mixiユーザー(id:3696995)

2010年06月22日22:39

186 view

夜行観覧車

『告白』に続いて『夜行観覧車』読了。
デビュー作と最新作を続けて読んだことになるが、湊かなえという作家はすごい、という印象だ。
現在三作目の『贖罪』を読んでいるが、読者を引き込む筆力には恐れ入る。

『夜行観覧車』はそれまでの一人称叙述型ではなく、三人称で語られる。
それぞれの語り手による「事実」を元に事件を再構成していくと、主観の違いによる歪みが出てくる。その矛盾や誤謬が真実を解く鍵にもなるわけで、『告白』の場合は語り手が代わるたびに真実に近づいていく過程が非常におもしろかったのだ。これは『贖罪』にも言えるようだ。
一方で三人称叙述型だと、記述には客観性があるぶん、事件全体を俯瞰するという視点になる。つまり、登場人物をより細かく書き分けられるということだ。そして、もはや作者は事件の謎は二義的なものと捉えているかのように感じられる。
そう考えると、この作品はミステリーの体裁をとりつつ、ミステリーではない、とも言えそうだ。
『告白』の衝撃を期待すると肩透かしを食らった感じになるかもしれない。事件自体も、『告白』の幼児殺しや『贖罪』の美少女殺しに比べれば、妻が夫を殺すなど珍しくもなんともない。つまり、ありふれた(というのも妙な話だが)事件を背景に人が壊れていく過程を描いたものだと言えるだろう。
極端なことを言えば、『告白』は事件の真実を、『夜行観覧車』は事件の背景にある人間をテーマにしたということなのではないかと思う。
どちらが優れているというものではない。ただ、作者の見ていたところが異なるということだ。
だから、『告白』と同じような視点で『夜行観覧車』を論じるのはナンセンスなのだ。
普通の家庭の「人間」を描くには突拍子もない事件ではなく、むしろどこにでも転がっているような事件である必要があったということなのだろう。
感情の襞を丁寧に掻き分けていくような記述が冴えている。
ネタバレになるので多くを語れないのが残念だが、細かいところまで神経の行き届いた小説だという気がしている。身近にありそうなことなだけに「コワイ」とも言える。

この本、装丁がいい。
観覧車を模した表紙もいいが、ブックマーク用の紐がピンクと黄色の二本付いているのだ。こういうちょっとしたことが嬉しい。

最近は女流の活躍が目覚しいと思う。小説に限らず、音楽や美術の分野でも。
もともと男女による差はないと思うし、やはり女性が抑圧されていた時代が長かったということなのだろう。だから、別に不思議なことでもなんでもなくて、むしろこれからもっと女性が活躍することになるのではないだろうか。
喜ばしいことと思う。
0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する