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2015年01月04日14:54

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映画『王の涙 −イ・サンの決断−』作品レビュー

★★★★★特選
 李朝第22代国王で名君として讃えられてきたイ・サン。当然これまで数多くのドラマが韓国では作られてきたなかで、本作は実際に起きた暗殺未遂事件に焦点を当て、1日という枠の中で、さまざまな人物模様を描いた作品です。
 『24』みたいに時間表示され、時系列ごとに国王暗殺に向けた陰謀が着々と進行していく描写は、スリリングで2時間17分と長めの上映時間があっという間に過ぎてしまいました。

 本作の見どころとして、まず圧倒的な映像美が上げられます。それは単に美しい風景を挿入するだけでなく、一つ一つの出演者の所作、特にラストの暗殺者軍団とイ・サンが直接対峙する戦闘シーンに於いて、殺陣が美しかったのです。さらに様々なアングルから出演者の表情を切り取るカメラワークも素晴らしかったです。

 また、イ・サンを演じるヒョンビンがカッコイイ!イ・サンは年少期から自らの暗殺の危険を感じながら育ったため、常に身体を鍛えて武芸百般に通じていたのでした。
 そんなイ・サンを襲う強敵、暗殺者集団に近衛兵が次々倒されるなか、独り弓を持ち、強い意志をもって暗殺者をひとりまたひとり確実に弓で倒していく勇者ぶりが、堪らなく格好良かったです。

 もう一つ、暗殺に向けた伏線で、国王と敵対する宮廷内の最大派閥で老獪な老論派の憎たらしさがイ・サンの終盤の決断を引き立てていることです。中でも老論派と組んだ義理の祖母に当たる若くて美しい貞純王后の憎たらしいこと。イ・サンを屈服されるために、自分を毒殺しようとしたイ・サンの実母に死罪を言い渡すように強要するのですね。
 国王といっても父親は、反逆罪で処刑されるなど国内基盤の弱かったイ・サン。親の敵の老論派や貞純王后が目の前にいるのに、国王としてなにもできない無念さが幾度もなく描かれていくのです。その徹底した四面楚歌ぶり、絶体絶命のなかから、憤然と決起して暗殺者や政敵に対峙していくところが痛快なのです。
劇中で語られる「中庸」

 イ・サンを鼓舞したのは、儒教の四書の一つ『中庸』第23章の教え。劇中のイ・サン台詞として、『中庸』第23章は次のように語られています。
 小さなことも無視せずに最善を尽くさなければならない。
 小さなことにも最善を尽くせば誠になる。
 誠にいたれば、表面に染み出て、
 表面に染み出れば見えるようになり、
 表面に見えるようになると、たちどころに誠が明らかになって、
 誠が明らかになれば、人を感動させて、
 人を感動させれば、たちどころに世の中が動き出し、
 人が動くことで、天下は至誠へ通じていく
 だから、ただ世の中で至誠を尽くす者のみが
 己と世を変えることができる

 このように、偏りなく物事を進めて行くことが徳であり、それをモットーにイ・サンは自ら信じる政治を実現しようとしたのでした。
 このイ・サンのとても魅力を感じました。理想の政治とは、多数決で正義が決まるものではありません。たとえ少数意見でも、大局ののなかから私心を滅して、最大多数の幸福のために至誠を尽くそうとする人がトップに立つべきなのです。
 誠を尽くす点で、イ・サンに通じるのが吉田松陰でした。彼の熱誠はやがて松下村塾の塾生に広がって、維新を成し遂げ、近代日本を作り上げたのです。
 イ・サンとそれを演じるヒョンビンの強い至誠へリスペクトする清廉さも魅力を感じます。『王になった男』といい韓国の歴史映画では、理想の国王像が幾度なく描かれてきました。それは現代の歴代の国家トップがいかに元首としての徳が無いことからの渇望のようにも感じられます。

 ところで、本作をもり立てるもう一つの主役といえる暗殺者集団にも涙混じりに語られる悲しいドラマが用意されていました。
 驚くことに、暗殺計画は15年前から計画されていて、暗殺者となる集団も子供のころから誘拐され、『虎の穴』みたいなところに収容されて、厳しく鍛えられてきたのでした。 そのひとりは宦官となって王宮入りしたカプスでした、記憶力のよさからからイ・サンに重用されつつも、「今日殺主」と書かれた赤紙が見つかってしまい、囚われの身に。
 周りのが敵ばかりの状況で、義兄弟のような親密な関係だったイ・サンは、カプスが暗殺者のひとり知ってショックを受けます。納得がいかないイ・サンは、カプスに尋問するのです。年少期からの楽しかったふたりの思いでを一つ一つ思い出しながら、カプスにおまえはあの時私を殺そうと思っていたのかと尋ねます。苦渋の表情を浮かべながら、そうだと答えるカプス。なぜ苦渋だったかというと、その時既にカブスは、イ・サンを王として敬っていたからからです。
 たとえ素性が明かされても年少期から一緒に育ってきたふたりの主従関係の絆は、簡単には崩れなかった。そんな絆の強さを感じされてくれて、涙を禁じ得ませんでした。
 
 このあとカブスは、『虎の穴』時代の義兄弟と再会することになります。それは、命に代えても守ろうとしたイ・サンを殺しに来た暗殺集団の首魁だったのです。何という運命のいたずら。本作は、運命に翻弄される登場人物立ちの悲劇を描いて、人間ドラマとしてもグッと画面に引き付けられる傑作でした。ぜひお勧めします。

●Introduction
 『愛してる、愛してない』などのヒョンビンを主演に迎え、李朝時代の名君として有名なイ・サン暗殺未遂事件に隠された男たちの絆を描く感動の歴史ドラマ。暗殺の脅威にさらされる若き王が、自身に放たれた刺客と対峙(たいじ)することで真の王として目覚めるまでの24時間に迫る。『ホームランが聞こえた夏』などのチョン・ジェヨンが悲しき宿命を背負った宦官(かんがん)を好演。陰謀の行方はもとより、兵役除隊後初主演を飾ったヒョンビンの体を張った熱演にも目を奪われる。

ストーリー:1777年7月28日、即位から1年を迎えた李王朝第22代目国王イ・サン(ヒョンビン)は、常に暗殺の脅威にさらされていた。王は書庫と寝殿を兼ねる尊賢閣で不測の事態に備えてひそかに体を鍛え、そのそばには書庫を管理する尚冊として仕える宦官(かんがん)カプス(チョン・ジェヨン)がいつも控えていた。イ・サンは今は亡き先王への早朝のあいさつに向かい……。
[日本公開:2014年12月26日]

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