mixiユーザー(id:492091)

2015年01月16日07:09

555 view

映画『激戦 ハート・オブ・ファイト』試写会レビュー

★★★★★特選
 何か見たことのあるストーリーだなと思ったら、2年前の東京国際映画祭で鑑賞済みでした。その時もとても感動してレビューを書いていたのです。前にかいたものに加筆する形で本作を紹介します。

 アンディ・ラウフィルムが製作した作品だけに、随所にアンディを彷彿させる人間味溢れる見どころが詰まっていました。
 格闘シーンでは、年齢を感じない激しさを描きつつ、人と触れあうシーンでは、暖かみがスクリーンに滲み出て感動の涙に誘われたのです。

 2年前に初めて見たときは、格闘技がテーマの作品とだけ受付で聞いていたので、『TEKKEN -鉄拳-』 のような試合で勝ち抜いていくことが中心の作品だと思っていました。
 もちろん格闘技シーンも大迫力で描かれてはいたのですが、ストーリーの大半は挫折した主人公の中年男が、どん底から再起していくヒューマンストーリーだったのです。
 ラストで一緒に暮らしていた母子家庭の娘を、母子を捨てて逃げた実の父親に引き渡す別れのシーンでは、大泣きしてしまいました。
 香港で大ヒットした作品だけに主人公が年齢的ハンデを超えて戦いに挑む理由が作られていく過程や、伏線となる母子家庭との交情、そして弟子となる青年の一途な奮起ぶりなど人間ドラマを上手くからませながら描き切った感動作品の仕上がっているのです。

 香港映画の中でも、派手な銃撃戦ばかり描いてきて、“銃撃戦キング”の異名を持つダンテ・ラム監督ではあったのですが、東京国際映画祭のティーチインでり監督の言い分は、飯の種でアクションばかり撮り続けてこざるを得なかっただけだったそうなんです。ホントは、本作のようなヒューマンドラマを撮りたかったのに、香港映画ではなかなか資金が集まらないのが現実なんだとか。
 それだけに、本作で語られる何度も何度も、どんなどん底からでも希望を持って立ちあがっていく登場人物を描くことで、多くの観客に希望と勇気を持って欲しくて、この映画をつくったことを強調する監督の暖かい人柄に、とても共感できました。
 ところで、ヒューマンドラマなのに格闘技がサブストーリーで入ってきたことについて、監督がいうには、自分が総合格闘技の熱狂的なファンだからということでした。

 さて物語は、主人公ファイは、かつてボクシング王者に2度輝いたものの八百長を働いた罪で逮捕されて、いまでは落ちぶれて借金取りに追われる日々を送っていたのでした。 食い詰めたファイは、母子家庭が暮らすアパートの一室にシェアして暮らすようになります。結婚したこともなく、家族もいなかったファイにとって、母子と共同生活は、まるで本物の家族のような安らぎに満ちた暮らしを送ることになったのです。
 このファイの大きな変化と母子との交情が丁寧に描き込まれていて、本作のヒューマンな持ち味を醸し出すポイントとなっていたのでした。

 一方ファイが雑用係として手伝っているジムに、練習生として通い始めたチーは、実力が全くないのに、命懸けの総合格闘技の大会MMAの出場をめざしていたのです。ジムで出会ったファイが元王者であったことを知り、彼に自分のトレーナーになることを懇願します。
 チーが、命も省みず総合格闘技に出て一攫千金を目指すのは理由がありました。大富豪の息子だったチーは、父親の会社が倒産して一文無しに。格闘技で賞金を稼ぐだけでなく、自暴自棄に陥ってしまった父親に、再起して欲しくて危険な挑戦に打って出ようとしたのです。試合会場に顔を見せた父親がリングのわが子と対面シーンは、感動的でした。

 ところで暗い過去は、ファイの弟子となるチーばかりでなく、ファイと共に暮らす母子も、背負っていたのでした。なぜ父親不在になったかというと、実は4年前に父親がそとに女性を作って出て行ったため。その結果母親はショックで酒浸りの日々となり次第に心が病んでいったのです。そればかりではありません。彼女には娘のほかに小さな息子もいたのですが、彼女が酔っぱらって寝ているうちに誤って洗面所で水死してしまったのです。
 結局、母親は一時期精神病院に入り、娘も施設に入れられ、最近やっとようやく二人の生活を取り戻したばかりたせったのです。
 このようにファイ近づく周囲の人間も、重いトラウマを背負って生きていたのでした。
 チーが格闘技大会で快進撃し、母子との本当の家族のような暮らしのなかで、ずっと孤独だったファイにとって一瞬の光明が見えてきます。
 しかしファイを追い回す借金取りに居場所を突き止められ、押しかけられたことから、母親は心の病を再発させて暴れて警察沙汰に。娘は施設に保護されて親子離ればなれにさせてしまいます。
 母親を気遣うファイは、チーの試合につかず母親の入院先に付き添っていたのです。そのためチーは、試合で敗北するばかりか再起不能な重症を負うことに。

 しかし、ファイは諦めませんでした。弟子を再起不能にした仇をとるべく、48歳になってしまったロートルの自らがロッキーよろしくMMAの出場を決意するのです。いや仇という名分よりも、八百長で引退を強要されて引退に追い込まれた負け犬の自分が許せなかったのです。チーの奮闘は、父親ばかりかファイの闘志に火をつけたのでした。

 ファイが挑戦を決意し、ストイックに練習に打ち込むときの表情は痺れるほどに格好良く、心から応援したくなるほど感情移入してしまいました。そして、試合シーンでの劣勢を大逆転する意外な伏線の張り方が良かったです。

 ところで信じがたいのですが、ファイ役のニック・チョンも、チー役のエディ・ポンも全く格闘技の素人なのだそうです。劇中の対戦相手は現役の選手。プロの選手相手にひけをとらない戦いぶりには驚きました。監督が語るには、約半年かけて肉体改造と格闘技のトレーニングを積んだそうです。特にエディ・ポンは最初はガリガリに痩せていたアイドル体型だったのが、格闘技のチャンピオンになるのにふさわしいマッチョマンに変貌していましたのです。

 チーを演じたエディ・ポンは、長らくアイドル俳優的なイメージだったのですが、ここでは完璧な肉体改造による肉体美を披露し、情熱に燃える実に男らしい青年に変貌を遂げていました。

 格闘シーンの描写も手抜かりはありません。9台のカメラをリングの隅々に配置。多彩なアングルから格闘シーンを捉えているので、リアルな格闘技の中継よりも迫力を感じることができました。格闘技ファンも大満足の映像です。

 本作の魅力は、再起をテーマにした脚本の良さと、程よい笑いを滲ませる軽めの演出。そして何よりも主演のニック・チェンの人間味が魅力的でした、加えて、娘役のクリスタル・リーの可愛らしさと抜群の演技力も素晴らしかったです。

●Introduction
 総合格闘技の世界に生きる男たちの姿を活写した、アクションドラマ。八百長でボクシング王者から転落した男と一文無しとなった男が、コーチと選手のコンビとなって総合格闘技で人生の再起を懸けていく。メガホンを取るのは、『密告・者』などのダンテ・ラム。『レクイエム 最後の銃弾』などのニック・チョン、『最後の晩餐』などのエディ・ポンが、ハードな肉体改造を経て主要人物たちを熱演する。本物の格闘家も参加した壮絶な試合シーンはもちろん、希望をテーマにした熱い物語にも胸を打たれる。

 2度香港ボクシング王者として君臨したものの、八百長に関わって全てをなくしたファイ(ニック・チョン)。借金取りから逃れるためマカオに来た彼は、友人のジムで雑用係として働くことに。ある日、チー(エディ・ポン)という青年が賞金欲しさに総合格闘技大会での優勝を目指してジムへやって来る。チーは富豪の息子であったが父の会社が倒産、酒に溺れる彼を抱えながら日雇い労働者として生計を立てていた。ファイがボクシングの王者だったことを知ったチーは彼にコーチを頼み、大会へと臨むが……。
[日本公開:2015年1月24日]

5 1

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年01月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031