『MEN 同じ顔の男たち』(イギリス)
アレックス・ガーランドを知るのは『わたしを離さないで』の脚本と総指揮から。続く『エクス・マキナ』が初監督となりA24とのタッグスタンスが確立し『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では、ついに全米に旋風を巻き起こすまで昇華させる。
時系列ではその前作になる2022年公開作品が『MEN 同じ顔の男たち』。結論から書くと本作は観る側を選ぶ圧倒的なカルトムービースタンスが貫かれており、脈略も乏しい映像インパクトに特化したシーケンスは公開当時に論争を呼んだ。男性が女性に対して行う無意識なハラスメントを、異常なまでに誇張してホラー映画にしてしまったキワモノ。伏線回収のセオリーすら拘らず、過剰な暴走は深読みの隙すら与えない。目覚めの悪い夢でも見たかの如く嫌な余韻を残すところはこの監督らしい。
冒頭は美しい別荘と田園風景に彩られ、草原の地平線と雲の隙間から除く青空とやがての満天の星空。散歩中に出くわすトンネルの無機質な雰囲気と個性、そこにジェシー・バックリーの声がこだましていく不思議な情景によって先への期待が高まる。ところがこの映画はその序盤で蓄えた美しさを囮に、観客の情緒を見事に裏切りまくるのだ。
離婚を決意させるほど嫌悪感を持った夫ジェームズ(パーパ・エッシードゥ)の死を目撃したハーパー(ジェシー・バックリー)は、傷心を癒すためイギリスの田舎町に屋敷を借りる。そこで出会うのが彼女の神経を逆なでする癖のある男たち。屋敷の管理人のジェフリーから始まり、神父、学生、警官・・・そして廃墟から現れた全裸の大男が屋敷に侵入する。ハーパーの周囲で起きる得体の知れない恐怖体験の正体は何なのか・・・

ダニエル・クレイグ版『007』でMI6=ビル・タナーを演じたロリー・キニアが、この街の男を全て演じており、どの役も不快感極まりない会話劇を仕掛けてくる。夫を死に追い込んだことを悉く責め立てる神父や、意味不明の論理で絡んでくる学生は、彼女の心身の解放阻止を狙って現れる。宗教的要素が絡んでいるようにも見えるが恐らく関係はない。ホラー映画の様相を呈しながら MEN=男の醜悪を曝け出すのが目的なのだろう。

男という生物を嫌悪させる内面的気持ち悪さはしだいに現実からかけ離れ、ここはハーパーの精神世界を隠喩しているという推測が頭を過ぎる。だがロンドンにいる友人との電話が現実に引き戻すように挟まれ、解釈の曖昧さは益々拍車がかかっていく。
夫の死が自殺か事故かの真相は闇のままだが、生前に「離婚するなら自殺して一生罪悪感を背負わせてやる」と言われてしまったハーパーの心傷は奥深い。執拗に付き纏われる歪んだ女性観に溺れる目障りな「MEN」を一刀両断していくクライマックスは、説明困難の異常描写が連続する。男が男を産み続けるマトリョーシュカ現象が究極の最終形態は、どれだけ咀嚼しても右脳では理解できない。恐怖に慄くハーパーだったが、異常現象の繰り返しに連れてその表情は薄れ呆れ顔になっていくのが面白い。半ば諦めたかのような虚無感を抱くのが答えなのだろう。女にとって男は有害でしかないという種族を窘めることを示唆した決着は、アレックス・ガーランド作品最大の問題作。これに比べれば『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は実に親切な作品だと思えてくる。
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