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2025年11月17日22:20

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映画『長崎 閃光の影で』

『長崎 閃光の影で』(日本)
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お盆休みの早朝上映では親子連れの観客が目立ちパンフレットは完売。戦争体験を世代を超えて継承させる現場に立ち会った気持ちになった。原爆投下後の長崎で死線と向き合いながら必死に生きる3人の看護師候補生を描いた本作は、当時の日本赤十字社の看護師たちが被爆35年後になってまとめた『閃光の影で 原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記』という記録文学をベースに映画化されている。松本准平監督は長崎出身で、自らを被爆三世と明言している。残すべき証言を映画という手法で具現化し、人間が極限状態でどう生きていたかを痛切に語る。
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太平洋戦争末期、看護学生で幼なじみ同志の田中スミ(菊池日菜子)、大野アツ子(小野花梨)、岩永ミサヲ(川床明日香)は、空襲による休校のため長崎に一時的に帰郷。再会した家族と過ごし始めた日々の直後、一瞬の閃光とともに原爆を投下された。廃墟と化した長崎の街で、自分の家族の消息もつかめないまま、彼女たちは看護学生としての使命を果たすべく医師や先輩看護師たちと合流し、想像を絶する現場に巻き込まれていく。
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ワンシーン=ワンカットと思われる撮影手法は、現場にカメラが1台しかないような緊張感がある。記録文学の映像化は忠実さと創作性のバランスが難しい。惨状の描写や仮設病院での場面は過剰な過激描写を避けており、あえて「親子で見られる基準」にとどめていることが伝わってくる。
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焼け野原の粗いCGや、被爆者の負傷メイクには不自然さがあり没入感を削ぐ。人体から蛆虫が沸いているのをワンカットだけ映すシーンがあるが、生々しさを中途半端に制御するようなスタンスは、写実を徹底すれば強烈なトラウマを残しかねないため、その境界線をどう引くかという選択に葛藤した監督の証跡を感じる。
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特筆すべきは終盤の回想で、実際の原爆投下記録映像を使う場面。それは過去と現在の断絶が一瞬でつながり、それをスミが悪夢から目覚める場面に重ねることで、被爆体験者が生涯にわたり夢に苛まれる現実を突きつける。音響の爆発音が強烈に残響し、映画的効果以上に歴史的証言の持つ重みを感じさせる瞬間。この演出を観ると松本監督はこの作品の虚構部分の限界を自覚しており、それをこのシーンで打破しているのだと感じた。
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各エピソードが断片的で統一感に欠けるのは、35年を経て書き残された手記そのものが断片的だからなのかもしれない。だがそれを逆手にとって挑発的な演出を唐突に織り込み、揺さぶりをかけてくる場面がいくつかあるる。「朝鮮人にやる薬はない!」という差別台詞を真正面から言い放つ婦長(水崎綾女)は“愛国の鑑”として描かれながら、戦後すぐに米兵と戯れる変貌ぶりを見せる。威厳ばかりを前面にする軍人、疲弊して八つ当たりする医師、逃げ出す看護婦等々、背景説明を避けたまま提示される悲痛な現場の史実は、観客の思考を強制的に呼び覚ます。
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見習い看護師アツ子を演じる小野花梨の存在感が際立つ。ここ数年で彼女を何作の映画で観たか数えきれないが、要所の場面ごとに印象を残す迫力がある。「あと1週間早よ負けとったら、みんな生きとった」の場面では予告編で使われている以上に絶妙で、言葉の刃が鋭く胸に突き刺さる。ミサヲとの口論の場面では、家族全員を奪われたアツ子の憎しみの怒りと、父を亡くしながらキリストの教えに従い「悔い改める者は許さなくては」と語るミサヲの信条がぶつかり合う。戦時下での倫理観の揺らぎが生々しい。
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菊池日菜子の演じるスミは成長譚としての要素を背負い、挫折から再生へと歩む姿が後日談を含めて丁寧に描かれることで物語に救済を与える。治療虚しく次々と死んでいく患者たちによって、日を追うごとに死への感覚が麻痺することから目を背けようと恋人と逃避行をするのだが、やがて戦場で唯一誕生した新しい命との再会に気持ちを託すことで、彼女は死を傍観する記憶を抱いたまま、生の継承者として生きていくことになる。
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現代のスミ役は原作手記を寄せた中で唯一の生存者・山下フジヱさんが特別出演。実際の被爆者世代を知る人々が少なくなる中で、この作品が公開される今という時代の切実さを象徴する。戦後80年となった昨今、国内外の政治情勢への危機感があるのなら、この映画が届けられたことを警鐘として捉えてもらいたい。
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