横浜中華街で飲食店「揚州飯店本店」を運営する「Mia Vita」(岐阜市長住町)が自己破産申請を予定しているとのニュースが今月1日にありました→
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250902-OYT1T50047/
まぁ予定なので、現実に自己破産の申請がなされるかどうかは分かりませんが、特に何事もなければ、そのような運びとなることでしょう。
「揚州飯店本店」は、店員さんの指導のもと、肉まんと餃子の手包み体験をさせて貰えるというユニークなサービスを行っていて、それがなかなか好評だっただけに残念です(
https://ameblo.jp/waterwalkeratramen/entry-12378930195.html)。
自己破産が認められれば、多分、このサービスの存続は望めなくなり、この自己破産の申請を残念な気持ちで見守っている人は少なくないだろうと思います。
自己破産については、以前こちらの日記で触れましたが(
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1966043467&owner_id=22841595)、今読み返してみたところ、なんでこんな返すべきものも返さない債務者の逃げ得みたいな制度があるのかという意識が、少々、強く前面に出すぎているかもしれないと感じました。
そこで、大前提として予めことわっておきますが、借金を返済できる見込みのない債務者に、再度のやり直しのチャンスを与えるために自己破産の制度は絶対に必要です。もし、これがなければ、債権者から返済を迫られ続けて、追い詰められた挙句、ストレスから自殺する債務者は今よりはるかに多くなっていたことでしょう。また、債権者の側に問題があるケースも少なくないのに、責任だけは全面的に債務者に負わせるというのでは、しばしば公平を欠く結果になるとも考えられるのです。
そのためか、この制度に類似した制度は意外と古くからあり、日本においても江戸時代にはすでにあったようです→
https://note.com/riverv4180/n/nd365d28bb91f
事情はオランダでも同様だったとみえて、1675年に亡くなった画家フェルメールの未亡人カタリナ・ボルネスは自己破産しています。
もっとも、その背景にはフェルメール自身が(金額はそれほどではないものの)借財を遺して亡くなり、しかもカタリナとの間に14人もの子供があった(そのうちフェルメール死亡時に4人はすでに死亡していたが、8人は未成年)というカネのかかる事情もあるにはあったのですが、カタリナの実母マーリア・ティンス(←大富豪)が相当な知恵者だったという事情があるようです。
自己破産が認められると、破産管財人が指定され、債務者の下にある目ぼしい財産が競売され、その結果得られたカネが各債権者の債権額に応じて平等に分配され、債務者は(ペナルティは課されるものの)それで免責されます。このことは逆に言えば、債務者の下にある目ぼしい財産が少なければ少ないほど、債務者としては、債権者に支払う金額が少なくて済むことを意味します。
マーリアとカタリナの母娘(同居していた)がいつ頃自己破産制度を利用しようと考えたのかは分かりませんが、そういうわけで一方でカタリナは夫フェルメールが遺した目ぼしい財産(自作の絵の他、副業として画商を営んでいたので自作以外の作品も25点ほどあった)を売却して借金のカタに充て、他方でマーリアは、カタリナを援助しなかったばかりか、(カタリナの自己破産の必要性を強調するために)表向き強硬に返済を迫る債権者のひとりとして振る舞いました。
のみならず、マーリアは、財産の全てを孫たちに譲るという内容の遺言をフェルメールの没後間もなく作成し、しかも、譲渡する債券も土地も孫たちが成人するまで売却してはならないという条件まで付けました。こうすることによって、マーリアは相続される自分の財産が債権者から守られ、目減りすることなく孫たちの手に渡るように細心の注意を払ったわけです。
ここまで頑張ったのですが、フェルメールが遺した自作『絵画芸術』(上掲写真)はカタリナの下に残っていたので、マーリアはこの作品についてはカタリナから譲渡を受けたことにしました。
『絵画芸術』は、フェルメールの作品の中では、最も大きな作品で、それだけに当時経済的に疲弊していたオランダではなかなか買い手が付かなかったのか、あるいは、フェルメールの遺族が特にこの作品だけは手元に残しておきたいと考えたためかは分かりませんが、とにかく値段は高いはずなのに(フェルメールの絵は当時でも高く売れた)、なぜかカタリナの下に残っていたので、無理やり二束三文で売るよりは、ということで引き取ることにしたようです。
絵そのものの説明はこちら参照→
https://www.youtube.com/watch?v=yKZCz8J2LSc
ただ、危ないところではありました。債権者とはいえ、同居している債権者、債務者間のこの譲渡は認められないのではないか等のクレームが破産管財人ファン・レーウェンフック(人類史上初めて顕微鏡で微生物を観察した科学者。“微生物学の父”と呼ばれることもある)から付けられ、裁判のうえではちょっと揉めたからです。カタリナとマーリアはどうにかこの争いに勝ち、『絵画芸術』はこの時点では、フェルメールの遺族の手元に残ったようです。
当時のオランダの自己破産制度がどのようなものであったのか詳細は知らないので、確定的なことは言えませんが、ただ、マーリアらがしたことは一種の偽装工作と見ることもできるため、現在の日本の自己破産制度の下では認められない可能性が高いような気がします。それどころか、実質的には正直に所有財産の申告をしなかったとして、カタリナは刑事罰を受ける可能性すらあると思います。
こういう自己破産制度の利用を見ると、どうしてもなんでこんな債務者の逃げ得みたいな制度があるのかと思わざるを得なくなるんですよね。
なお、この時点では、フェルメールの遺族の手元に残った『絵画芸術』は、その後、いったん行方不明になったり、ナチスに狙われたりの有為転変を経て、今はウィーン美術史美術館に展示されています(『真珠の耳飾りの少女』等のフェルメール作品の展示で有名なオランダのマウリッツハイス美術館ではないんですね)。
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