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2016年09月14日05:09

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タスマニアデビル、哺乳類に例を見ない急速な遺伝子進化で抵抗性を獲得

 現在では、オーストラリアのタスマニア島だけに生息するタスマニアデビル。かつては本土のオーストラリアにも広く生息していたが、一足先に絶滅したサイラシン同様、オーストラリアアボリジンの持ち込んだ野生犬ディンゴの拡大で、本土では14世紀頃に絶滅し、今では細々とタスマニア島だけに命をつなぐ(写真=オーストラリア、ニューサウスウェールズ州の飼育施設で撮影したタスマニアデビル個体。http://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/201609140000/を参照)。

◎2年前の日記の文末の希望の灯火
 イヌほどの大きさの、地獄からの叫びのような鳴き声ゆえに不本意にも「デビル」と命名されたこの夜行性の肉食有袋類は、絶滅危惧種に指定されているが、これが癌の1種の「デビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumour Disease:DFTD)」の流行でまさに絶滅の危機に瀕していることは、14年7月30日付日記:「愛らしい肉食有袋類タスマニア島の『デビル』を襲う悲劇を『有性生殖』が救うか」で報じた。
 上述の日記の末尾で、希望を灯すかのように、タスマニアのある流行地域で生存する400頭のうち自然治癒した6頭を確認していることも触れた。

◎哺乳動物では考えられないほどの超急速な進化が起こっている
 これは、どうやら哺乳動物では考えられないほどの超急速な遺伝子進化のおかげによるらしい。8月30日、イギリスの科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載された論文で報告された。
 共同研究者のアメリカ、ワシントン州立大学のアンドリュー・ストーファー博士によると、「タスマニアデビルは進化している」という。しかも特筆すべきことに、この進化は極めて急速なのだという。
 タスマニアデビルの顔面に増殖するこの奇妙な腫瘍DFTDに科学者らが最初に気づいたのは、20年前、1996年のことだった。

◎4〜6世代のうちに免疫力や癌への抵抗性に関連する遺伝子が変化
 20年前にDFTDが発生した前後の294個体のゲノムを詳細に比較したところ、ほんの4〜6世代の間に、7個の遺伝子に種全体に及ぶ適応進化が起きていたことが明らかになった。7個のうちの5個は、哺乳類の免疫力と癌への抵抗力に関連する遺伝子だ。
 一般には環境の激変や流行性の疾病などに対応した有益で持続する遺伝形質の獲得による生物種内の進化のプロセスは、長い世代をかけてゆっくり進行すると考えられている。そのため多くの生物は、この激変に適応できず、絶滅へと至る。
 ところが今回のタスマニアデビルについての研究報告は、種を救う可能性のある遺伝的変化が、まさに我々の目の前で起きている稀有な事例となった。研究チームは、この結果を得て「嬉しい驚異」だったという。

◎20年間で全個体群に広がり、80%もの個体が失われた
 僕がタスマニアデビルを襲うこの奇病を知ったのは、NHKのネイチャー番組『ダーウィンが来た!』でだったが、この間にチームの研究が進んでいたのだ。
 ストーファー博士によると、DFTDの致死率は100%に近いという。そして採食と頻繁な相互の噛みつき行為により、DFTDは瞬く間にタスマニア島全体の95%に広まり、既知の個体群のほぼすべてに感染、タスマニアデビルの個体数を全体で約80%も減少させた。これほど急速にDFTDが全個体群に広まった遺伝的な基礎は、8000年間の本土から孤立していたことで、遺伝的多様性が著しく損なわれていたからだろう。
 その結果、個体数はかつては全島で25万頭を超えたタスマニアデビルは、今、野生状態で残っている個体はわずか数千頭にすぎないと考えられている。

◎有性生殖の賜
 それでもしぶとく数千頭は、生き残っている。その主因は、むろん2年前の日記で述べた有性生殖のおかげなのだが、ストーファー博士らは具体的な遺伝子レベルでの解明を目指して研究に着手し、20年以上にわたって収集された数千に及ぶ組織サンプルの遺伝子データを分析して上述の結果を得た。
 タスマニアデビルの生態から考え、DFTDに科学者が気づいたのは、発生してほとんど間がなかったと考えられる。すると、発生後にほどなく個体群内に遺伝子の突然変異による抵抗性個体が現れ、それが自然選択で個体群全体に広まったことになる。これもまた、自然淘汰を早める役割を持つ有性生殖の賜なのだ。

◎母数が大きかったことが幸いした
 今、生き残ったタスマニアデビルは、ほとんどが抵抗性を有するはずなので、緩やかではあっても、ほどなく個体数を回復させていくだろう。嬉しいニュースである。
 これも、母数が25万頭という数の多さのおかげである。これが既に数千頭レベルに減っていて、そこにDFTDが発生していたら、抵抗性を持つ個体が選択される以前に絶滅してしまったであろう。
 なおDFTDに罹ったタスマニアデビル個体の痛ましい写真は、2年前の日記を参照。

昨年の今日の日記:「アメリカ民主党の大統領候補に最有力だったヒラリー・クリントン氏が急失速、2位の社会主義者が急追」
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