなかった)、1つのセンテンスに5語も6語も分からない単語があり、10数ページの記事を読むのに、1週間近くもかかってしまった。今なら辞書無しでも、すらすら読んで大意はつかめるが、当時はそんな英語弱者だったのだ。住山氏も、そんな1人だったに違いない。

◎「出版社募集中」の文言に目を引く
 訳文をパソコンに取り込み、氏は私家版を出した。出力印刷したページをそのまま束ねたような軽装版の上下巻で、表紙にはタイトルなどと共にひときわ目を引く「出版社募集中」の文字があった。
 おそらく伝手を頼り、何社にも話をして、すべて断られたのだろう。これもまた、僕には経験がある。
 これと関連して、先日、古い友人から電話があり、戦争末期の3月10日の東京大空襲で両親を失い、孤児となって苦難の末に成長したおばあさんが、その時の地獄絵と孤児となって浮浪する被災児童から聞いた話を絵本にして自費出版で出した、区の図書館や小中学校の図書室に寄贈したが、広く一般に読んでもらいたくて、あちこちの出版社に相談したが、すべて断られた、というのが内容だった。

◎無意味となった著者−出版社の関係
 その友人も、何冊も出版物があり、自著を出した出版社を何社も当たったが、やはり徒労に終わったという。ついに万策尽きて僕に電話してきたという。
 今の出版社は、極端な出版氷河期で、絶対に売れる軽薄物しか出そうとしない。昔は、なじみの著者から話があり、良書と思われれば、「売れない」と分かっていても本を出す侠気が出版社と編集者にあった。著者との関係も、大切にしてきた。
 しかし現在は、今までの著者−出版社の関係など、何の意味も無くなっている。

◎英文翻訳に不可欠な日本語能力
 住山氏のケースも、似たようなものだ。
 ただ住山氏の場合は、友人が各社に売り込んだ絵本よりさらに難しいだろう。
 なぜなら翻訳書の場合、普通の出版と異なる困難がいくつもあるからだ。
 何の実績もないのが、最大のネックだ。実績が無いから、出版社も評価のしようが無い。 また版権をとらなくてはならないのは初歩の初歩だが、翻訳書の場合は、訳者に大きく2つの能力が必要とされる。その点で、不安だらけなのだ。
 まず英語に堪能なのは当然だが、多くの人には意外と思われるだろうけれども、翻訳には高度な日本語能力も不可欠だということだ。でないと、金釘流の直訳文書で、とうてい読むに堪えないものしかできない。

◎その分野に深い知識が無いと誤訳につながる
 これと並ぶ不可欠な能力に、書かれた分野に深い知識を有していることだ。でないと、テクニカルタームが訳せないうえ、不適当な解釈で訳文を作ることになり、誤訳につながる。
 専門の翻訳家でも、その分野に知識が無いと、とんでもない誤訳が頻出する。僕は、そうした例に何冊も出逢い、あまりにもひどい例では出版社に逐条的に誤りを指摘する手紙を書いたことが何度もある。
 1冊は編集者からお詫びかたがたの礼状が来た。ただし、それっきりだった。
 別の1冊では、編集者と訳者がそれぞれお詫びの返事をしてきた。そして返金の代わりに、別の本を送ってきた。この翻訳書は、なぜこんな訳者にといぶかしく思ったほど、ミスキャストだった。その分野の専門家ではない、日本語能力も覚束ない大学教授だった。長いセンテンスをそのまま直訳し、そのうち自分で混乱し、述語が消えていたりした。

◎絶版にした出版社も
 さらに他の3冊では、その出版社が絶版にした。2社は、代わりに僕の指摘箇所を生かして、別の版を作った。これなど前2社に比べれば、良心的である。当然と言えば当然だが。
 さて、こうした背景があると、住山氏の訳を受け付ける出版社がとうていあるとは思えないのである。
 誤訳は、想定できないほど多いはずで、さらに訳文も流麗とは言えないだろう。それなら最初から、専業の翻訳家に翻訳してもらった方が手っ取り早い。

◎分厚い訳書になり、したがって高価格予測、やはり難しい
 さらに500数十ページの原文なら、日本語に翻訳すると、700〜800ページにもなる。すると、部数も見込めないだけに、8000円〜1万円の定価の本になると予想される。これでは、せいぜい図書館需要しか見込めない。
 とてもそんな冒険はおかせない、というのが、普通の出版社である。残念ではあるが。
 なおNHKは、傘下にNHK出版という出版社を持つ。ここで引き受ければ大したものだが、ニュースの取材記者には出版には何の力も無いのが実情だ。

注 容量制限にタッチしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
 写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、http://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/201609150000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。

昨年の今日の日記:「バルト3国紀行44:遅い昼食を摂り、『歌の広場』へ;紀行」
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