上野オークラで荒木太郎監督の新作「色慾怪談 ヌルっと入ります」。「牡丹灯篭」のピンク映画化。先々週上映された深町章監督作と同じで、夜な夜な訪れる女幽霊は、成人映画にしやすいのだろう。
お盆の祭りから始まる。正月みたいに獅子舞が出ていたり、照明が奇妙だったり、異界の入り口が開く感じを出している。去年までのＪホラー風作品から、今年は古典的な怪談。主人公は教師で、自費で引きこもりや貧困の子どもたちの学校を開く予定。引きこもりの男の面倒も見ている。幽霊に魅入られた主人公を助けようとして、多くの人が祈る。この世界に必要な人である。
それでも女幽霊は、主人公を強引にあの世へ連れて行こうとする。幽霊はかつての教え子であり、主人公はあっさりと幽霊を家に招き入れる。もしかしたら、以前２人には関係があったのか、だから不幸な人生だった幽霊は、唯一の幸福な記憶である主人公に固執するのか。ピンク映画版「害虫」か。
これは深読みのし過ぎだろうが、想像させるのは楽しい。引きこもり男が金で裏切るのも、今の時代は説得力あり。しかし夢オチの場面など、変な寄り道やドタバタがあったり、演出に乱れが見える。シンプルに怪談とした深町組の方が雰囲気があった。
光音座で加藤義一監督の新作「シーサイドバラッド」。恋人をガンで失った主人公。冒頭の繰り返す留守番電話で、死の前に喧嘩していたことがわかる。そしてヘビースモーカーだったらしく、煙草を止められなかった後悔もあるのだろう。喪失感から自分を慕う若者にも冷たい態度を取ってしまう。
主人公は、恋人との思い出の場所であり、恋人がかつて付き合っていた男がいる海辺の町へ向かう。
話は主人公の「喪の仕事」。しかし、主演俳優の台詞が聞き取りにくい箇所があったり、その心情もなかなか伝わらない。むしろ、かつての恋人である民宿の主人、そこの従業員である女性の気持ちの方に肩入れしてしまう。俳優の力量の差だろうか。
それに恋人が遺した子どもは、この女性なのか、町の青年なのか。その不鮮明さも気になる。風景の美しさ、女性が主人公に心情を語る場面、そして若者に対する態度の変化と、かつての幸せな記憶であるラブシーンの長いカット。いい場面は多く見られた。
「兄貴と俺�掘々イ�と言えなくて」も、加藤監督の旧作。ゲイである主人公は、幼なじみであり、会社の上司である男に憧れている。しかしゲイであることがばれ、気まずい関係に。２人は雷に打たれ、精神が入れ替わってしまう。
このパターンの映画はよくあるが、憧れの存在と入れ替わるのは珍しい。大喜びした主人公は、さっそく鏡を見ながらオナニーする。この場面は笑った。キャラクターの違った２人が入れ替わる可笑しさだけでなく、仕事一筋だった男は、主人公に女性の気持ちを教えられ、婚約者との関係がよくなる。主人公は、仕事の面白さを知る。
お互いを理解することで、新たな視野が開ける面白さ。幕切れも清々しい。このシリーズは意外や楽しめる。
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