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2015年11月08日10:40

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お菓子ぃはなし  その1、ショートケーキ

 なんだか判らないが、最近、スィーツにハマっているのである。食べるのはもちろんなのだけど、結構、周辺話が面白い。何よりスィーツの、あの芸術的な美しさと甘美な奥行きが同居する優雅さが文化的でいい。そんなわけで、つらつらととりとめもない事を書いてみるか…と思う。

 まずスィーツを調べ出してからの最初の驚き。それは……

  『苺のショートケーキは日本オリジナル』

 ということ。つまり位相としてはアンパンとかあんまんとか、メロンパンとかと同じ…ということである。

 え? ケーキは西洋由来でしょ? と当然、思うわけだ、こちらとしては。苺のショートケーキなんて、『洋菓子』の象徴みたいなものじゃん! …けど、『苺のショートケーキ』なるものは、あくまで日本オリジナルなんですな、これが。

 スィーツの本場というのは大体フランスなんだけど、このフランスで苺を使ったケーキというと、『フレジェ』というものの方が一般的なのだそうだ。で、このフレジェとショートケーキの違いは何かというと、それはフレジェがバタークリームを使ってるのに対し、ショートケーキが生クリーム仕立てなこと。ショートケーキが柔らかいスポンジ生地だけなのに対し、フレジェが固めのビスキュイ生地を使ってること。特にこの生クリーム単独、ってのがオリジナルなのだ。

 漫画『西洋骨董洋菓子店』のセリフで、こんなのがある。
「ショートケーキって日本特有のケーキだよね、フランスに生クリームだけを生地と単独で組み合わせたケーキって、ほとんど……って言うか無いと思う」
 だって。ちなみに、一枚目の写真が苺ショート。二枚目がフレジェ。フレジェの中に詰まってるのがバタークリームなのが、よく見ると判る。

 しかし奥さんもそう言ったのだけど、「バタークリームってあんまり美味しくなくない?」という印象が日本だと強い。どうも、あまり質の良くないバタークリームが広まったせいで、バタークリーム自体の印象が悪く、当然ながらそれを使ったフレジェも苺ショートほどには浸透してないのが現状というわけだ。

 で、そもそも苺ショートってどうして生まれたのか? これが諸説あるらしく、コロンバン創業者の門倉国輝が発案したとか、いや不二家創業者の藤井林右衛門だとかいうのだが、とにかくショートケーキを広めたのは不二家、ということでは間違いないらしい。

 不二家がショートケーキを販売したのが1922年(大正11)のことである。一個八銭だったらしい。これもいわゆる『大正モダン』の流れの一環とみていいだろう。ただ、この頃のショートケーキはバタークリームを使ってたらしく、フレジェにむしろ近い。フレジェと違う点は、フレジェがビスキュイと言われるビスケットとケーキの中間くらいの素材で挟むのに対し、日本のものは最初からカステラ風のスポンジ生地だった点だ。

 じゃあ、生クリームになったのはいつから? 大正13年にアメリカのデラバル社製の遠心分離式生クリーム製造機が輸入され、本格的な生クリームが国内生産できるようになったと、とある記事にある。で、究極的な話をすると、今の形にショートケーキが決まってきたのは戦後…ということのようだ。

 で、です。つまり、苺ショートというのは、日本オリジナルなんですね、繰り返すけど。なんでこれが重要かというと、このことが『フランスで修行したパティシエでも、苺ショートが美味しいとは限らない!』…という事実に直結するからである!

 実はちょこちょこと、近隣の人気本格パティスリーなんかを覗いて買い物するのだけど、どうもその時の「苺ショート」がいまいちなのだ。タルトなんかが凄く美味しいお店なのに、苺ショートはケーキが固くて乾いていて、クリームにまろやかな甘味が欠けてたりする。けど恐らくそれは「本格」であるが故、ではないかと思うに至った。

 苺ショートに使うケーキ生地は「焼き菓子」という分類になるのだろうか。とにかく、固くてパサパサしている。恐らく、それが本場風なのだろうが、はっきり言って日本人の好みにあってない。日本人の好みに合わせて、ビスキュイ生地をケーキ生地に変えた人は本当に天才だと思うが、文化の伝搬と浸透の関係をここに見事に見ることができる。

 で。結論から言うと、今まで食べた苺ショートで今のところ一番美味しいのは、驚いたことに「シャトレーゼ」のケーキだ! こう言ってはなんだが、本当に高級ホテル内のパティスリーとか、有名人気店の苺ショートと食べ比べた挙句、一番安いシャトレーゼのケーキが美味い。他のケーキはともかくとしても、苺ショートはなかなかシャトレーゼを越えられない。不思議だ。

 このことは4歳のくせに舌がおごっている娘の行動にも如実に現れる。娘は苺ショートが好きで、大体、苺ショートを買って帰るのだが、他店のものだと途中で飽きて、僕のチョイスしたムースとかタルトとかを途中で奪う。けど、シャトレーゼのときは最後まで落ち着いて食べているのだ。

 シャトレーゼの苺ショートは、ケーキ生地がしっとりしていて、クリームがふわふわだ。この感じが「日本人の好み」なんだな、と思う。しっかりとそこを狙って商品開発してる上に、値段が安い。しかしHPを見ると、素材を各地から厳選して取り寄せてる(特にチョコなどはベルギー直輸入らしい)ようで、素材選びには力を入れてるようだ。

 つまるところだけど、それはシャトレーゼが大企業だから大量に仕入れて大量に生産できるからの技で、これを個人パティスリーがやったら到底、採算が合わないだろうと思うのである。しかしこのコストパフォーマンスであれだけの味を実現されちゃうと、結構、個人パティスリーは勝負が大変…とか思うのだ。

 まあ、個人の好みも多様化して苺ショートだけがケーキじゃないから、他店も充分に勝負の余地があるのだろうけど。けど、僕の好きなアニメ『夢色パティシエール』の主人公は、「天野いちご」。いちごちゃん、である。やっぱり苺ショートというのは、日本人にとって「ケーキの王様」とも言うべき、一つの象徴的存在だと思うのである。


 
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