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2024年04月30日05:57

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はるか信州より 母の手術

話しは年末まで遡るのだが、母が足がむくむので内科に行った。そしてそこでレントゲンを撮ってみたところ、医者の方が慌てた顔で言ったというのだ。

「今から救急搬送します!」

 ビックリである。どうした事かと思ったら、レントゲンの映像で心臓が物凄く膨れ上がっていたのだ。後で僕も見せてもらったが、その心臓の影が四倍くらいにはなっていたろう。とにかくこれは大変だというので、すぐにそこから大きな総合病院へと救急搬送された。そして即入院である。

 で、よく調べてみた結果、水が溜まっているのが判ったというのだ。心臓は心臓膜という膜に包まれているのだが、その膜と心臓との間に水分がいっぱい溜まっているというのであるその水を針を刺して抜く、という治療が必要であるという事だった。

 これが年末の事であり、母が入院したので正月を一緒に過ごそうという計画が駄目になった。それで母が注文したお節をマンションで待ったり、母が最初にかかった病院に車を取りに行ったり等々、色々雑事をやった。

 まあしかし、この水抜きの治療は年明けに無事に終わった。しかしそこでさらに新たな問題が発覚したのである。この水が何故たまったか、という原因を調べるためにカテーテル検査をした。造影剤を流し込んで、心臓周辺でどういう風に血が流れているか調べたのである。

 簡単に言って心臓には三本の太い血管が張り付いており、そこからマスクメロンの網のように毛細血管が表面を覆っているのである。真ん中に一番太い血管。そして左右の血管は裏側に毛細血管を張り巡らせている。

 なんと母の心臓は、このうちの二本までもが途中で詰まっていたのだ。特に中央の一番太い血管は、かなり根元の方で詰まっている。造影剤による撮影を見ると、どくどくと収縮する心臓の周囲を白く見える血液がびゅうと流れていくのだが、その太い血管のところだけ、途中までしか流れないのだ。

 そして左右のもう一本の方も、もう少し先の方で詰まっており、裏側に当たる部分が血液が流れていなかった。つまり母の心臓は、血液が十分流れない状態で活動しているのである。これで「苦しくなかったです?」と医者に訊かれると、母は「いえ、特には」と平気なものである。

 これには実は、自然というか人体の不思議が絡んでいた。中央の太い血管と右(左かも)の血管が途中で止まっている分、残りの一本の血管が、実はもうちょっと先の方まで伸びていたのである。メロンの網を多めにかけた感じだ。このもう一本の血管が補っていたので、母は日常生活では不足なく過ごしていたのである。

 医者が言うには、昨日今日でできる状態ではなく、長い時間をかけてその毛細血管が不足を補うように伸びて行ったのだろう、という事である。無論、詰まる方もいきなり詰まったわけではあるまい。徐々に詰まっていくのを、徐々に補う。そういう人体の不思議が作用したのだという。

 話を聞いて、すぐにブラックジャックの『時には真珠のように』を想い出した。それはブラックジャックの師である本間丈太郎が、少年のブラックジャック・間クロオを治した時の事だ。

 本間丈太郎は大手術を成功させたが、実はあとで自分がミスをしたことを自覚した。なんと、少年の体内にメスを一本置き忘れたのである。すぐに取り出すべきだったが、そうなっては自分のミスも発覚してしまう。葛藤しつつも状態は悪くなることなく、ブラックジャックは術後に回復する。

 それが何年もたってから、本間丈太郎はブラックジャックを手術する機会を得た。あのメスは一体、どうなっていたのか? 何故、体内で臓器を傷つけなかったのか? 疑問に思いながら本間医師が見たのは、真珠のようにカルシウムの殻に包まれたメスであった。

 人体が自分を守るために、カルシウムの殻をつくりメスを包んでいたのだろうと本間丈太郎は推察した。時にはそういう人知を超えたことが、人体では起こる。それが自然の大きさ、不思議さであり、医術をはじめとする人の知恵など、その神秘に比べればごく小さいものである、と。

 …いうのが、『時には真珠のように』の話だったのだが、その母の伸びた心臓血管の話を聞いてすぐに思い出した。帰りの車の中で聞いたら、一緒にいた奥さんもやはりこのエピソードを想起したという。確かに、驚いた話であった。

 で、その血管が詰まった分、十分に血液が足りてない状態では危ない、というので母は心臓バイパス手術をすることになった。なんか説明を聴いたところによると、あばらの裏側に流れている血管を一本剥がして、それを心臓付近へつなげる。それからもう一本、下半身の方にも剥がしていい血管があるのだが、それがダメな場合は脛の裏あたりの血管を一本とって、心臓につなぐ、という事だった。

 手術中は人工心肺に繋いで手術を行い、大体4〜5時間かかるという大手術であった。もう、聴いてる方が驚くような大手術なのだが、先生の方は飄々とした感じで「まあ、夕方くらいには終わると思いますよ」くらいの平気な雰囲気なのである。どうも、そういう手術に慣れているらしく、『大』手術というより、『普段の仕事』的な範囲の感覚でいるようだった。

 が、まあ先生がそういう風なので、逆に安心はした。手術の日は「連絡さえとれるようにしてもらっておけば、立ち合いは入りません」と病院側がいうのである。手術が終わったら、全身麻酔がかかかったそのまま入院してしまうので、いても面会はできないという事だった。

 その母の手術が、22日の月曜日に無事終了したのだった。実は二本のバイパスのうち、一本は母の体内の状況が悪くて血管がとれなかかったらしい。けど、一番太いバイパスはつないだので、とりあえずは安心な状況になったようだ。残りの血管は、カテーテルで通りをよくする内科的治療に斬り替えていくということである。

 まあとりあえず、母の手術が無事に終わりホッとしたところであった。


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