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2010年06月06日22:34

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クララ・ハスキルというピアニスト

この作曲家の演奏だったらこの人だよな、というようなものがあると思う。
たとえば私の場合、マーラーならやっぱりバーンスタインだろうとか、ショパンは断然フランソワだねとか、バッハのフルート曲ならニコレで決まりとか、まあ決定番的な演奏家がいる。もちろんそれ以外は認めないなどという狭量なものではなく、ひとつの基準と言い換えた方が相応しいのかもしれない。時間の流れの中で決して色褪せることのない演奏とも言える。

モーツァルトならクララ・ハスキル(1895〜1960)。

そう言い続けてどのくらい経つのだろうか。
モーツァルトを得意とするピアニストは数多いが、その中で彼女はやはり特別なのだ。
亡くなったのが1960年だから録音状態があまりよくないのが残念だが、それでもその素晴らしさを感じるには十分だ。
薫り立つような演奏なのだ。
透明感の高い音色と、流麗なフレージング。
その身振りは決して大きくなく、どこまでも自然。
涙の跡も乾かぬうちに笑顔を浮かべる少女のようだ。
元気に弾むような明るさとは裏腹の微かな切なさ。
大見得を張るのではなく、そっと囁きかけてくるようなチャーミングなピアノの音。
私にとっては理想のモーツァルト演奏と言ってもいい。

しばらく前に、コンチェルトのライヴ録音を集めた4枚組のCD(写真左)を入手した。
曲は9番、10番、19番、20番、23番、24番、27番というなかなかの選曲。
共演している指揮者もすごい顔ぶれだ。カール・シューリヒト、アンドレ・クリュイタンス、フェレンツ・フリッチャイ、オットー・クレンペラー、往年の名指揮者ばかり。
音質はよくない。ブートレッグ並みだ。音は痩せているし、客席の雑音もたくさん入っている。23番の第1楽章の初めの方では音飛びのようなことが起こる。CDのせいではなく、マスターテープに原因があるのだろう。
それでも聴くべき演奏である。全て50年代後半の録音なので、彼女の絶頂期の演奏が聴ける。
このような馥郁とした薫りの漂うモーツァルトを演奏する人はもう現れないかもしれない。

もちろん、モーツァルトだけのピアニストではない。
ベートーヴェンやシューマンといった古典派やロマン派も得意としていた。
で、そんな絶頂期の録音を集めたアンソロジー・ボックス10枚組(写真右)を入手してきた。驚くべきはその値段。10枚組なのに、なんと1390円。激安も度が過ぎる。。。
詳細なデータが記されていないので、どのような状況での録音なのかはよくわからない。単発で出ているものとかぶるものもあるかもしれない。これから注意が必要だが、それでも彼女のピアノに関心があるのなら、間違いなく「買い」だろう。
モーツァルト、バッハ、ベートーヴェン、スカルラッティ、シューベルト、シューマンといったところがズラリと並ぶ。さらに珍しいことに、ドビュッシーやラヴェルも含まれている。

クララ・ハスキルは間違いなく歴史に名を残すピアニストである。
しかし、ユダヤ系であるがゆえにあの時代は苦労が絶えなかっただろう。さらに病弱だったり社交的でなかったりということが災いして、世界的な名声を得られたのは50年代になってからだった。
若い頃の写真を見ると、凛とした美少女だったことが窺える。若い頃の演奏も聴いてみたかったなと思う。

今年はクララ・ハスキルの没後50年にあたる。
命日の12月7日は奇しくも私の妹の命日と同じだ。そんなこともあって覚えている。
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