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2025年09月28日00:00

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映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』

『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』(韓国)
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作品タイトルとメインビジュアルから恋愛映画を想像したら大間違い。よく見るとキム・ゴウンはウェディングドレス姿なのに、隣で肩を並べるノ・サンヒョンはカジュアルスーツで視線は互いの反対方向。そこに添えられたコピーが「人生はありのままの君でいい。」ときてやはり恋愛ドラマか恋愛コメディを思わせる。しかし小さな文字で「“普通に馴染めない”ふたりが見つけた、最強の関係。」とある。これは5月に観た『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』に匹敵する確信犯的なミスリードであり、主人公同士の関係性にも共通点がある。個人的には断然こちらに感情移入できたが。
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冒頭、フライヤー通りウェディングドレス姿のまま屋上で煙草を吸うジェヒ(キム・ゴウン)。その印象はラストまでに大きく変わっていく。性格や性癖から「普通」の人生を歩みきれない男女が、それぞれの生きる糧として互いを必要とする物語。題材としてありそうで、実はほとんど描かれてこなかったストーリーに次第に惹き込まれる。無理解な世間の声や逃れられない苦しみに傷ついてきた人間が「自分を愛してくれる存在が近くにいる」というだけで立ち直れる。その精神的な礎となる「愛」は、男女の恋愛感情ではなく、非現実的に思える関係を堂々と描き切るところに本作の強さがある。
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ここで誤解されたくないのは「男女間に友情は成立するのか?」といった時代遅れなテーマとは違うということ。悪びれることなく甘酸っぱさや憎しみ、恋愛の酸いも甘いも超えたところにある赤裸々な青春模様を提示する。それは「友達以上恋人未満」といった安易なカテゴリーとも違う。ふたりは出会ってすぐに意気投合し、朝まで飲んで翌日も講義を受け、また飲みに行く——そんな開き直りの繰り返しが愛おしくて可笑しい。互いを労わり、励まし合いながら大都会で暮らす姿はソウルフルで、必死過ぎず、かといってお気楽でもない。その葛藤の積み重ねの果てに見えてくるのは、自分たちが本当に求めている幸せのスタイルとは何かという問いだった。
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ゲイであることを隠すフンス(ノ・サンヒョン)に「どうして“あんたらしさ”が弱みになるの?」とぶつけるジェヒは、マイノリティを肯定できない社会に対し、自由奔放さと無責任さの違いを鋭く突きつける。そもそも普通とは何なのか? 自分らしく生きる勇気さえあれば、ルールに縛られない生き方はもっと簡単なのではないか? そんなルームシェアの関係が10年続き、転機が訪れても互いの存在を確かめ合えるのなら、離れていても構わない。男女が深く思いが通じ合っているのに結ばれない関係が嘘臭くならないのは、脚本による緻密な積み重ねが効いているからで、小さな事件を巧妙に折り混ぜて、練りに練られた印象を受ける。
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例えば、序盤の変質者対策の会話が、終盤ではジェヒの婚約者である弁護士ストーカーの迷惑行為に繋がる伏線として回収される。助けに来なかったことを怒るジェヒと、行けなかった事情を抱えるフンスの大喧嘩のあと、結局「昨日なにがあったの?」とお互いに聞き合える関係性が尊い。相手の行動が期待通りでない怒りを覚えつつ、互いの異変を見逃さず一緒に怒り悲しむことができる——この繊細な関係性がとても心地よい。
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これを友情という陳腐な言葉では片付けられない複雑さ。フンスの母がゲイを病気と罵った日に観ていた映画が『君の名前で僕を呼んで』だったというディテールも涙腺を揺さぶる。極めつけは、産婦人科から出てきたジェヒにフンスがかける一言。そう来るか、と唸らされる展開から、物語は結婚式でのフンスのダンスへと収束し、ジェヒが見せる複雑な表情が切ない感動を呼び起こす。本作は『君の名前で僕を呼んで』のように、性愛を介して“異質なもの同士の結びつき”を描くのではなく、恋愛という枠を意図的に回避することで、もっと根源的な「関係の可能性」を提示している。愛と友情の境界を曖昧にしているのが最大の特徴で、近年韓国映画が得意とする「マイノリティの生き難さ」を踏襲しつつ別のスパイスも効かせる。
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「抽象的でよく分からなくなるけど、会いたいという気持ちは本物だ」と語ったジェヒの言葉は冒頭で屋上に佇む彼女の姿と重なり余韻を残す。単なる感動や浄化作用にとどまらない。恋愛でも家族愛でもなく、あえて“名前のない関係”を肯定することで、映画は観客に「愛とは何か」「普通とは何か」を再考させる。社会的リアリズムの土台にポップで軽やかな語り口を持ち込み、従来のカテゴリーに収まらない人間関係の可能性を提示したバランス感覚は極めて新鮮で、新しいスタンダードの可能性を感じる。
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