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2026年01月10日22:29

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「Black Box Diaries」感想

 これは、第97回アカデミー賞で、日本人監督初の長編ドキュメンタリー映画部門でノミネートされた話題作。
 ジャーナリストの伊藤詩織が、自身の受けた性被害と、その後の告発と裁判の模様を、自身が監督して映画としている。

 2015年4月3日、ジャーナリスト志望・25歳の伊藤詩織は、思いもよらない被害を受ける。それは、TBS報道局への就職を目指す彼女が、TBSのNY支局長(当時)の山口敬之から受けた“同意のない性被害”だった。
 だが、彼女の告発は受理の段階から難航、何とか逮捕状が出されるまで行ったものの、山口は逮捕されず、不起訴となった。
 伊藤は実名を公表し、この事件と立ち向かうことを決意。警察の言う”ブラックボックス”をこじ開ける、彼女の戦いが始まる……
 フォト

 この映画だが、2024年には完成、アメリカ、イギリスなど世界60か国以上で公開されて、高い評価を得てはいたが、日本では公開が見送られて来た。それは、伊藤詩織の民事裁判で代理人を務めた弁護士らによる、本作での映像・音声の目的外使用(無許可利用)を咎められたからだった。
 然しながら、アメリカなど多くの国では、映画における公益性の高さを考慮して、無許可利用を容認する�爛侫Д▲罅璽后匹旅佑┐�一般的だ。だからこそ、本作の映像・音声利用には問題がないとして、米国映画アカデミー他、多くの映画祭で認められているのであり、日本の対応は不条理なものと思える――フランスでは、本作の日本公開を求める署名運動まで起きたと言う。
 尚、昨年12月からの日本公開に当たっては、指摘に対して映像・音声を修正した「日本上映版」が製作された。

 こうした騒動もあって、公開まで長い時間を要した本作だが、誤解を恐れずに率直な感想を言えば、これは「面白かった」。
 性被害、と言う重い題材を扱う本作だが、事件の後、刑事裁判と民事裁判、それに書籍「ブラックボックス」の刊行で、伊藤詩織自身、既に多くを語って来た、と言う想いがあるのだろう。本作は、彼女自身と、その感情を主に描いているように思える。
 事件の後、�犧欧了�人”とまで言われる性加害を受け、将来を絶たれ、告発も受理して貰えずに絶望して泣いてばかりの状態から、少しずつ味方を増やし、戦うと決めて立ち上がり、誹謗中傷や、圧力に心折られそうになりながらも、戦い抜く決意を固めて行く、その心の動きを記録した本作は、彼女の“癒し”を描くものでもあるだろう。
 日本社会や、メディアとも戦う覚悟で、挑戦的な言動をする一方で、記事で山口敬之の写真を見ただけでPTSDを発症してしまったり、会見のプレッシャーで寝込んでしまったりする、強さと弱さを併せ持つ伊藤詩織……そして、公の場での能面のような表情からは想像も出来ない、プライベートな場での柔らかな笑顔や、甘えた口調などの彼女の素が捉えられているのもよく、これは多くの人を魅了するだろう。
 これを自身で監督して映画にするのは困難であったろう、と思うし、同時に本作の編集には「小学校〜それは小さな社会〜」の山崎エマが携わっているのにも、なるほど、と思う。

 しかし、あらためて描かれるのは、日本の性犯罪対応の立ち遅れ。日本では、性被害を受けた女性の96%が自身で告発が出来ず、結果、性犯罪の約7割が表面化しないのだ、と言う……しかも、伊藤詩織が示すように、大変な苦労をして告発が受理されても、立件が困難、そして立件しても揉み潰されるのでは……彼女はそれでも諦めず、民事訴訟を戦い、最後、最高裁で勝利する――最初の裁判では注目されたものの、最高裁の判決に注目するメディアはなく、裁判所から出る彼女に投げつけられたのは、「アイドル気取りか!」と言う罵声のみ。(それを言うのが女性と言うのが……)
 そんな現状を変えるには、社会を変えるしかなく、だからこそ、彼女は民事裁判の後も、裁判で共に戦った仲間を失うとしても、こうして戦い続けるしかないのだ。

 映画は、最高裁判決の後、帰路につく車内で、ディスティニーチャイルドの「サバイバー」を歌う彼女の映像で終わる。
 �犧欧了�人”を乗り越え、生き残った彼女の笑顔と歌声には心揺さぶられるし、その、ひとつの勝利に胸が熱くなる――しかし、彼女の戦いはまだこれからも続くのだが……
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