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2009年09月05日21:42

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三浦友理枝@さいたま芸術劇場

ホントに今年は彼女のピアノをよく聴いている。まあ、それだけの魅力があるということなのだが。
三浦友理枝嬢、新進のピアニスト。小柄でアイドルと見紛うばかりのルックス。しかし、そのピアノは硬派で技巧的。低音の鳴りがよく、しかも高音はクリスタルのような美音。さらにユニークなプログラミングをする。近現代の作品に造詣が深いのだ。スクリャービン、シマノフスキ、メシアン、と並べただけで普通のピアニストではないことがわかる。
このレパートリーを見れば私が注目するのも必然と納得してもらえるだろう。決してルックスに惹かれたわけではない。もちろんルックスがいいにこしたことはないけどさ。

01.ショパン:マズルカ第46〜49番
02.シマノフスキ:4つの練習曲
03.シマノフスキ:創作主題による変奏曲
<休憩>
04.ラヴェル:水の戯れ
05.ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
06.シマノフスキ:仮面
<アンコール>
07.ショパン:夜想曲第18番
08.ショパン:前奏曲第8番
09.ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

かなり硬派なプログラムだ。
一本芯が通っている。ショパン晩年のマズルカ(ポーランドの舞曲)から始まり、同郷のシマノフスキの初期作品(ショパンの影響が濃い)。そしてフランス近代印象派のラヴェルを経て、印象主義のイディオムを取り入れた『仮面』という流れ。

彼女のショパンは甘くない。ほろ苦なのだ。だからこそ深い。49番のメロディーの歌わせ方などは切なくて胸に染み入る。凛とした清潔な音。これは素晴らしい個性だ。

カロル・シマノフスキ、ポーランドの作曲家である。ま、20世紀の作曲家だ。わかりにくい前衛ではないが、無調でリズムが変則的というその時代の音がしている。エチュードと変奏曲はまだ調性感が残っているので聴きやすい。エチュードはすでに傑作。ことに第1曲の憧れに満ちたメロディーが印象的。変奏曲は今回初めて聴いた。モノローグのような翳りのあるテーマとそれに続く12の変奏曲。冒頭のメロディーからして聴かせる。変奏曲はそれぞれがわかりやすく、技巧的な面もある。彼女の演奏はスケールが大きく、しかも細やかに神経が行き届いていた。

得意のラヴェルは今年の彼女のリサイタルの核。『水の戯れ』は最高レベルの美音を要求される曲ゆえに、たぶん最も彼女に合う曲だろうと思う。磨き抜かれた美音で表現される、水のきらめき、水面の揺らめき。左右の手が交叉する場面も多く、視覚的なおもしろみもある。『高雅で感傷的なワルツ』はいい意味での遊び心が出てきたような気がする。基本的にマジメなのだが洒脱さが顔を覗かせるようになってきた。

さて、今回の目玉はシマノフスキの『仮面』だろう。これはホール側のリクエストなのだそうだ。なかなか勇気のあるリクエストだ。
『仮面』は彼の代表作といってもいい。神秘的でエキゾチックな雰囲気が濃厚。ラプソディのようでもあり、ノクターンのようでもあり、スケルツォのようでもあるという不思議な音楽。『シェエラザード』『道化師タントリス』『ドン・ファンのセレナーデ』の3曲からなる。
昔から大好きな曲なのだ。20世紀最高のピアノ曲のひとつと思っている。美音でないと魅力が半減する曲。しかも相当の技巧を要求される難曲。
一昨年のフィリア・ホールで聴いている。そのときも圧倒されたが、今回もやはり素晴らしい出来だったと思う。官能性には欠けるが、清潔感のある抒情性で際立っている。この難曲に「挑戦している」という感じはなく、すでに自家薬籠中のものとして余裕を持って弾きこなしているという印象を受ける。すごい演奏だ。相当なポテンシャルを持ったピアニストだということを改めて感じた。

アンコールはショパンのノクターン18番。この晩年に近い時期の思索的なノクターンが最近はお気に入りのようだ。プレリュードは次の仙台での全曲演奏の予告編だと解釈した。「楽しみにしててね」というメッセージ。そして、最後の最後で超有名曲『亡き王女のためのパヴァーヌ』ときた。低音の鳴りがいいだけに哀切度が高い。

ショパンもまだたくさんあるし、ラヴェルも『夜のガスパール』という稀代の名曲が控えている。スクリャービンも彼女の資質に合うだろう。リゲティあたりの現代曲も聴いてみたい。独墺系の曲をどう弾くかという興味もある。
そういういろいろな想像と期待をさせてくれるピアニストだ。

もちろん、難しい曲ばかりを演奏するピアニストではない。
ショパンの『別れの曲』や『幻想即興曲』、あるいは『英雄ポロネーズ』などの有名曲でも、それはそれは素晴らしい演奏を聴かせてくれる。

さて、来月は話題のトリオ(彼女に川久保賜紀嬢と遠藤真理嬢)を聴きに仙台に飛ぶ。ついでだからあと2本、彼女のソロ(ショパンの24の前奏曲)と、賜紀嬢とのデュオも聴いてくる。
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