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2015年11月15日11:04

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お菓子ぃはなし その2、チーズケーキ

 「カシス・フローマジュ!」 …と、いうのは映画『洋菓子店コアンドル』のなかでのセリフ。オーナーシェフの戸田恵子さんに、ヒロインの修行中パティシエールである蒼井優がつきつけられる課題なんですね。この時の戸田恵子さんがカッコいいんだw

 は、いいけど「カシス」はともかく「フローマジュ」って何? なんか妙に優雅な響きだけど……で、調べてみたら、なんのことはないフランス語の『チーズ』なわけです。つまり「カシス・チーズケーキ!」というのが課題の正体だったわけである。
 映画見てて判らないのか? とか思われそうだけど、これがちょっとパッと見た感じチーズケーキとは思われないような美しさなんですな。表面はカシスゼリーのキラキラとした光沢を放ち、そこになんか細工物かフルーツかなんか添えられてたと思う。もうそうなっちゃうと、ちょっとパッと見ても判らない。

 カシスゼリーの美しさという点では、「ミロワール・オ・カシス」なんて一品が有名。この「ミロワール」が何かというと、これがフランス語の「鏡」つまりミラーなわけですね。いやあ、何かにつけ優雅な響きだフランス語。これだけで妙に文化的な香りがするから不思議だ。
 ミロワール・オ・カシスは、名前の通り表面を美しいカシスゼリーで覆っていて、これが鏡のように光沢を放っているわけである。ただし中身はチーズケーキではなくて、スポンジケーキとカシスのムース。そこがカシス・フロマージュと違うところか。

 思い返すと僕は、子供の頃はチーズケーキが好きな子だった。乳製品がダメで牛乳飲むとお腹壊すくせにね(爆)。なんでかっていうと、あの白一色のシンプルさが「カッコイイ!」という僕の美観にあっていたのである。
 余談なんだけど、僕の美意識は「シンプなものが上品で優雅」という妙なこだわりがあり、寿司ならイカ、うどんなら釜揚げうどん、そしてケーキはチーズケーキと、妙に白一色とシンプルなものに惹かれていた傾向がある。まあ、今じゃあ別にそんなこだわりはないのだけど。

 チーズケーキというと、レアチーズケーキというのがいつの頃からか登場して、それが僕のなかで大ヒットだった時期があった。普通のチーズケーキより柔らかくてなめらかで、より上品な気がしたものだ。
 で、『レア』ってのは何かというと、「火を通してない」ことだそうだ。主にゼラチンなんかで固めるのが主だが、それ以外の方法もある。対して火を通してるのが『ベイクド』。ベイクド・チーズケーキといったら焼いてるわけである。これに加えて『スフレ』というのがある。これは何か?

 スフレというのは、卵白を泡立てたもの(つまりメレンゲ)を混ぜてるものだ。これで焼くとフンワリとした感じになる。スフレチーズケーキといったら、メレンゲが入ってるということである。驚いたのはこのスフレチーズケーキ、どうやら日本発祥らしい。海外では「日本発チーズケーキ」として紹介されるという。
 スフレ自体は料理でも使うしチョコベースでも使うので、それは輸入である。が、それをチーズケーキに使う、というのが日本発ということらしい。苺ショートもそうなのだけど、日本人の柔らかふんわり好みが、ここでも出てる気がする。

 で、ここに来て『こだわり五種のチーズケーキ』なるものをこの前食べた。またで申し訳ないがシャトレーゼの新商品なのである。五種、とあるのはチーズの種類。それ以前に形態が三種類あって、上からレアチーズ、クリームチーズ、ベイクドチーズを重ねており、この素材に五種類のチーズを使っているのである。
 フランス産クリームチーズを使ったレアチーズ、挟んであるのはブルターニュ産チーズ、ベイクドチーズにはマスカルポーネチーズとゴルゴンゾーラチーズを使い、最後に上からパルミジャーノ・レッジャーノをかける。

 パルミジャーノ・レッジャーノをかけるとかいうとパスタみたいだけど、僕はあれはあまり好きじゃない。なにか「ここにチーズあり!」みたいな猛烈なチーズ臭が漂い始め、チーズ好きな人はいいかもしれないが、パスタソーズの香りや味わいを損ねる気がして僕は好まない。
 ので、この五種のチーズケーキも最後に粉チーズをかけてるところが気になったのだけど、思い切って食べてみた。…ところが、これが非常に美味かったのである。

 あのパスタ的なチーズ臭はまったくせず、スィーツとしてのチーズケーキの甘い香りだけが漂い、パルミジャーノ・レッジャーノはまったく邪魔にならない。そして上からレアチーズを切り分けていき、真ん中のクリームチーズと底辺のベイクドチーズのそれぞれの食感の違うチーズケーキを一度に口にした時の驚きたるや!
 ……いや、だからね。これで360円とかだと、個人パティスリーがやっていけないというのだよ。大体、見かけと値段以上に手が込んでるし、しかも甘さの抑え具合が絶妙で、しかも口どけのよさときたら想像以上。騙されたと思って、チーズケーキそんなに好きじゃない人にも食べてほしい一品である。

 さて、冒頭でとりあげた映画、『洋菓子店コアンドル』だけど、こちらも騙されたと思ってみてほしい映画である。昨今稀にみる、しっかりとした作りのいい作品だ。スィーツの美しさもさることながら、特にスィーツに興味がなくてもドラマとしてしっかりと見られる映画である。
 田舎(鹿児島)から、いいなづけを探しに東京に出てきた蒼井優が、ひょんなことからパティスリーで働き始め、そこに今はスィーツ作りを止めてしまった元天才パティシエの江口洋介がからんでくる物語である。

 最初は気楽な恋愛映画かと思って見始めたのだが、そんなアホっぽい映画ではなく、きちんとした人間模様の織りなす作品だった。「カシス・フローマジュ!」は、厳しい常連客である加賀まりこに対して出すようにと、戸田恵子が蒼井優に命じた一品。「お代はいりませんので、食べてみてください」と出された蒼井優の品に、「まだまだね」と加賀まりこはダメだしをする。そんなやりとりのなかの加賀まりこと戸田恵子がとてもいい。
 そしてこのダメ出しをされた一品を、元天才パティシエである江口洋介が来店した時も、戸田恵子は蒼井優に作らせる。「え〜、ダメですよぉ」と渋る蒼井優に、それでも戸田恵子は作らせる。やはり江口洋介からもダメ出しで、蒼井優はその理由を立ち去ろうとする江口洋介に駆け寄って尋ねる。

 「そんなに人のスィーツに文句つけてないで、自分で作ったらいいじゃないですか!」と逆切れする蒼井優に、江口洋介は「……俺には、スィーツを作る理由がもうないんだ」と言って去る。このねぇ……江口洋介がなんともいえずいいのである。ぶっちゃけ、江口洋介に肩入れしすぎて見てる最中に泣いてしまった。
 それにしても、この作品での蒼井優のスィーツを作る手さばきが凄い! 実に見事としか言いようがなく、きっとこの作品のために専門的な訓練を受け練習したんだな、と思った。この人は『フラガール!』の時もそうだが、半端じゃない練習でその動きを再現する。凄い女優である。

 そういう技術的な表現もさることながら、蒼井優の演技力というのは本当に凄い。この田舎娘で物おじしないヒロインのキャラクターの魅力が見事に立ち上がってくる。人間としての造形がちゃんと際立っていて、自然でありながらも特徴的な印象を残すのが本当に素晴らしい。蒼井優は、今、僕が一番評価する女優さんかもしれない。
 蒼井優と江口洋介、戸田恵子というしっかりとした役者によって、この作品はキリッと引き締まった出来になっていて、とてもよかった。ちなみに『コアンドル』というのは、coin de rue=街角という意味だそうである。この作品とともに『カシス・フロマージュ!』は、僕のなかでしっかりと記憶に刻まれたのであった。
 

 

 
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